DXの視点『AIでスピーチ原稿を書く時代』

柏村 祐

目次

1. スピーチ原稿作成の悩み

スピーチ原稿の作成は多くのビジネスパーソンが経験する業務である。会議でのプレゼン、セミナーの司会、各種会合での挨拶など、様々な場面で使用するスピーチ原稿は、正確な情報伝達や時間管理、一貫性のあるメッセージの維持を目的としている。そのため、聴衆の理解度や関心への配慮、説得力のある論理構成、聴きやすいリズム、話し言葉に近い自然な文体など考慮すべき要素は多岐にわたる。これらの要素を適切に組み込んだ原稿の作成には、経験豊富なビジネスパーソンにとっても相応の時間と労力を要するため、効率化が求められるところだ。

近年、AI技術の急速な進歩により、様々なビジネスプロセスで自動化や効率化が進んでおり、スピーチ原稿作成においてもAI活用の可能性が開けつつある。本レポートでは、ビジネスシーンにおけるAIを活用したスピーチ原稿作成の可能性と課題について検討する。

2. AIによる原稿作成の実態

AIによるスピーチ原稿作成の実態について、具体的な事例を用いて検証する。今回、部下の結婚式での主賓挨拶というスピーチ場面を想定した。

まず、AIに「入社3年目の営業部署に所属する部下の結婚式での主賓挨拶を作成ください」と指示したところ、AIは図表1のような原稿を生成した。

図表
図表

生成された挨拶文は一般的なものであったため、具体的なエピソードを加えるために、「配属当初は戸惑っている様子もありましたが、徐々に職場に慣れ、今ではチームのリーダー役を担っており、貴重な戦力になっているという誉め言葉を追加してください」という追加指示を出したところ、AIは図表2のようにブラッシュアップした。

図表
図表

以上のように、AIはスピーチの場面特性を理解し、適切な内容とトーンをもつ原稿を作成することができる。さらに、適切なキーワードを追加で提供することで、AIはより洗練された、場面に即した原稿も作成できることも明らかになった。

3. 人間とAIの新たな協働モデル

このような人間とAIの協働モデルでは、AIと人間それぞれの強みを活かしたアプローチが可能である。つまり、AIをスピーチ原稿作成の「下書き」ツールとして活用し、人間がその内容を精査・編集する役割を担うのである。

具体的には、AIが基本的な文章構造や一般的な表現、場面に応じた適切なトーンを提供し、人間がより個人的なエピソードや具体的な事例、組織特有の文化的な要素を追加することで、より説得力と共感性の高い原稿を完成させることができる。また、AIの活用により、原稿作成の初期段階で必要となる時間を大幅に削減できるため、人間はより創造的な部分やメッセージの本質的な部分の検討に注力することが可能となる。

ただし、AIが生成する文章には、時として一般的すぎる表現や、文脈に適さない内容が含まれる可能性があるため、人間による適切な指示と編集が不可欠である。特に、スピーチの場における聴衆との関係性や、組織内での立場、過去の経緯など、複雑な人間関係や文脈を考慮した調整は、人間の重要な役割である。さらに、AIの出力に対して適切なフィードバックを行い、より良い原稿を生成するためのプロンプトを工夫することも、人間に求められる重要なスキルとなっている。

このような人間とAIの相互補完的な関係性を構築することで、より効率的かつ質の高いスピーチ原稿作成プロセスを確立することができるだろう。実際の活用においては、組織内でのベストプラクティスの共有や、AIとの効果的な対話方法についての教育も重要となる。

今後は、AIの技術的な進歩に伴い、よりきめ細かな文脈理解や、個別の状況に応じた柔軟な対応が可能となるだろう。このような技術の発展を踏まえつつ、人間の創造性や感性との最適な組み合わせを模索していくことが、今後のビジネスコミュニケーションの発展を促すうえで重要な課題だといえる。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

政策調査部 主席研究員
専⾨分野: AI・資産運用・デジタル資産

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