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2026.08.10
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米国:予想外の雇用者数減少と失業率の低下(26年7月雇用統計)
~FRBは据え置きへ。トランプ2.0の供給制約と根強い需要で失業率は低位安定~
桂畑 誠治
- 目次
1. 非農業部門雇用者数は減少に転じる(地方教員や飲食、小売の減少が主因)
2026年7月の非農業部門雇用者数(事業所調査)は、前月差▲2.3万人(前月:同+2.0万人)と市場予想中央値(ブルームバーグ集計)の同+8.0万人への加速に反して減少に転じた。ただし、これは季節調整の歪みなどによる地方教員の大幅な減少や、北米サッカーW杯等のイベント特需の反動による影響が重なったことが主因である。失業率(家計調査)が低下していることも勘案すれば、米経済の急激な悪化を示すものではない。
内訳をみると、政府部門が前月差▲5.3万人(前月:同▲1.0万人)と減少幅を拡大したほか、民間部門は同+3.0万人(前月:同+3.0万人)と小幅の伸びにとどまり、市場予想中央値の同+8.2万人を大幅に下回る結果となった。

雇用の基調を示す移動平均をみると、非農業部門雇用者数の3カ月移動平均は前月差+2.0万人(前月:同+7.7万人)、6カ月移動平均では同+4.4万人(前月:同+7.5万人)へとそれぞれ減速した。これは今月の弱い数字に加え、過去2カ月分(5月、6月)の雇用者数が計10.3万人下方修正されたことが影響している。民間部門に限っても、3カ月移動平均は前月差+4.0万人(前月:同+8.0万人)、6カ月移動平均では同+5.4万人(前月:同+7.9万人)と減速した。ただし、単月ではイベントによる押し上げ効果の剥落や天候の影響によって変動は大きくなっているが、雇用の緩やかな増加基調そのものは維持されており、労働市場の安定性は持続していると判断される。

2. 民間部門では医療・社会扶助、建設が牽引する一方、対人サービスは減少
詳細な内訳をみると、政府部門では連邦政府が前月差+0.3万人(前月:同+0.1万人)にとどまったほか、州・地方政府が教員の減少ペースの加速によって同▲5.0万人(前月:同▲1.1万人)と減少幅を拡大したことが、政府全体の押し下げ要因となった。ただし、地方の教員数は季節調整の歪みによって下振れ幅が大きくなったとみられ、一時的な動きと判断される。
民間部門では、高齢化に伴う構造的な需要増と人手不足が続く医療・社会扶助(+2.26万人)が減速したものの引き続き高い伸びを記録した。さらに、生成AI需要の爆発的な高まりに伴うデータセンターの建設ラッシュを背景に、建設(+2.20万人)は底堅さを示したほか、情報(+1.10万人)、輸送・倉庫(+0.97万人)、その他サービス(+0.90万人)が増加した。加えて、専門・技術サービス(+0.51万人)、製造業(+0.50万人)、卸売(+0.47万人)、雇用派遣(+0.34万人)、教育サービス(+0.28万人)、宿泊(+0.26万人)、公益(+0.07万人)、不動産・リース(+0.02万人)等でも雇用が拡大している。
対照的に、メモリアルデー(5月25日)が例年よりも早かったことや、6、7月開催の北米ワールドカップ(W杯)や米国建国250周年記念での特需を見込んで先行採用が進んだ反動等によって、一部の対人サービスセクターは減少した。具体的には、飲食店(▲2.61万人)、小売(▲1.94万人)、芸術・エンターテインメント・余暇(▲1.61万人)が減少ペースを加速した。このほか、政府補助金の削減に見舞われた保険(▲0.67万人)や、AI導入の影響を受けている商業銀行(▲0.25万人)が減少した。また、鉱業(▲0.20万人)もマイナスを記録している。
こうした業種別の動向からは、労働市場の二極化が鮮明に読み取れる。医療・社会扶助や建設が旺盛な労働需要を吸収する一方で、生成AIの台頭に伴う構造変化に直面する金融・IT、政策的不確実性を抱える一部の製造業では人員の適正化が継続している。
3. 金融市場では年内の利上げ織り込みが後退
金融市場では、予想を下回る雇用者数を受け、年内の利上げ期待が後退した。FF金利先物市場が示す各会合の確率は以下のように変化した。まず、9月FOMCでの据え置きの可能性が約56%(前日:約45%)へと上昇し、利上げの可能性は約44%(前日:約55%)へ低下した。10月FOMC時点で現行水準である「3.50~3.75%」に留まる(据え置き)可能性が約41%(前日:約31%)へと上昇し、年内25bp以上の利上げの可能性は約59%(同約69%)へと低下した。さらに、12月FOMC時点で現行水準に留まる可能性は約23%(前日:約16%)へと上昇し、年内25bp以上の利上げの可能性は約77%(同約84%)へと低下している。26年末のFF金利の着地予想は3.89%(前日:3.94%)へと低下した。
この金利低下に伴い、米10年国債利回りおよび2年国債利回りはともに低下した。為替市場ではドルが主要通貨に対して弱含み(ドル安)で推移した。株式市場では、発表直後は長期金利の低下を好感して主要3指数がそろって上昇した。しかし、最終的には方向感の乏しい展開となった。

4. 労働市場はトランプ2.0がもたらす「低雇用・低解雇」による均衡
こうした労働市場の変容の背景には、トランプ2.0による政策バイアスが色濃く影を落としている。相次ぐ大統領令による制度や規制の急進的な変更が現場の混乱を招き、2025年以降の米労働市場は基調として軟化傾向にあった。特に通商政策における関税の賦課・撤回・上乗せの乱発、あるいはそれらを示唆する発言の繰り返しが企業の不確実性を高め、計画的な採用の抑制や局所的な人員削減を誘発している。
また、移民規制の厳格化や不法移民の取り締まり強化が、労働供給の直接的な抑制に繋がっている点も無視できない。現在の米労働市場は、構造的な供給制約を背景に、企業の採用抑制(低雇用)と、人手不足に伴うリストラの抑制(低解雇)が同居する「一種の引き締まった均衡状態」にあると言える。

5. 賃金は底堅い伸びも鈍化傾向、インフレ再燃もあり実質賃金はマイナス圏に再低下へ
平均時給は前月比+0.1%(前月:+0.3%)となり、市場予想(+0.3%)を下回った。前年同月比でも+3.2%(前月:+3.4%)と市場予想+3.5%を下回り、2022年3月のピーク(+5.9%)からの緩やかな低下傾向は維持されている。ただし、トランプ関税の影響やイラン・中東情勢の緊迫化に端を発したガソリン価格の急騰により、インフレ圧力が再燃しているため、実質賃金が小幅ながらマイナス圏に低下しているとみられる。個人消費の下押しリスクとして注視する必要がある。
一方、労働投入量は前月比0.0%(前月:0.0%)と横ばい圏ながら、3カ月移動平均(3カ月前対比年率)では+1.2%(前月:+1.2%)と堅調な拡大を維持しており、全体としての労働需要の底堅さを示している。

6.失業率は4.1%へ低下、労働需給のタイトさは継続
家計調査によると、7月の失業率(U3)は4.1%(前月:4.2%)へ低下し、市場予想中央値(4.2%)を下回った。労働参加率が61.4%(前月:61.5%)へと低下するなかで、失業率は依然として低い水準での安定を維持している。一方、「現在は職探しをしていないが過去1年間に求職活動を行った人」と「正規雇用を探しているが経済的理由によりパートタイムで働いている人」を含む「広義の失業率(U6)」は、7.9%(前月:7.9%)と横ばいとなり、中長期的な緩やかな軟化トレンドには一時的に歯止めがかかった。絶対水準としては極めて良好な雇用環境であることに変わりない。
また、労働環境の自信度を示す「失業者に占める自発的離職者の割合」が11.5%(前月: 10.9%)へと上昇した。水準そのものは高く、労働者が雇用環境を極端に悲観していない裏付けとなっている。
労働参加率の低下については、トランプ政権による移民流入の抑制に加え、団塊世代の退職加速という構造的要因が影響している。今後についても、労働供給が物理的に制約される環境下では、雇用者数の伸びが鈍化したとしても失業率は上昇しにくく、タイトな労働需給の均衡が続く見通しだ。

7.総括:FRBは政策金利の「据え置き」継続へ
7月の雇用統計は、「雇用者数の減少」と「失業率の低下」が共存する結果となった。これは、トランプ政権下の構造的な供給制約と、サービス業や建設投資に支えられた底堅い労働需要が拮抗する「綱渡りの均衡状態」が継続していることを示している。
FRBにとっては、労働市場が「過熱」と「急速な悪化」の双方を回避しつつ絶妙なバランスを保っていることが確認できた形となった。インフレ目標達成に向け、当面はタカ派的なスタンスを維持しながら政策金利の据え置きを継続する姿勢を補強する内容であったと総括できる。





桂畑 誠治
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 桂畑 誠治
かつらはた せいじ
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経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済
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