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- 内外経済ウォッチ『欧州~半病人化したドイツに新たな試練~』(2025年5月号)
ドイツが財政運営を大転換
構造不況に陥り、2年連続でマイナス成長に沈むドイツ経済。ロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアからの安い天然ガスを使い、高品質の製品を作り、世界に輸出する経済モデルが崩壊した。エネルギー調達費用の上昇で、企業の競争力が失われ、産業空洞化が進んでいる。頼みの中国市場では、中国製の電気自動車(EV)との競争に敗れ、販売不振に陥っている。高い技術力と勤勉な労働者が支えるモノづくり大国の面影はない。
厳しい財政ルールに阻まれ、機動的な財政出動ができなかったことも、景気の足枷となっている。欧州連合(EU)の一員であるドイツは、財政赤字を国内総生産(GDP)の3%未満に抑えるEUの財政規律に加えて、独自の財政ルールを持ち、財政収支を均衡化させることが基本法(憲法に相当する)で義務づけられている(債務ブレーキ)。
だが、低迷するドイツが急回復するとの観測が浮上している。2月の連邦議会選挙後に政権発足を目指す二大政党が大幅な財政拡張に舵を切ることで合意したためだ。改選後の新議会では憲法改正に必要な3分の2以上の賛成票が確保できないため、改選前の旧議会を緊急招集し、債務ブレーキを見直す離れ業をやってのけた。国防費の増加が可能となるほか、インフラ整備、デジタル化、気候変動対策などに充てる特別基金を創設する。

トランプ関税の影響が直撃
過去のハイパー・インフレの経験や、将来世代への借金の付け回しにつながるとの見方から、ドイツ国民の多くは、これまで厳格な財政規律を支持してきた。そのドイツが財政政策を大転換したことは、最近のドイツ経済や産業を取り巻く環境がいかに厳しいかを物語る。
ただ、このままドイツ経済が息を吹き返すかは予断を許さない。新たな脅威となっているのが、米国のトランプ政権による関税の大幅引き上げだ。鉄鋼、アルミニウム、自動車に25%の高関税を課すとともに、EU諸国に対しては20%の相互関税を課す方針を明らかにした。今後の交渉次第で何らかの軽減措置を勝ち取ることも考えられるが、EUは同時に報復の可能性も示唆しており、米国の再報復で更なる高関税を課される恐れもある。
米国はドイツにとってEU域外で最大の輸出相手国で、既にエネルギー高で失われたドイツ製品の価格競争力が、関税引き上げで一段と失われ、米国向け輸出が冷え込む恐れがある。米国はまた、中国に対して100%を超える高関税を課すことを決定し、中国はこれに報復関税で対抗している。中国はドイツにとって米国と並ぶ重要な輸出先で、中国経済の冷え込みもドイツ景気を下押しする。復活の狼煙を上げた筈のドイツだが、当面の間、厳しい経済環境に直面することになりそうだ。

田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

