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Well-being LDの視点『働く女性の健康問題に企業はどう対応すべきか』

福澤 涼子

目次

男女で異なる働く世代の健康問題

働く女性が増えるなかで、女性特有の健康問題への関心が高まっている。2024年版「男女共同参画白書」によると、前立腺肥大など男性特有の病気の患者数は50代以降で多くなる傾向にあるが、女性特有の月経障害や子宮内膜症などの患者数は20~40代の若い世代に多くなっている。がんの罹患率でも、男性は60代以降で急激に増加しているのに対し、女性の「乳がん」及び「子宮がん」は30代から増加する。

このように、働く世代の性別特有の病気のリスクは、女性の方が高くなっている。社員の健康を経営的な視点で戦略的に考える「健康経営」の文脈でも、こうした性差に着目する必要があるといえる。

体調不良も女性の方が多い

明らかな病気だけではなく、いわゆる体調不良にも男女差がある。内閣府「令和5年度男女の健康意識に関する調査」によると、肩こりや疲れやすいなど、ここ1カ月で気になる症状が「特にない」人は、男性で43.2%だったのに対し、女性では29.1%にとどまっている。特に「肩こり・関節痛(40.1%)」や「片頭痛・めまい(28.0%)」が女性に多く、筋肉量や女性ホルモンなど性別による影響も大きいようだ。

このような、欠勤や休職するほどではない肩こり、偏頭痛などの要因で業務に集中できず生産性が低下している状態を「プレゼンティーズム」という。先行研究によると、このプレゼンティーズムによる間接コストは、医療費や欠勤によるコストに比べて非常に大きいことがわかっており、こうした不調をいかに改善していくかは、企業にとって大きな課題になりつつある。

実際、肩こりや偏頭痛などの気になる症状がある女性のうち56.4%が、その中の最も気になる症状に対して「十分に対処できていない(どちらかといえば十分に対処できていない・十分に対処できていないの合計)」と回答した。さらに、最も気になる症状に十分対処できていない有業の女性の半数(48.1%)が、「月に2~3割程度以上」体調の悪い日があると回答している。

気になる症状がキャリア形成の足かせにも

こうした症状があることは、女性のキャリア形成にも影響を及ぼす可能性がある。資料1をみると、気になる症状に十分に対処できている20~40代の有業の女性は43.0%が昇進を希望しているのに対して、十分に対処できていない人は16.9%にとどまっている。気になる症状に対処しているか否かが、昇進への意欲に影響しているようだ。

昇進が望ましいキャリア形成であるとは必ずしもいえないが、より高度な業務に挑戦してみたいという気持ちや、キャリアアップを図りたいという意欲が、日頃の不調でそがれてしまった結果とも受け取れる。健康を理由とした不本意な選択は、個人にとっても企業にとってもマイナスだといえるだろう。

資料
資料

対処法を学び、行動することが大事

そうした不調に対処するにはどうすればよいのだろうか。先の内閣府調査では、最も気になる症状に十分に対処できていない理由として、「金銭的な余裕がない」「我慢すればいいと思っている」とともに、「どのように対処をしたらよいかがわからない」が多くあげられていた。そのため、まず女性自身が不調への対処方法を知り、それにもとづき行動することが大切であろう。

健康や医療に関する情報を入手し、正しく理解して活用する能力を「ヘルスリテラシー」という。これを高めることが健康保持・増進につながるとされている。たとえば、PMS(月経前症候群)や月経随伴症状でパフォーマンスの低下を感じる女性が多いなか、ヘルスリテラシーが高いとその影響が少ないことが報告されている(注)。また、ヘルスリテラシーには、健康情報を正しく理解することにとどまらず、不調に応じた適切な医師を見つけ、得られた指示にもとづいて行動することも含まれている。

我慢すればいいと思っている人や、仕事を休んでまで通院するのは気が引けるという人も多いようだ。だが長い目で見ると、そうした不調に対処せずに働き続けることで、パフォーマンスが下がり、自分のキャリアに対する意識も低下する可能性があることを改めて認識する必要があるだろう。

女性の健康問題に職場全体で取り組む

体調不良に対処していくためには、個人の努力だけではなく、企業の働きかけも重要である。先の内閣府調査では、女性特有の健康課題など、女性の健康保持・増進に勤務先が取り組んでいる(「かなり取り組んでいる」「ある程度取り組んでいる」の合計)と回答した女性は30.7%にとどまっており、従業員の感染症予防(48.3%)などに比べても低い。女性の健康視点での情報提供や啓蒙活動、制度整備が求められる。

また、人事部門の情報提供、制度整備だけでなく、直接の上司が女性の健康問題への理解を深めることも重要である。月経痛などの症状は個人で異なるため、女性上司も自分と比べることなく女性の健康課題に関する知識をもち、相談しやすい、休みやすい組織風土や体制を整えていく必要があるだろう。

誰もが安心して働ける職場づくりに向けて

女性特有の健康問題への取組みを通じて、健康経営に対する経営者や管理職の理解がさらに深まれば、女性に限らずすべての社員にとって、より働きやすい職場環境の整備につながる。

実は、先の内閣府調査では「健康でないと思う」という 割合は男性の方が高くなっている。また、定年延長などにより、体調を崩しやすい高齢になっても働き続ける人が増えている。体調の変化を感じた際に、職場に遠慮することなく通院・治療できる環境が重症化防止にもつながるだろう。

体調不良で無理をせず、休みを取りやすい職場にしていくことは、ライフ・ワーク・バランスの点でも非常に重要だ。企業には、働く女性の健康問題への関心を高めるとともに、社員の健康保持・増進がますます重要な経営課題になるという認識をもつことが求められるだろう。


(注)特定非営利活動法人日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査」2018年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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