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内外経済ウォッチ『欧州~マクロン再選阻止を目指す第三の候補~』(2021年8月号)

田中 理

目次

メルケル引退後はマクロンが欧州のリーダーに

長年、欧州政治を引っ張ってきたドイツのメルケル首相は秋の連邦議会選挙後に政界を引退する。ドイツでは議会の最大政党が首相を輩出するのが一般的で、今のところ、メルケル氏が所属する保守政党・キリスト教民主同盟(CDU)のラシェット党首がその座に最も近い。同氏は閣僚経験こそないが、ドイツで最も人口が多いノルトライン=ヴェストファーレン州の州首相を長年務めた経験豊富な政治家で、メルケル路線を踏襲する人物として知られる。とは言え、国内外で抜群の安定感を誇ったメルケル氏と同様の立ち回りを、就任早々から期待するのはさすがに酷だろう。そこで当面の欧州政治のリーダー役を期待されるのがフランスのマクロン大統領となる。

そのマクロン大統領は、来年4・5月の大統領選挙で再選を目指しているが、国内の政治環境は必ずしも盤石ではない。2017年の前回選挙で彗星の如く現れた同氏だが、大統領就任後の強引な改革手法やエリート色に不満を持つフランス国民も少なくない。燃料税引き上げに端を発した「黄色いベスト運動」が落ち着いた後も、各地で様々な抗議活動が頻発している。前回大統領選に合わせて旗揚げした中道政党・共和国前進の組織基盤は脆弱で、離党者増加で国民議会(下院)の過半数を失い、地方選挙でも苦戦が続いている。

図表
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三つ巴の戦いとなりそうな仏大統領選挙

フランスの大統領選挙は初回投票での上位2名が決選投票に進出する二回投票制で行われる。各種の世論調査では、前回選挙と同様に、マクロン大統領と極右のルペン候補が決選投票に進出する可能性が示唆される。ルペン候補はユーロ離脱など極端な政策主張を封印し、反マクロン票の取り込みを目指している。前回はマクロン氏が反極右票を集めて圧勝したが、今回はマクロン路線への反発もあり、そこまでの楽勝ムードはない。

現職大統領と極右候補の一騎打ちとみられた戦いに割って入ってきそうなのが、ド・ゴール主義を継承する伝統的な右派政党のベルトラン氏だ。6月に行われた地域圏(州に相当)選挙で、ルペン氏率いる極右政党が強い北東部オ=ド=フランスの首長ポストを守った。最近の世論調査では、マクロン・ルペンの両氏を脅かす支持を獲得している。高等教育機関(グランゼコール)出身者が多いフランス政界において、政界進出以前に保険の営業マンをしていたベルトラン氏は異色の存在。多くの大統領を輩出してきた伝統政党出身ながら、反エリート票を集めることができる人物でもある。同氏の支持が一段と伸びてくるようだと、大統領選は混戦模様となり、再選を目指すマクロン大統領にとっても脅威となる。来年春に向けて、フランス政局から目が離せない。

図表
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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