ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

ライフデザインの視点『「医療的ケア児」を支える共生社会を育む』

後藤 博

目次

増加する医療的ケア児

医療的ケア児とは、日常生活を営むために恒常的に医療的ケアを受けることが不可欠な児童である。厚生労働省によると、出生後に新生児特定集中治療室(NICU)等に長期入院した後、人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的ケアが日常的に必要な児童とされている。この医療的ケア児は、2021年10月時点で20,180人にのぼり、少子化が進む中、2010年と比べて約2倍に増加している(資料1)。

そのような中、医療的ケア児の在宅生活や学校等の社会生活に関するさまざまな支援が、厚生労働省、文部科学省をはじめ、地方自治体、病院、学校等で行われている。

医療的ケア児に対する支援に関する課題

医療的ケア児に対する支援については、2021年9月、「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(「医療的ケア児支援法」)が施行され、医療的ケア児が安心して暮らせるよう支援の充実と体制整備が図られつつある。

ここでは、在宅生活における支援の課題についてみてみよう。医療的ケア児のNICU退院後の生活場所は、医療型障害児入所施設ではなく、自宅が選択されることも多い。厚生労働省では、医療的ケア児の在宅生活における課題として、➀発達・療育、②医療・介護、③保育・教育の3点を挙げている。

まず①発達・療育については、生活環境が自宅などに限られることに伴う課題がある。友人との交流や多様な環境に触れる機会が少ないと、年齢に応じた成長や発達を阻害する可能性があるため、厚生労働省は、医療的ケア児に対応できる児童発達支援や放課後等デイサービスの整備が求められると指摘している。

②医療・介護面については、医療的ケアや健康管理を親が自宅で担うことに関する課題がある。ケアによる身体的な疲労や、命を預かることへの緊張感が蓄積するなど、家族の心身の負担は大きい。そのため、厚生労働省は、家族の看護を共に担う小児在宅医療体制の整備が急務と指摘している。訪問看護や訪問診療など、小児在宅医療の体制整備と短時間・短期間の預入先の確保が求められる。

③保育・教育面については、保育施設や学校で医療的ケアに対応できる看護師・教職員が不足しているという課題がある。医療的ケア児への医療的ケアは、人工呼吸器による呼吸管理、喀痰吸引などの医行為にあたり、その実施者は、看護師か一定の研修を修了し認定を受けた者に限られる。保護者が医療的ケアを実施できるのは、目的の正当性、必要性、緊急性など行為を正当化する要件を満たすと考えられるためである。そのため、学校等で医療的ケアを行う場合、対応できる人材の確保は容易ではない。厚生労働省は、医療的なケアに対応できる人材を養成する研修の積極的な実施や支援体制の構築が望まれると指摘している。

図表1
図表1

設置が進む「医療的ケア児支援センター」

「医療的ケア児支援法」の施行に伴い、各都道府県で「医療的ケア児支援センター」の設置が進められており、今年度中に42都道府県で整備される予定である。同センターの設置を通じて、居住地域に関わらず適切な包括的支援を受けられる体制、および保護者の付添いがなくても学校等で医療的ケアが受けられる体制が目指されている。

厚生労働省では、医療的ケア児とその家族を支援する体制を資料2のとおり整理している。医療的ケア児への支援にはさまざまな専門性が求められ、制度ごとの相談窓口だけで適切な支援に繋げることは難しい。そのため、「医療的ケア児支援センター」には、同センターが相談支援に係る情報の集約点になること、関係機関と連携して相談に対応すること、そして、医療・保険・福祉・教育・労働等多岐にまたがる調整において中核的な役割を果たすことの3つの役割が期待されている。

医療的ケア児への理解と支援が共生社会を育む

「医療的ケア児支援法」では、医療的ケア児の日常生活・社会生活を社会全体で支援すること、そして、医療的ケアの有無にかかわらず共に教育を受けられるよう最大限配慮すること等が、法の基本理念に掲げられている。これは、病気の有無にかかわらず、誰もが安心して暮らせるよう皆が支え合うという共生社会の考え方につながるものである。

政府・自治体・関係機関の取り組みが進む中、医療的ケア児に対する社会全体の理解・支援が広がることで、誰もが安心して暮らせる共生社会が育まれるだろう。全ての子供が安心して共に成長し、相互に認め支え合い、自分らしさを発揮できる共生社会への歩みは始まっている。

図表2
図表2

【参考資料】

  • 文部科学省「学校における医療的ケアの充実について」(2022年9月)
  • 内閣府「令和4年度障害者白書」(2022年7月)
  • 厚生労働省 事務連絡「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律の施行に係る医療的ケア児支援センター等の業務等について」(2021年8月)
  • 文部科学省 中央教育審議会「令和の日本型学校教育の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学び実現~(答申)」(2021年1月)
  • 厚生労働省「医療的ケアが必要な子どもと家族が安心して心地よく暮らすために―医療的ケア児と家族を支えるサービスの取り組み紹介―』(2018年12月)

後藤 博


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後藤 博

ごとう ひろし

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 社会福祉、保健・介護福祉

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