米国:予想に一致した7月CPIとインフレ圧力の減速傾向

~FRBによる9月の政策金利据え置き観測を後押し~

桂畑 誠治

要旨
  • 2026年7月の米CPIは、総合(前月比+0.1%)・コア(同+0.2%)ともに市場予想と一致し、モメンタムの低下からインフレ圧力の緩やかな和らぎが確認された。
  • インフレ再加速の回避を受け、9月FOMCでの政策金利据え置き観測が拡大(約60%)。ただし、住宅を除くサービス価格の粘着性や、地政学リスク(中東情勢緊迫化)に伴う原油再高騰リスクから、当面は高い政策金利水準の維持が見込まれ、年内の利上げの選択肢も完全には排除されない。
  • 指標結果は直後に金利低下・ドル安で反応したものの、その後の10年債入札の不調や財政赤字懸念から金利が急反発し、為替はドル高・円安に転じるなど複雑な動きとなった。
  • 名目賃金の伸び鈍化により実質平均時給が前年同月比マイナスへ転落したため、購買力の低下が今後の個人消費の抑制要因となる見通し。
目次

1.総合指数、コアの前月比はともに市場予想と一致

26年7月の米消費者物価指数(総合CPI)は、前月比+0.1%(前月:▲0.4%)となり、市場予想中央値(+0.1%)および筆者予想(+0.1%)と一致した。また、エネルギー・食品を除く消費者物価指数(コアCPI)は、前月比+0.2%(前月:0.0%)と前月から小幅に加速したものの、市場予想(+0.2%)および筆者予想(+0.2%)と一致した。

食品価格については、ノンアルコール飲料や外食が上昇したものの、牛肉、乳製品が下落に転じたうえ、野菜・果物、豚肉の続落、穀物・ベーカリー製品の伸び率が前月から鈍化し、全体で前月比+0.1%(前月:+0.2%)へと伸び率が低下した。

エネルギー価格は電気料金が上昇に転じたほか、ガソリン、燃料油がそろって下落ペースを鈍化したことで、前月比▲1.5%(前月:▲5.7%)と下落幅を縮小したものの、引き続き総合CPIの押し下げに寄与した。

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2.9月FOMCでの据え置きの可能性が約60%と上昇

金融市場では、7月コアCPIが市場予想と一致しインフレの大幅な再加速が回避されたことを受け、FF金利先物市場が示す9月FOMCでの25bpの利上げの可能性は約40%と前日の約48%から低下した。一方で政策金利据え置き(現行水準維持)の確率は約60%(前日:約52%)へと上昇し、9月会合での利上げ回避の観測が強まった。

市場の反応は、指標の発表直後とその後でねじれが生じた。債券市場では、米2年国債利回り、10年国債利回りがともに指標発表直後にインフレ減速を好感して一旦低下したものの、その後実施された10年国債の入札が需要低迷により不調だったこともあり、中長期的な財政赤字拡大懸念と相まって実質金利主導で上昇に転じた。為替市場ではドルが主要通貨に対して一旦下落したが、債券利回りの上昇に伴いドルが買い戻され、ドル円は1ドル=159円台まで円安が進んだ。一方、株式市場は、利上げ観測の後退を好感し一時上昇したものの、金利の再上昇に伴い警戒感が広がり伸び悩む展開となった。

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3.コアCPIでは、財が上昇に転じ、サービスが伸びを維持

コアCPIの内訳では、財コアが前月比+0.2%(前月:▲0.1%)と上昇に転じ、サービスコアは同+0.2%(前月:0.0%)へ伸びが拡大した。

財コアでは、医療用品が下落幅を拡大したほか、余暇商品、大学の教材は伸び率が低下した。一方、家庭用耐久品・消耗品、衣料品、新車、中古車、情報機器、アルコール飲料、その他財が上昇に転じたほか、自動車部品も伸び率が上昇した。

サービスコアでは、レンタカー、その他個人向けサービスが下落に転じ、ホテルは下落幅を拡大した。また、自動車メンテナンス・修理、余暇サービス、インターネットサービスは伸び率が低下した。さらに、医療保険、自動車保険は下落幅を縮小したが、下落を続けた。一方、専門医療、カーリース、電話サービスが上昇に転じたほか、粘着性の高い帰属家賃や賃貸料、上下水道・ゴミ収集サービス、病院・関連サービス、航空運賃は伸び率が高まった。

特にFRBが基調的なインフレ動向として重視する「住宅を除くサービス(スーパーコア)」は、賃金の伸びや労働市場の需給引き締まりを直接反映しやすいため、依然として根強さを残している。

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4.インフレの上昇モメンタム鈍化

コアCPIの上昇モメンタムをみると、3カ月前対比年率で+1.6%(6月:+2.3%)、6カ月前対比年率で+2.4%(6月:+2.6%)とともに低下しており、中期的なインフレ圧力が弱まっていることが示されている。FRBの2%目標に向けて、基調的なインフレ率の低下が再開していることを示唆している。

図表
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5.前年同月比では総合・コアともに伸び率が縮小

前年同月比では、総合CPIが+3.4%(前月:+3.5%)と市場予想(+3.4%)・筆者予想(+3.4%)と一致し、伸び率が低下した。食品は+3.0%(前月:+3.0%)とほぼ横ばい、エネルギー全体ではガソリンが+24.6%(前月:+26.7%)、燃料油が+39.1%(前月:+42.9%)と伸び率が低下したことで、エネルギー全体として高水準ながら+14.7%(前月:+15.7%)とプラス幅を小幅縮小した。なお、エネルギー全体の前年比の高水準には前年のベース効果も影響している。コアCPIも+2.5%(前月:+2.6%)と市場予想中央値(+2.5%)と筆者予想(+2.5%)と一致し、伸び率が低下した。

コアCPIの内訳をみると、財コアは+0.8%(前月:+0.8%)と伸び率が横ばいとなった。余暇商品、アルコール飲料、その他財は上昇した一方、中古車、医薬品など医療用品は下落幅を拡大。家庭用耐久品・消耗品、自動車部品も伸び率が低下した。衣料品、新車は横ばい。情報機器は下落幅を縮小しつつもマイナスを維持した。

サービスコアは+3.0%(前月:+3.2%)と伸び率が低下した。賃貸料(+2.9%、前月:+2.8%)、教育関連サービス、インターネットサービスが上昇したほか、帰属家賃(+3.2%、前月:+3.2%)、上下水道・ゴミ収集サービスが横ばいとなった。一方、医療保険、自動車保険が下落幅を拡大したほか、ホテル、専門医療サービス、病院・関連サービス、航空運賃、余暇サービス、その他個人向けサービスなどの伸び率が低下した。また、レンタカー、リース、電話サービスが下落幅を縮小しつつもマイナスを維持した。

6.実質賃金が小幅のマイナスとなり個人消費の抑制要因に

物価高騰が和らぎつつあるものの、名目平均時給の伸び鈍化によって、7月の実質平均時給は前年同月比▲0.2%(前月:0.0%)とマイナスに転じた。実質平均週給は前年同月比+0.1%(前月:+0.2%)と小幅のプラスにとどまっており、消費者の実質的な購買力が弱まっていることが示された。これまで米経済の牽引役であった個人消費だが、累積した物価高による生活コストの高さが依然として重荷となる中、実質賃金の低下による生活水準の圧迫は、今後の個人消費を抑制する要因となろう。

7.コアインフレは緩やかな低下にとどまるなか、FRBは政策金利の据え置きを継続へ

コアインフレは今後2%台前半への低下が見込まれる。過去に導入された関税の影響が徐々に弱まることで財価格が抑制されるほか、住宅需要低迷の影響により、先行指標である実際の募集家賃の鈍化が、帰属家賃や賃貸料へ継続して波及し、緩やかな低下傾向が継続するとみられる。一方で、米国経済が堅調さを維持するなか、労働市場の急激な悪化は回避されており、賃金上昇も一定のペースを維持している。このため、一部の対面サービス価格において、粘着性が残り、インフレ率がFRBの目標である2%に向けて収束していく動きを鈍らせる要因になると予想される。

このような中、FRBは9月FOMCで政策金利を据え置くと予想されるものの、インフレの粘着性と経済の強さを鑑みると、労働市場の需給バランスとサービスインフレの動向を慎重に見極める展開が続き、年内の利上げの選択肢を完全に排除するには至らないと考えられる。

さらに、地政学リスクに伴うエネルギーの再高騰には引き続き警戒を要する。イランによる民間船舶への攻撃を契機に米国とイランの直接戦闘が限定的ながら再開されたこともあり、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が行われている。この中東情勢の緊迫化が長期化した場合、原油やガソリンなどのエネルギー価格が急上昇し、今回の前月比低下に寄与したエネルギー項目が一転して、総合インフレを再び急伸させる大きなリスクを孕んでいるといえる。

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桂畑 誠治


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

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