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2025.12.23
アジア経済
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人口減少・少子化
結婚・未婚・晩婚
アジアにおける少子化の実情と日本の視点
~日本を追うアジア新興国が直面する構造的問題~
西濵 徹
- 要旨
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日本では、出生数と合計特殊出生率が想定を上回る速度で低下しており、少子高齢化が急速に進行している。しかし、こうした動きは日本固有のものではなく、アジア新興国にも共通して広がりつつある。
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一般にアジア新興国は若年人口の多さから「人口ボーナス」を享受しているとみられがちだが、実際には経済成長や都市化、生活コストの上昇、女性の社会進出などを背景に、都市部を中心に少子高齢化が進展している。また、国全体では人口増加が続く場合でも、地域間で人口動態や経済格差が拡大するなど、新たな社会課題が顕在化する動きもみられる。
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韓国では合計特殊出生率が世界最低水準まで低下し、教育費や住宅価格の高騰、雇用の不安定さが結婚・出産を抑制している。韓国政府は住宅、育児、雇用を柱とする包括的な少子化対策を進めているが、効果は限定的である。中国も長年にわたる一人っ子政策の影響や生活コストの上昇、雇用環境の悪化などにより出生数の減少が続いている。足元においては、中央・地方で出産奨励策を強化しているものの、政策間の調整不足という課題を抱えている。
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一方、インドは人口増加が続いているものの、都市部や南部では少子化が進む一方、北部や東部では高出生率が維持されるなど、地域間格差が拡大している。これに伴い、労働力移動や文化的摩擦、経済格差といった新たな問題も生じている。
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こうした状況を踏まえると、アジア新興国が直面する課題は日本が先行して経験してきたものと共通点が多い。日本は「課題先進国」としての経験を活かしつつ、人口動態の変化を正しく見極め、データに基づいた冷静な政策立案を通じて、アジア諸国との共存と協働を模索していく必要がある。
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- 目次
1. はじめに
日本の厚生労働省が公表した2024年の人口動態統計によれば、同年の出生数は68.6万人と1899年の統計開始から初めて70万人を下回るとともに、合計特殊出生率も1.15と前年(1.20)から0.05pt低下して3年連続で過去最低を更新した。なお、2023年4月に国立社会保障・人口問題研究所が公表した将来推計人口(中位推計)においては、出生数が68万人台に低下するのは2039年と想定されていたものの、現実には15年早まった形である。さらに、2025年の出生数は前年を一段と下回るなど、過去最低を更新する可能性が高まっている。したがって、足元の日本においては、想定以上の速さで少子高齢化の動きが進行していることは間違いない。
2. アジア新興国における人口動態を巡る「実情」とは
なお、日本国内において「アジアの新興国」というと、概ね「若年層人口の多さを追い風に高い経済成長を実現している」といった印象を持たれることが多いように思われる。個々の国の人口動態をみれば、確かに人口に占める若年比率が高いうえ、中長期的にみても生産年齢人口の増加が見込まれるなど、いわゆる「人口ボーナス」を享受できる国は少なくない。
ただし、アジアにおいても、近年の高い経済成長やそれに伴う都市化の進展、都市部を中心とする生活コストの上昇、女性の社会進出の加速を受けた結婚・出産観の変化など複合的要因を理由に、都市部を中心に少子高齢化が進展する動きがみられる。コロナ禍を経て各国における出生数は大きく下振れしており、日本と同様に想定を超えるスピードで少子高齢化が進んでいる国もある。
その一方、国全体としては人口増加が続いているものの、大都市部に限れば少子化が進むなど、一国のなかで地域ごとに人口動態が変化するとともに、その背後で経済格差が拡大するといった新たな社会課題が顕在化する動きもみられる。その意味では、過去に日本が経験してきた課題を後追いしている状況にあると捉えることができる。
3. 日本を上回るペースで少子高齢化が進んでいる韓国と中国
アジアにおいて、日本を上回るペースで急速な少子高齢化に直面する国に韓国がある。韓国の合計特殊出生率は、2023年に0.72と世界で最も低い水準となるなど、少子化が深刻化している。その後の合計特殊出生率は微増する動きがみられるものの、依然として人口維持に必要とされる水準(2.1)を大きく下回る状況が続いている。この背景として、過酷な教育競争によって子供1人当たりの教育費が非常に高いことや、これにより首都ソウル首都圏に人口が一極集中し、不動産価格が高騰するなど生活コストが高止まりしていることが挙げられている。さらに、企業規模間の労働格差を背景に、生活の安定を優先するために初婚年齢が遅くなるといった課題も指摘されている。
こうしたなか、韓国政府は若年層が結婚や出産を諦める要因とされる、住宅、育児、そして、雇用を重点課題に掲げて支援する動きをみせる。住宅支援としては、子育て世代を対象とする低利での住宅ローンの所得制限撤廃のほか、公共住宅の供給を優先させるなどの取り組みを拡大させている。また、妊娠や出産への直接支援のほか、不妊治療に対する支援を拡充するなど、希望する出産を後押ししている。そして子育て世代(0歳児や1歳児)に対する現金給付拡充による子育てコストの軽減、男性の育児参画を拡充すべく、労働時間の短縮や男性の育児休業期間の延長といった制度整備を通じて企業文化の改善を促す動きもみられる。さらに、人口政策の司令塔として、政府内でバラバラとなっている予算や政策を一元管理する権限を有する組織として「人口戦略企画部」を新設したうえで、基本計画に基づく政策推進を図る方針を示している。とはいえ、これらの政策による効果は現時点において限定的であり、構造問題への取り組みが不可欠な状況にある。
韓国同様に急速な少子高齢化に直面しているのが中国である。中国では、1980年代から長らく「一人っ子政策」が採られてきたことが少子化を招く一端となってきた。こうしたなか、2015年にこれを廃止して翌16年に「二人っ子政策」を、2021年には「三人っ子政策」を導入するなど、一転して出産奨励に舵が切られた。しかし、現実には出生数の減少が続いており、2023年には902万人と過去最低を更新している。翌24年は縁起が良いとされる辰年が重なった影響で出生数はわずかに増加したものの、長期的にみれば減少傾向に歯止めが掛からない状況が続いている。なお、中国は合計特殊出生率を公表していないものの、足元では1.0程度と試算されている。この背景として、親世代が一人っ子政策時代を暮らし、激烈な教育競争環境に直面してきたことが影響して、大都市部を中心に教育費が高騰するとともに、大都市部の不動産価格の高騰など生活コストが高止まりしていることが挙げられる。一方、コロナ禍を経て若年層を中心に雇用回復が遅れるとともに、社会・文化的な影響による結婚のハードルの高さも重なり、晩婚化や非婚化の動きが広がる動きもみられる。また、女性の就業継続と出産の両立が困難であるといった企業文化に根差した問題も影響している模様である。
こうしたなか、中国では、中央のみならず、地方が独自に少子化や子育て対策を強化する動きがみられる。地方ごとにバラつきがあるものの、出産手当や育児補助金の支給のほか、子育て世代に対する税や社会保険料の優遇、住宅の購入補助や優先枠の設定などを通じた支援、第2子や第3子に対する追加的なインセンティブを設けるといった動きもみられる。また、2025年には、全国レベルで3歳以下の子供を対象に1人につき年間3600元を支給する補助金制度を開始するとともに、教育コストの高さや競争が子育ての心理的ハードルとなっていることを受け、その削減(双減政策)を目的とする学習塾産業に対する規制強化といった動きもみられる。また、3歳までの保育サービスの拡充のほか、産休や育児休暇の延長といった制度の拡充を目指す地域もみられる。ただし、少子化対策を巡っては、地方政府間で過当競争が激化する様子も確認されており、その副作用として企業側がいわゆる『結婚適齢期』の雇用を減らす懸念も出ている。つまり、地方と中央の間で政策運営を巡る「合成の誤謬」が生じており、中央が旗振り役にした戦略の練り直しが不可欠になっている。
4. 全体では人口増も、地域ごとにバラつきが生じるうえ、新たな問題に直面するインド
インドについては、2023年にUNFPA(国連人口基金)が公表したデータにおいて、人口規模が中国を上回って世界1位になったとされた。さらに、人口に占める若年層比率の高さも追い風に人口増加が続いており、2060年頃にピークを迎えると見込まれている。なお、1960年代以前のインドにおいては、人口の爆発的な増加が資源や食糧の不足を招くことが懸念されたため、欧米や国際機関などが旗振り役となる形で避妊教育をはじめとする家族計画が積極的に推進された経緯がある。これにより、1970年代以降のインドの出生率は全体として低下傾向を辿ってきた。こうした動きに加え、近年の高い経済成長やそれに伴う都市化の進展なども追い風に、都市部を中心に女性の教育水準が向上し、それに伴い晩婚化が進んでいることも都市部における少子化を後押ししている。さらに、かつてのインドでは、大家族による生活が前提となってきたものの、都市化の進展に伴い核家族化が進んでおり、家族単位における育児負担が高まっている。また、近年の医療技術の発達を受けて都市部においては乳幼児死亡率が低下しており、多産の必要性が後退していることも、出生率そのものを押し下げる一因になっているとされる。結果、都市部や南部、西部の州における合計特殊出生率は1.4~1.7程度に低下しているほか、首都デリーについては1.2と全国最低水準となるなど、インドにおいても地域的に少子化が進む動きが顕在化している。
一方、インドの北部や中部、東部など伝統的価値観が相対的に強いとされる地域では、女子に対する教育機会が依然として低く、そのことが就業率の低さを通じて社会進出の機会が乏しい。そうした事情も影響して、結婚のタイミングが早いうえ、早産が慣行として残るとともに、社会保障の薄さも影響して子供の存在が老後の保障になりやすいとの観点から多産化する傾向が強い。そのうえ、経済成長から取り残される状況が続くなかで衛生状態は依然悪く、乳幼児死亡率が相対的に高いほか、労働力を確保する観点から男児が好まれる傾向も相対的な多産を招いているとされる。こうした地域においても、近年は合計特殊出生率が低下しているものの、依然として人口置換水準(2.1)を大きく上回るなど、人口の高い増勢が続く状況にある。なお、インドでは人口規模に応じて、連邦議会の議席数や連邦政府から地方への交付金の配分が決定されており、連邦政府などの要請に応じる形で人口抑制に成功した南部の州のなかには、こうした取り組みが進まない北部や東部などに対する不満が高まっているとされる。また、相対的に経済成長が進んでいる南部では労働力不足が問題となっており、北部などからの出稼ぎ労働者への依存が進んでいるが、言語や文化の違いを理由とする摩擦といった新たな問題も生じている。インドの雇用を巡っては、非正規やインフォーマルセクターの割合が高く、社会保障制度が未整備なため、経済格差が地域間格差を深刻化させ、インド経済の構造的な問題となる可能性もある。
5. 「課題先進国」である日本がアジアと共存することの意味を考える
こうした状況を勘案すれば、多くのアジア新興国が直面している状況は、かつて日本が経験してきたものに類するところが少なくない。その意味では、各国が採り得る政策に、過去の日本の教訓を活かす余地も大きい。その先には、各国において日本企業がビジネスを展開する機会も生まれることが期待される。日本においては、すでに労働力不足が経済成長の制約要因となる懸念が高まっており、若年層を中心に人口増加が期待される国々と協働する必要性を訴える声が少なくない。ただし、前述したように、アジア新興国と一口にいっても、すでに日本を上回るペースで少子化が進んでいる国があるほか、国全体としては人口増加が続いているものの、地域ごとに人口の偏在が進むなど新たな課題に直面する国も存在する。日本は、他の欧米諸国などと比べて地理的にアジア新興国と近いうえ、伝統的に経済的な結びつきを強めてきた経緯もあり、共存することへの心理的ハードルは相対的に低いと捉えられる。とはいえ、インドにおいても、言語や文化の違いを理由に、国内の出稼ぎ労働者の間に摩擦が生じていることを勘案すれば、そうした障壁を正しく認識したうえで、あるべき政策を考えることの必要性は高い。深刻な少子高齢化が着実に進む日本に残されている時間は決して多くはないが、こうした状況ゆえに、冷静に、かつ、検証可能なデータに基づく政策立案を進めることが望まれる。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

