インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア・25年成長率(速報)は+4.9%と比較的堅調さを維持

~トランプ関税の本格発動前の駆け込みが影響、今後は反動に懸念も、レアアースを巡る動きにも注意~

西濵 徹

要旨
  • マレーシアはASEAN主要国のなかでも人口規模が小さく貿易依存度が高いため、世界経済や米国向け輸出の影響を受けやすい。トランプ政権の相互関税は当初24%、その後に25%とされるなど懸念されたが、通商協議で19%に抑えられ、主要輸出品の一部は関税対象外となり、影響は一定程度軽減されている。

  • 昨年10-12月の実質GDP成長率(速報値)は前年比+5.7%に加速したが、前期比年率では+1.46%に留まり、景気回復に一服感がみられる。鉱業・建設・製造業の生産は国際商品市況の調整や外需不透明感で鈍化する一方、政府の現金給付やガソリン補助金などを追い風に個人消費やサービス業は底堅く推移している。農林漁業は異常気象の影響で勢いが限定的だったが、通年では+4.9%と堅調さを維持している。

  • 今後は関税の本格発動や駆け込み需要の反動が景気に逆風となる可能性がある一方、世界的なAI関連投資や経済特区の進展が下支えとなることが期待される。なお、マレーシアではレアアースの一定の埋蔵が見込まれるなか、米・豪・日が確保に関与している。一方、中国も関与するなど米中の競合が景気や外交関係に影響する可能性が高い。マレーシアにとって対中輸出は対米輸出を上回り、中国との関係を優先する可能性はある。日本としては、CPTPPを通じた関係強化など外交・経済面での関与が不可欠になろう。

マレーシア経済を巡っては、ASEAN(東南アジア諸国連合)主要6ヶ国のなかでシンガポールに次ぐ人口規模の小ささ(3,420万人)も影響して、構造面で貿易依存度が極めて高い。よって、世界経済や貿易を取り巻く環境に左右されやすい特徴がある。さらに、米国向け輸出比率は約15%であるうえ、名目GDP比でも1割強に上ると試算される。こうしたことから、トランプ米政権の関税政策が世界経済を揺さぶるなか、米国は当初、同国に対する相互関税を24%としたほか、その後に25%に引き上げる方針を示した。仮にこれが発動されれば景気に大幅な下押し圧力が掛かるなど、同国経済に深刻な影響が出ることが懸念された。その後の通商協議を経て、相互関税は19%と依然高水準ではあるものの、ASEAN主要国とほぼ同水準となるなど、税率の違いが輸出競争力に影響を与える事態は回避されている。さらに、主力の輸出財である医薬品や半導体製品のほか、一部の農産品を関税の対象外とすることで協議が行われた。結果、2025年10月末に開催された米馬首脳会談を経て、パーム油やゴム製品、ココア、航空機部品、医薬品など計1,711品目、対米輸出の1割強を関税対象外とすることで合意した。したがって、相互関税による悪影響を完全に払しょくすることは叶わなかったものの、極小化することに成功するなど、最悪の事態を回避することができている。足元の輸出については、トランプ関税の本格発動を前にした『駆け込み』の動きが影響する形で堅調に推移しており、景気をけん引する展開が続いている。

図表
図表

こうしたなか、2025年10-12月の実質GDP成長率(速報値)は前年同期比+5.7%となり、前期(同+5.2%)から加速して1年半ぶりの高い伸びとなっている。ただし、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は+1.46%とプラス成長を維持するも、前期(同+9.84%)から大幅にペースが鈍化するなど、足元の景気は底入れの動きに一服感が出ていると捉えられる。分野ごとの生産動向をみると、原油をはじめとする国際商品市況が調整の動きを強めていることが足かせとなる形で鉱業部門の生産が下振れしている。さらに、トランプ関税の本格発動により先行きの外需に不透明感が高まるなか、外資企業を中心に対内直接投資の勢いに陰りが出ていることを反映して建設業の生産も頭打ちしているほか、製造業の生産も鈍化している。一方、政府は経済対策として、2025年8月末から18歳以上のすべてのマレーシア国民に対して100リンギの現金支給のほか、レギュラーガソリン(RON95)への補助金調整を通じた価格引き下げによる景気下支えに動いている。こうした動きを受けて足元のインフレは落ち着いた動きをみせるとともに、個人消費を下支えしているほか、外国人観光客の堅調な流入も追い風にサービス業の生産は底堅く推移している。なお、前期に異常気象の頻発などを受けて農林漁業の生産が下振れした反動で拡大に転じるも、2025年11月下旬にもサイクロン(セニャール)が直撃して勢いは乏しい状況にある。結果として、トランプ関税による影響が懸念されたものの、2025年通年の経済成長率は+4.9%と前年(+5.1%)から鈍化するも、比較的堅調さを維持した。

図表
図表

先行きについては、トランプ関税の本格発動が外需の足かせとなるとともに、これまでの駆け込みの反動も重なることで、景気に逆風が吹きやすい展開となることが予想される。その一方、世界的なAI(人工知能)関連投資の活発化の動きは、半導体関連やデータセンター関連を中心とする投資を促しているほか、その中心地であるジョホール・シンガポール経済特区の進展が下支え役となることが期待される。こうしたなか、先端半導体などの生産に不可欠なレアアースを巡って、その生産や精製で圧倒的なシェアを有する中国が『経済的威圧』の材料に用いる動きをみせていることを機に、全世界的にこの確保を目指す動きが活発化している。マレーシアのレアアースの生産量は中国に遠く及ばないものの、一定の埋蔵量が見込まれるなど、戦略的な重要性が高まっている。2025年10月末の米馬首脳会談では、両国がレアアースの確保を巡る覚書が締結された。さらに、同国でのレアアースの生産には、オーストラリアや日本も参画している。その一方、中国もマレーシアにおける生産、精製に関与する動きをみせており、今後は同国を舞台に米中がつばぜり合いを繰り広げるとともに、そうした動きが景気を左右する可能性がある。なお、マレーシアにとって対中輸出は対米輸出を上回るなか、成長を重視して中国との関係を優先させるリスクはあるが、そうした事態を抑制するためにも、日本としては両国が加盟するCPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を通じた結びつきを強化するなどの取り組みが不可欠になる。その意味では、マレーシアを巡っては景気動向のみならず、その外交姿勢の行方にも注意を払う必要性が高まっている。

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ