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2026.01.15
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韓国中銀、ウォン安圧力の根強さを受けて緩和局面の終了を示唆
~利下げ派は大幅に減少、当面は据え置きが基本も、相場安定へ難しい政策対応が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- 韓国銀行は15日の金融政策委員会で、政策金利を2.50%に5会合連続で据え置いた。足元のインフレは目標近傍に落ち着いている。その一方、昨年はトランプ政権の関税政策に翻弄されてきたものの、関税引き下げ合意の履行により輸出は堅調に推移するなど、景気を下支えする動きが続いている。
- 先行きの輸出は関税発動前の駆け込み需要の反動や追加関税、中国景気の減速など不透明感が残る。しかし、李大統領の訪中を契機に中韓関係改善への期待が高まり、中国向け輸出の下支え要因となる可能性がある。金融市場では、李政権による株価対策に加え、AI投資拡大の動きが続いているほか、外部環境の改善も重なり、主要株式指数は最高値を更新するなど活況を呈する動きをみせている。
- 輸出の堅調さを背景に貿易黒字が拡大し、経済のファンダメンタルズは改善しているが、ウォン安基調が続いている。国民年金公団の為替ヘッジで一時的に落ち着いたものの、ウォン安の根強さが再び意識されている。インフレ率は安定しているが、ウォン安による輸入物価上昇や食料品価格の上昇圧力が残る。不動産価格の上昇と家計債務拡大も金融リスクとなるなか、中銀は慎重姿勢を維持している。
- 中銀は声明文で、景気回復が続く一方、物価や金融安定を巡るリスクを踏まえ、当面は現行金利の維持が妥当とした。景気見通しは概ね据え置きつつ、緩和サイクルの終了を示唆した。李総裁は決定が全会一致であったことを明らかにし、ウォン相場の不安定さを重視する姿勢を示した。政策委員の間で利下げ支持は少数派となるなか、中銀は当面、金利据え置きを基本とする難しい政策運営を迫られるとみられる。
韓国銀行(中銀)は、1月15日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を5会合連続で2.50%に据え置くことを決定した。同行は、2024年10月にコロナ禍一巡後初の利下げを実施するとともに、翌25年5月まで計4回、累計100bpと断続的な利下げに動くなど金融緩和を進めてきた。韓国経済はここ数年、物価高と金利高の共存が景気の足を引っ張る状況に直面してきたが、2024年後半以降のインフレ率は中銀目標(2%)の近傍で推移するなど落ち着きを取り戻している。一方、韓国経済にとって対米輸出は輸出全体の2割、名目GDP比で7%に及ぶ中で、2025年はトランプ米政権による関税政策に翻弄された。米国は当初、韓国に対する相互関税を25%としたものの、その後の協議を経て15%に引き下げられることで合意した。2025年10月末のトランプ氏の訪韓に際して、両国は関税や安全保障問題で合意に至ったものの、その後は詳細を巡る両国の認識の隔たりが顕在化するなど、詰めの協議が難航した模様である。なお、米国は2025年12月初めに合意履行に至ったうえで、11月に遡って適用する方針を明らかにしており、トランプ関税に伴う直接的影響は軽減されている。こうしたことから、足元の輸出は拡大の動きが続いており、外需が景気を押し上げている模様である。

ただし、先行きの輸出については、トランプ関税の本格発動を前にした駆け込みの反動が見込まれるとともに、個別製品を対象とする追加関税も足かせとなる可能性は残る。さらに、最大の輸出相手である中国景気も内需の弱さが足かせとなる展開が続いており、外需を取り巻く環境には不透明感がくすぶる。なお、李在明(イ・ジェミョン)大統領は今月4日から国賓として初めての中国訪問を行い、経済協力の拡大に加え、『秩序ある文化交流』で合意するなど、2016年のTHAAD(終末高高度防衛ミサイル)配備以降、中国が非公式に韓国文化を規制する『限韓令』を敷いた状況の変化が示唆されるなど、中国向け輸出を下支えことが期待される。李氏は元々、2025年の大統領選に際して、株式市場における韓国企業に対する相対的な低評価(コリアディスカウント)の解消、主要株式指数の倍増(KOSPI5000)、任期中に毎月100万ウォンを国内株式に投資する方針を公約に掲げていた。さらに、足元の金融市場においては、AI(人工知能)関連投資の拡大を期待する向きに加え、政権によるコーポレートガバナンス(企業統治)改革の取り組み、株式市場の活性化に取り組んでいることも好感されている。こうした市場環境の改善も追い風に、足元の主要株式指数(KOSPI)は上昇基調を強めて最高値を更新するなど活況を呈している。

その一方、前述のように足元の輸出は堅調な推移をみせるとともに、そうした動きを追い風に貿易黒字は拡大するなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の改善に資する動きがみられるにもかかわらず、金融市場においてはウォン相場に調整圧力がくすぶるなど資金流出圧力に直面する展開が続いている。なお、25年末には国民年金公団が『新たな戦略的為替ヘッジ』に動いたことを明らかにしたことで、一時的にウォン相場が下げ止まる動きがみられた。しかし、その後もウォン安が再燃して25年末に底入れした動きが霧散するなど、ウォン安の根強さがあらためて浮き彫りとなっている。25年12月のインフレ率は前年同月比+2.3%と中銀目標をわずかに上回っているが、コアインフレ率は同+2.0%と目標近傍で推移しており、落ち着いた動きをみせている。ただし、足元ではウォン安に伴う輸入物価の押し上げがインフレ圧力を増幅させる動きが確認されるとともに、食料自給率の低さも重なり食料品など生活必需品を中心に物価が上昇している。さらに、韓国ではここ数年、首都ソウル南部の江南(カンナム)区を中心とする不動産価格の上昇が社会問題化しており、足元でも首都ソウルを中心とする不動産価格は上昇が続いている。こうした動きも背景に、足元の家計債務は拡大基調を強めており、金融セクターを巡るリスク要因となる懸念が高まっている。こうした事情も、中銀が一段の利下げに二の足を踏む一因になっていると考えられる。


中銀が会合後に公表した声明文では、今回の決定について「インフレは徐々に安定が見込まれるなかで景気回復が続く一方、金融の安定性を巡るリスクは依然残り、内外の環境を評価するに当たって現行水準での維持が妥当」との考えを示している。その上で、世界経済について「トランプ関税にもかかわらず、主要国による拡張的な財政政策やAI関連投資に支えられる形で緩やかな拡大が見込まれる」としつつ、先行きは「主要国の金融、財政政策の動向や世界貿易を巡る環境、地政学リスクの影響を受ける」との見方を示した。一方、同国経済は「建設投資は低迷するも、個人消費の回復と輸出の拡大を追い風に改善が続いている」とし、先行きも「半導体関連を中心に輸出の堅調さが続き、内需も改善が続く」として「2026年通年の経済成長率は25年11月予想(+1.8%)と概ね一致する」との見通しを示した。同時に「半導体セクターの動向や主要国経済の景気拡大が見込まれ、景気の上振れリスクがわずかに拡大している」との認識も示した。そして、物価動向について「今後も原油価格の安定を追い風にインフレ率は徐々に2%近傍への低下が見込まれる」としつつ、「ウォン安が上昇圧力を招く可能性は高い」としたうえで、「2026年のインフレ率は25年11月予想(+2.1%)に概ね一致する」との見通しを示す。そして、金融市場について「米ドル高や円安、地政学リスクの高まりがウォン相場の足かせとなっている」とする一方、「住宅ローンの伸びは鈍化しているが、不動産価格は上昇ペースを強めている」との認識を示している。先行きの政策運営について「景気見通しは上方修正されたが、上下双方に振れるリスクが残るうえ、インフレも鈍化が見込まれるが、ウォン安が上振れリスクを招く懸念がある」ほか、「不動産価格や家計債務、ウォン相場が金融の安定性を巡るリスクとなり得る」として、「国内外の政策動向やそれに伴う物価や金融への影響を注視しつつ、景気回復を支援すべく政策判断を行う」とした。25年11月の前回会合では追加利下げの可能性に言及したものの、今回の声明文は緩和サイクルの終了を示唆したものと捉えられる。

会合後に記者会見に臨んだ中銀の李昌鏞(イ・チャンヨン)総裁は、今回の決定について「全会一致であった」としている。政策判断に当たっては「ウォン相場のボラティリティを注視する必要がある」としつつ、「地政学リスクやAI関連の海外資産の購入の動きもウォン安を招く一因になっている」との考えを示した。25年末のウォン相場の底入れを巡って「保健福祉部と国民年金公団によるウォン相場の安定化策を感謝する」とする一方、足元では「個人投資家による海外資産購入の動きが活発化している」との認識を示すとともに、「ウォン安期待に変化を与える必要がある」との考えを示した。また、「ウォン相場を不安定化させる可能性があり、年間200億ドル規模の米国への資金流出には同意しない」として、「政府は本日、米国との通商協議や為替相場に関する声明を発表する予定である」ことを明らかにしたうえで、「暫定的な措置のみならず、長期的な対応の双方が必要になる」との認識を示した。そして、「ウォン安はインフレ圧力を招く可能性はあるが、金融リスクを引き起こす可能性は低い」、「韓国には十分なドルの流動性があり、供給したい人は大勢いるが、売りたい人はわずか」との見方を示した。その上で、「仮に政策金利をウォン相場の安定に用いることになれば、200~300bp程度の利上げが必要になる」と述べるなど、現実的ではないとの見方を示した。ただし、当面の政策運営について「5名の政策委員が当面は据え置きを志向する一方、1名が近い将来の利下げに向けた道を開くべき」と主張するなど、利下げ派が大きく減少していることを明らかにした。また、不動産価格の高騰については「金利上昇だけでは不動産価格の上昇基調を抑制できない」との認識を示した。中銀は事実上利下げ局面の終了を示唆するとともに、先行きはしばらく現行水準での維持を模索しているとみられる。しかし、今後もウォン安圧力が継続した場合は、相場安定のための利上げに動く可能性が高まるものの、李総裁が示すように大幅利上げが必要になることを勘案すれば、現実性は乏しい。その意味では、難しい政策対応を迫られる局面が続くであろう。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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