インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

AI・半導体は韓国経済の救世主となるか

~成長のエンジンだが、「K字型経済」の元凶にも、持続可能な成長につなげられるか~

西濵 徹

要旨
  • 韓国の主要株価指数(KOSPI)はAI・半導体関連株を中心に活況を呈している。一方、個人投資家の海外資産投資拡大がウォン安圧力を強めており、株高・通貨安という対照的な動きが生じている。当局はNDF取引監視強化でウォン安阻止を図るが、こうした対応がMSCIによる「新興国」区分据え置きの一因となっている。景気・物価・ウォン安対策への不満から李在明政権の支持率は急落している。

  • 世界的なAI・半導体投資の活発化は同国経済の追い風となり、6月の輸出額は過去最大となり、なかでも半導体輸出は前年比で約3倍に拡大した。政府は、サムスン電子とSKハイニックスによる南西部への計800兆ウォン規模の投資を柱とするAI・半導体新産業戦略を発表した。同地域指定には首都圏一極集中是正という政権公約も影響しているが、与党地盤への「我田引水」との批判や、電力・水・物流・労働力等の供給制約への懸念もある。

  • 韓国経済はAI・半導体関連とそれ以外で明暗が分かれる「K字型」の様相を強めており、KOSPI時価総額の約5割をサムスン電子・SKハイニックス2社が占めるため、株価変動が大きく、サーキットブレーカー発動も頻発している。AI・半導体が成長エンジンである一方、その恩恵を内需拡大へ波及させられるかが政権の課題となっている。

韓国金融市場では、主要株価指数(KOSPI)が一時最高値を更新するなど活況を呈している。世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の活発な動きを追い風に、時価総額上位の半導体関連株の上昇が相場をけん引している。同国ではここ数年、株式市場改革が進められてきたことも株価上昇を後押ししている。

若年層を中心とする個人投資家は外国株など海外資産への投資を拡大させており、ウォン安圧力を強める一因となるなど、株価と通貨が対照的な動きをみせている(図1)。当局はウォン安阻止に向けて、NDF(ノン・デリバラブル・フォワード)取引の監視を強化する方針を明らかにした。こうした当局の対応は、指数算出会社であるMSCIが同国の市場区分を「新興国」に据え置く一因となっている。直近の世論調査では、景気動向や物価対策、ウォン安対策の不満が、李在明(イ・ジェミョン)政権への支持率が急落する要因となるなど、政権は苦境に直面している。

図表
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しかし、金融市場の活況をもたらしている世界的なAI・半導体関連投資の旺盛な動きは、同国経済にとって追い風となっていることは明らかである。6月の輸出額は前年同月比+70.9%と1978年10月以来の高い伸びとなるなど急拡大し、単月ベースの輸出額も過去最高を更新した(図2)。半導体の輸出額は前年比で約3倍となるなど、足元の輸出急拡大の動きをけん引している。

図表
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李大統領は6月29日、AIと半導体を軸とする新産業戦略を発表した。具体的には、この分野を主導するサムスン電子とSKハイニックスが同国南西部に計800兆ウォン規模を投資し、各々2ヵ所の半導体製造拠点を新設することを明らかにした。また、政府も2029年までにAIデータセンター向けに550兆ウォンを投資するとともに、2035年までに計1,000兆ウォン超の投資を目指す方針を示している。

李政権が同国南西部をAI・半導体のクラスターに指定した背景には、韓国経済が首都ソウルへの一極集中が進むなか、政権公約に地域格差の是正による経済の活性化を目指したことも影響している。足元では、半導体関連産業はソウル近郊に集積しており、これが分散されることは関連インフラのボトルネックの緩和につながるとの見方もある。一方で、クラスターの拠点とされる光州市や全羅南道は与党・共に民主党が一貫して地盤としてきたため、計画そのものが「我田引水」であるとの批判もある。さらに、半導体クラスターの建設には膨大な電力と水、高度な物流、充実したサプライヤー網、高度で熟練した労働力が必要であり、これらの供給が需要に見合う形で拡大しない可能性もある。とはいえ、世界的にAI・半導体に対する投資が活発化するなか、その供給拡大に向けた先行投資に舵を切る意義は小さくない。

その一方、足元の韓国経済はAI・半導体関連とそれ以外との差が歴然とする「K字型」の様相を強めており、輸出にもそうした動きがみられる。こうした事情は、KOSPIの構成銘柄すべての時価総額に対して、サムスン電子とSKハイニックスの2社の時価総額が約5割を占めていることにも現れている。その結果、2社の株価の動きにKOSPIが大きく左右され、過去数ヵ月にわたって度々サーキットブレーカーが発動する事態に発展している。AI・半導体関連は、引き続き韓国経済の成長の主要エンジンとなることが期待される一方、その恩恵が、個人消費をはじめとする内需の持続的な拡大へと波及するかどうか、政権の舵取りは重要さを増している。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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