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- 内外経済ウォッチ『日本~財政政策の「民主性」と「柔軟性」~』(2021年5月号)
少しずつ正常化に向かう経済政策
新型コロナウイルスのワクチン接種が進められる中、政府は経済政策の正常化を図っている。
コロナ感染が広がった昨年来、政府は休業した従業員に手当を支払った際の助成である雇用調整助成金の特例措置を設け、失業を抑止してきた。内閣府の分析によれば、これによって失業率上昇がピーク時(2020年4-6月期)には3%強抑えられたとされる。5月からこの縮減が段階的に進められていくスケジュールとなっている(4月5日執筆時点)。2020年度は雇用調整助成金をはじめ、企業の資金繰り支援や給付金など様々な政策措置が講じられ、予算額は総額175兆円を超え過去最大規模となった(資料)。財政政策は経済下支えに大きく貢献したが、その正常化は難しいかじ取りが迫られる。拡大した財政支出を急速に巻き戻せば、そのことが経済へのダメージを大きくしかねないからだ。
柔軟に対応できる金融政策・できない財政政策
経済政策の正常化は、経済状況に合わせ、柔軟に方針を見直していくことが望ましい。
中央銀行の行う金融政策は、こうした点に一定の配慮がなされた意思決定プロセスになっている。年8回定期的に行われる金融政策決定会合において、経済や物価の状況が点検され、経済金融の専門家集団である政策委員が必要に応じて政策調整を行う。一方、財政政策はこうした柔軟さ・スピード感は重視されていない。追加の補正予算を編成するには、政府が予算編成を行うことを決め、各省庁が予算要望を出し、それを精査して予算案を閣議決定し、国会での議決を経る必要がある。金利調整や資産購入など、政策手段が比較的シンプルな金融政策に比べ、財政政策はお金を「何に」使うのか、という判断が常に伴う。より民主的なプロセスが求められるために、追加の予算を組むには非常に長い時間を要するのだ。
この問題を払拭するために、政府がコロナ経済対策において用いたものが予備費である。不測の事態が起こった際に、政府は閣議決定を通じて国会審議を経ずに予備費を支出することができる。例年本予算に0.5兆円程度が予備費として計上されるが、20年度2次補正で10兆円、21年度本予算では5兆円と異例の規模の予備費が追加された。この予備費は今年初めの緊急事態宣言下でフル活用され、経済悪化を抑える役割を果たした。しかし、当然ながら財政民主主義の観点から批判は膨らんだ。国会審議を経ないことで政策決定のプロセスが不透明になる、濫用が進めば予算を政府裁量で自由に使うこともできてしまう、といった懸念が強まることになったのである。
この財政政策の「民主性」と「柔軟性」の二項対立は、コロナ後にも再び問題化する可能性が高い。すでにマイナス金利にまで踏み込んだ金融政策は緩和余地が乏しいとみられており、危機時における財政政策の役割が大きい状態が続くためだ。FRB副議長を務めたフィッシャー氏らがコロナ前(2019年)に発表したペーパーでは、財政政策の追加枠や期間などを経済状況に応じて“中央銀行が”決める、といった枠組みも提案されている。「民主制」と「柔軟性」とのバランスに関してコンセンサスを形成することが、次の危機に備えて必要なのではないかと思う。

星野 卓也
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。