インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インド4-6月GDPは前年比+7.8%と堅調も、先行きは頭打ちが不可避か

~イラン情勢、エルニーニョ、ルピー安などインフレ材料山積、RBIの政策変更の可能性も~

西濵 徹

要旨
  • インドは原油需要の約9割を輸入に依存し、LPGも中東依存度が高く、イラン情勢の悪化による原油高や供給途絶の影響を受けやすい。ただし、モディ政権は地方選挙を意識して燃料価格の据え置きや国内供給の優先、税負担の軽減などを通じて家計への影響を抑えてきた。RBIも景気への悪影響を警戒して利上げに慎重な姿勢を維持する一方、資金流入促進策を通じてルピー相場の安定を図った。もっとも、原油高による対外収支の悪化や財政負担、インフレ懸念を背景に金融市場は一時「トリプル安」に直面し、ルピー相場は最安値圏にある。

  • こうした政策対応もあり、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%と高い伸びを維持した。対米関税の実質的な引き下げや石油製品輸出の拡大が輸出を押し上げたほか、所得税減税を背景に個人消費も底堅く、旺盛な対内直接投資やRBIの慎重な金融政策を追い風に設備投資も堅調に推移した。一方、季節調整済みの前期比年率成長率は5%程度まで鈍化しており、景気には頭打ち感もみられる。GVA(国内総付加価値)も高い伸びを維持しているものの、建設業やサービス業の一部では勢いの鈍化がみられる。

  • 先行きは、イラン情勢の不透明感や原油・肥料価格の高止まりに加え、エルニーニョによるモンスーン雨量の減少を背景に、エネルギー・食料インフレが強まる可能性がある。さらに、ルピー安による輸入インフレや世界的な金利上昇圧力も景気の重石となる。足元の景気がRBIの想定以上に堅調な一方、物価上振れ材料が山積するなか、将来的な利上げの可能性も意識され始めており、先行きのインド景気は徐々に鈍化傾向を強める可能性が高い。

目次

【イラン情勢の悪影響懸念も、政府・RBIは景気への影響回避を目指す展開が続く】

インドでは、原油需要の約9割を輸入に依存している。さらに、近年はモディ政権が実施した貧困層向け調理用ガス普及策も追い風にLPG(液化石油ガス)の利用が急拡大し、その大部分を中東諸国からの輸入に依存する。このため、イラン情勢の悪化を受けた原油高や供給途絶は、幅広く国民生活に悪影響を与えることが懸念された。

しかし、インドでは4月に5つの州・直轄地の議会選挙が実施される「政治の季節」となったため、モディ政権はイラン情勢の悪化による原油高に直面するも、その後もガソリン・軽油など燃料価格を据え置き国民生活への悪影響を抑えた。加えて、国民にパニック買いを控えて節約を呼び掛ける一方、国営石油公社に損失を吸収する形で供給を継続させた。さらに、軽油・ジェット燃料などの輸出税を引き上げて国内供給を優先したほか、LPGも家庭向けを優先的に供給する対応をみせた。また、米国による関税引き上げの影響を抑えるべく、モディ政権は2025年9月末にGST(財・サービス税)の税率の実質引き下げに動いた。その影響も重なり、インフレ率はRBI(インド準備銀行)が定める目標レンジ(4±2%)の中央値を下回る推移が続いた。

一方で、川上段階の物価である卸売物価はこうした政策支援の影響が及ばず伸びが急加速した。加えて、金融市場では、原油をはじめとする商品市況の上昇が輸入を押し上げて対外収支を悪化させるとともに、インフレ懸念がくすぶるうえ、事実上の財政赤字拡大など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を招くことが警戒された。その結果、通貨ルピー相場、主要株式指数(ムンバイSENSEX)、国債のすべてに売り圧力がかかる「トリプル安」に直面し、ルピー安による輸入物価の押し上げがインフレ圧力を増幅させる懸念も高まった。しかし、RBIは景気への悪影響を警戒して金融引き締めに慎重姿勢をみせる一方、ルピー相場の安定を目的に資金流入の促進を図る取り組みを示した。具体的には、非居住インド人向けの優遇ドル預金制度、海外借り入れのヘッジコスト補助を実施した。同様に、モディ政権も、適格外国人投資家を対象に国債の売却益に対するキャピタルゲイン税免除に動いた。こうした動きも追い風に、足元ではルピー相場は持ち直しの動きをみせているものの、引き続き最安値圏で推移している(図1)。さらに、イラン情勢が不透明な動きをみせるとともに、原油相場も高止まりするなかで主要株価指数も上値の重い展開が続いている。

図表
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【輸出や設備投資の好調、個人消費の底堅さを追い風に堅調な景気が続く】

このように、政府・RBIが景気に配慮する姿勢を維持してきたこともあり、4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%と前期(同+8.6%(改定値))から鈍化したものの、高い伸びが続いていることが確認された(図2)。政府(統計・計画実施省)は2025年10-12月のGDP統計公表に際して、GDPの基準年を2022-23年度に改訂した。その理由について、政府は新たなデフレーター採用による統計精度の向上を図ったものと説明した。しかし、新基準に基づく統計は過去4年度分のみであり、それ以前の統計との比較は連続性の問題を抱える。そうした事情はあるものの、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は5%程度に鈍化しており、足元の景気は頭打ちの動きを強めている。

図表
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需要項目別では、米連邦最高裁が2月にトランプ米政権が導入した相互関税を違法とする判決を下し、直後に米国政府は相互関税を停止して代替関税を導入して実質的に関税率が引き下げられたことも追い風に、対米輸出が拡大する動きがみられた。さらに、イラン情勢の悪化以降、原油や天然ガスの調達先の多様化を図るとともに、石油製品の精製拡大による輸出拡大の動きも重なり、景気拡大をけん引している。一方で、地方選での勝利を受けて、モディ政権は5月に一転してガソリン・軽油など燃料需要の抑制を国民に呼びかけるとともに、燃料価格の段階的な引き上げを容認するなどインフレ圧力が強まっている。また、金融市場におけるルピー安による輸入物価の押し上げも重なり、足元のインフレ率はRBIの目標レンジの中央値を上回る伸びに加速している(図3)。一方で、政府が4月に実施した所得税減税が下支え役となる形で個人消費は底堅さを維持している。さらに、RBIが利上げに対して慎重姿勢を維持しているうえ、世界的なサプライチェーン見直しも追い風にした対内直接投資の旺盛な流入も重なり、企業部門による設備投資の動きが活発に推移している。ただし、燃料需要抑制策の影響で政府消費は鈍化した。一方、こうした抑制策の影響などで輸入は下振れしており、純輸出の改善を通じてGDPの押し上げに寄与している。

図表
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なお、同国ではGDP算出の元になる基礎統計が整備途上にある。このため、長らく供給サイドの統計であるGVA(総付加価値)が重視され、景気実態をみるうえでは実質GVA成長率の動きをあわせてみる必要がある。4-6月の実質GVA成長率は前年同期比+8.2%と前期(同+8.7%(改定値))から鈍化したものの、GDP同様に高い伸びとなった。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率も6%台で推移しており、比較的堅調な動きが続いている。

分野ごとの生産動向については、企業部門の設備投資需要は旺盛に推移する一方、公共投資の進捗低迷が足かせとなり建設業の生産拡大の動きに一服感が出ている。一方で、輸出の堅調さを反映して製造業の生産は拡大に転じるとともに、石炭需要の高まりが鉱業部門の生産を押し上げたほか、農林漁業関連の生産にも堅調さがうかがえる。サービス業のうち金融サービス業は旺盛な動きが続く一方、観光関連の生産が下振れしたほか、個人消費の勢いに陰りが出ていることを反映してサービス業全体の生産は鈍化している。

【先行きはインフレ材料が山積、景気は頭打ちの様相を強める可能性が高い】

4-6月の実質GDP成長率については、RBIが8月の定例会合で示した見通し(前年比+7.0%)を大きく上回り、足元の景気は堅調な推移が続いていることが確認された。しかし、先行きのインド経済には不透明要因が山積している。イラン情勢は依然として不透明な展開が続いており、原油価格も高止まりするなどエネルギーインフレが長期化する懸念が高まっている。さらに、2026年はエルニーニョ現象が発生しており、最新の予想によれば、モンスーン(雨季)の雨量が長期平均を15%下回り17年ぶりの低水準となる可能性が指摘されている。加えて、イラン情勢の悪化を受けて化学肥料の価格も高止まりしており、カリフ作(雨季作)の作柄の低迷による供給減少を理由とする食料インフレの懸念も高まっている。また、金融市場ではルピー安圧力がくすぶるなど輸入インフレも意識されやすい状況が続いている。

このところの国際金融市場においては、全世界的に利上げの動きが広がる引き締め環境となることが意識されており、金利に上昇圧力がかかる動きがみられる。インドにおいては、インフレが警戒される状況が続いているものの、RBIが利上げに慎重な姿勢をみせてきたことを受けて長期金利は頭打ちする動きがみられた。しかし、世界的な金融環境の変化に加え、足元の景気が想定を上回る堅調さが確認されたほか、物価の上振れ材料が山積している。こうしたなか、RBI内でも将来的な利上げの可能性を認識する兆しが確認されており(注1)、足元では長期金利が上昇する動きもみられる(図4)。こうした状況を勘案すれば、先行きのインド景気には足かせとなる材料が山積しており、鈍化傾向を強める展開となるであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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