日銀は大方の市場参加者の予想通り政策金利を0.75%で据え置いた。反対票は前回に引き続き、高田委員の1票。「『物価安定の目標』は概ね達成されており、海外発の物価上昇の二次的波及から国内物価の上振れリスクが高い」として、政策金利を1.0%に引き上げる議案を提出した。また、高田委員と田村委員はこれまでと同様に物価の基調判断・予測に対して疑義を唱えた。高田委員は「基調的な物価上昇率を含め、消費者物価は既に概ね 『物価安定の目標』に達する水準にある」として、田村委員は「基調的な物価上昇率の見通しについて、2026年度入り後以降、「物価安定の目標」と概ね整合的な水準で推移するとした。
声明文では、足もとの原油価格上昇に関する言及が加わった。物価の先行きについて「政府による物価高対策の効果もあり、いったん2%を下回る水準までプラス幅を縮小したあと、足もとの原油価格上昇の影響がプラス幅を拡大する方向に作用する」とした。そのうえで「原油価格上昇が基調的な物価上昇率の見通しに及ぼす影響についても、留意が必要である」と追記した。第一印象として、原油価格上昇に起因するインフレ圧力の高まりを懸念したように思える。
もっとも、日銀が原油価格上昇を基調的物価上昇率の押し上げ要因として捉えるかは微妙であろう。原油価格が下落した2014年10月の金融政策決定会合では「原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する」と声明文に明記し、追加緩和の根拠とした経緯がある。また2015年3月の展望レポートのBOX1では「原油価格の下落は、エネルギー価格を中心に短期的には物価の押し下げ要因として働くが、そうした直接的な影響は次第に剥落していく。一方、原油輸入国であるわが国経済にとって、原油価格の下落は、交易条件の改善(実質購買力の増加)というプラス効果をもたらすため、やや長い目でみれば、幅広い分野で物価を押し上げる方向に作用する」としている。
今回の原油価格上昇を同じ論法に当てはめれば、原油価格上昇は基調的物価上昇率を下押しすることになる。とはいえ、2014-15年当時との違いとして、企業の賃金・価格設定行動が明確に変化していることである。当時はデフレ的な色彩が濃く残存していたことから、企業は交易条件の改善を受けて企業業績が拡大しても、賃上げを進めず、結果的に物価と賃金の相互刺激的な上昇には繋がらなかった。それに対して、現在はコスト増が価格転嫁に結びつき易くなっている傾向がある。
しかも今回は、ガソリン価格上昇を一旦(政府が石油元売り各社への補助再開を通じて)政策的に飲み込む姿勢を示しているほか、電気・ガスの補助延長を求める声もあり(たとえば国民民主党)、経済活動に対する直接的な下押し圧力が緩和される見込みである。そうであれば、原油高による個人消費の下押し効果は限定的なものとなり、企業は価格転嫁に積極的となる可能性がある。その場合、基調的なインフレは下がらず、むしろ上昇する可能性もある。
とはいえ、現段階では、原油価格上昇が経済活動を圧迫するとの懸念が強い。物価の上振れリスクに直面している現状を踏まえ、4月会合における利上げを予想する声は多いが、日銀は企業収益の圧迫を通じた、賃金下押し、個人消費停滞という「弱気ルート」を想定せざるを得ないだろう。また4月の利上げは、前回の利上げからの間隔が短い。四半期に一度の利上げペースに移行したと受け止める市場参加者が増え、株価が下落する可能性もある。高市政権との距離感を踏まえれば、4月の利上げは見送られるのではないか。
なお、こうした見方は「ドル円が160円を大きく超えない限り」という仮定を置く必要がある。円安が加速すれば、躊躇なく利上げを選択するだろう。
藤代 宏一
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