インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

マレーシア景気は底入れ続くも、先行きの外需には不透明感山積

~米国との通商合意は追い風の一方、今後は中国との競争激化に晒される可能性に注意が必要~

西濵 徹

要旨
  • マレーシア経済は外需依存度が高く、米国経済の影響を受けやすい。トランプ米政権の相互関税による悪影響が懸念されたが、その後の協議により関税率は当初懸念された水準より低く抑えられた。さらに、対米輸出の1割強(1711品目)が関税対象外となることで合意するなど、最悪の事態は回避されている。
  • 今年前半のマレーシア景気は、関税発動前の駆け込み輸出や堅調な内需に押し上げられた。7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+9.84%に加速して底入れの動きを強めている。これは、トランプ関税の発動後も輸出は底堅く推移し、政府消費が景気を押し上げる一方、個人消費は拡大ペースが鈍化し、設備投資も低迷するなど内需は力強さを欠く。内需の弱さが輸入を下押ししたことも統計上景気を押し上げている。
  • 中銀は関税悪影響への予防的措置として利下げを行ったが、足元では景気下支え策の効果を見極めるべく、その後は様子見姿勢を維持している。足元のインフレは落ち着いた動きをみせているが、食料品価格の上昇懸念が残る。為替面ではリンギ高がインフレ安定に寄与する一方、輸出競争力の低下が懸念される。
  • 米国との通商協議の結果、マレーシアを含むASEAN主要国と中国の対米関税率がほぼ同水準(19~20%)となる一方、中国との競争激化が懸念される。先行きの外需を取り巻く環境には不透明感が山積しており、外需依存度が高い同国景気は個人消費など内需の動向が今後のカギを握る展開が続くであろう。

マレーシア経済を巡っては、周辺のASEAN諸国のなかでも構造的に外需依存度が高い上、対米輸出額は名目GDP比で1割強に及ぶなど、米国経済の動向に左右されやすい特徴を有する。このような背景のなか、トランプ米政権はマレーシアに対する相互関税を当初は24%、その後に25%に引き上げる方針を示したため、仮にこれが発動すれば実体経済に深刻な悪影響が出ることが懸念された。その後の米国との協議を経て税率は19%と依然高水準となったものの、周辺国とほぼ同水準となるなど、税率の差が競争力に影響を与える事態は回避されている。さらに、医薬品や半導体製品のほか、一部の農産品を関税の対象外とすることで協議が行われ、先月末に行われた米国との首脳会談では、パーム油やゴム製品、ココア、航空機部品、医薬品など計1711品目、対米輸出の1割強を関税対象外とすることで合意した。この結果、相互関税による影響が完全に払しょくすることはできなかったものの、その影響を極力抑えることで合意するなど、最悪の事態は回避された。

こうしたなか、今年前半のマレーシアにおいては、トランプ関税の本格発動を前に、輸出に『駆け込み』の動きが出たことに加え、インフレが落ち着いた推移をみせるなかで個人消費も堅調さがうかがえるほか、公共投資の進捗の動きも景気を押し上げる動きが確認された。足元ではトランプ関税の本格発動が外需の足かせとなることが懸念される一方、インフレは引き続き落ち着いた推移が続いている上、トランプ関税による実体経済への悪影響を警戒して中銀は『予防的措置』としての利下げに動いたため、内需を下支えすることが期待された。こうした状況を反映して、7-9月の実質GDP成長率は前期比年率+9.84%と3四半期連続のプラス成長で推移するとともに、前期(同+8.89%)から加速して約3年ぶりの高い伸びとなっている。中期的な基調を示す前年同期比も+5.2%と前期(同+4.4%)から加速して1年ぶりの伸びとなるなど、足元の景気は底入れの動きを強めている。トランプ関税の発動にもかかわらず輸出は底堅い動きをみせているほか、アンワル政権による景気下支え策拡充の動きや公共投資の進捗を反映して政府消費が拡大して景気を押し上げている。その一方、インフレ鈍化や現金給付にもかかわらず、個人消費の拡大ペースは鈍化するなど勢いに陰りが出ている上、企業の設備投資意欲の後退は固定資本投資の重しとなっている。結果、内需の弱さを反映して輸入は減少しており、純輸出(輸出-輸入)の成長率寄与度が大幅プラスとなったことが成長率を押し上げた。分野ごとの生産動向も、外需の底堅さは製造業や鉱業の生産を、公共投資の進捗は建設業の生産を押し上げるほか、個人消費の底堅さはサービス業の生産を下支えしている。しかし、農林漁業関連の生産は下振れしており、先行きは落ち着いた推移をみせる物価に悪影響を与える可能性に注意が必要である。

図表
図表

前述のように、中銀はトランプ関税による悪影響を警戒して利下げに動いたものの、その後はアンワル政権が景気下支え策を拡充させたため、その効果を見定めるべく様子見に転じている。さらに、今月6日の定例会合でも、トランプ米政権との通商合意により不確実性が後退したことに加え、金融市場で通貨リンギ相場が落ち着いた推移をみせていることを好感して、2会合連続で政策金利を据え置くなど様子見姿勢を維持している(注1)。なお、アンワル政権はレギュラーガソリン(RON95)に対する補助金調整による価格引き下げに動いており、こうした動きも追い風に足元のインフレ率は引き続き落ち着いた推移をみせている。しかし、足元では生鮮品や穀物など食料品で物価上昇圧力が高まる動きがみられるほか、農林漁業関連の生産が下振れする動きが確認されており、先行きは供給懸念がさらなる物価上昇を招く可能性が残る。一方で、金融市場においては米ドル高が再燃する兆しがみられるものの、リンギの対ドル相場は堅調な動きをみせており、輸入物価を通じてインフレの安定に寄与することが期待される。ただし、経済構造面で輸出依存度が相対的に高いマレーシア経済にとってリンギ高は輸出競争力の低下に繋がることが懸念される。米国との通商協議を経て、同国を含むASEAN主要国の相互関税は19~20%とほぼ同水準となっており、税率の差が輸出競争力に影響を与える事態は回避されている。その一方、先月末の米中首脳会議を経て、米国は中国に対するフェンタニル問題を理由とする追加関税を引き下げており、トランプ第2次政権以降に課される関税は20%とASEAN主要国と同水準となる。このことは、今後は中国との間でも関税率の違いによる競争力に差がなくなることを意味しており、サプライチェーンの見直しの動きに再び大きなうねりが生じることも考えられる。先行きの外需を取り巻く環境は中国との競争激化も含め、極めて不透明な状況が続く可能性が見込まれる一方、個人消費など内需の動向が景気のカギを握ることになろう。

図表
図表

図表
図表

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ