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- 信任投票後のフランスの政治シナリオ
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- 9月8日の内閣信任投票でフランスのバイル首相は退陣に追い込まれる可能性が高い。現在の議会構成の下では、新たな首相を任命しても政権運営は早晩行き詰まる。国民の間では、議会の解散・総選挙を求める声が増えている。前回の議会選挙では、中道と左派が候補者を一本化することで、極右の政権奪取を阻止した。その後に両者の関係が悪化しており、同様の選挙協力を行うかどうかは予断を許さない。政治膠着が続くなか、マクロン大統領の退陣を要求する声も一部で浮上している。フランス国民の間で極右アレルギーが薄れており、次の大統領選挙では極右政党出身の大統領が誕生する可能性が高まっている。
政権崩壊の危機にあるフランスでは、バイル首相が主要政党の関係者との協議を重ね、自身の予算案への賛成を取り付けようとしているが、その試みは失敗に終わりそうだ。マクロン大統領と政権を支持する中道会派と中道右派の共和党(LR)以外の政党は、今のところ9月8日の内閣信任投票で不信任票を投じる意向を示唆している。1日に首相と面会した極右政党・国民連合(RN)のバルデラ党首は、「奇跡は起こらなかった」と話し合いを総括し、政府の予算案に改めて反対する意向を示唆した。同席した同党のルペン氏は、新たな多数派が予算を作成するため、国民議会の早期解散を要求した。バイル首相就任後の内閣不信任案を棄権し、今回も政権存続の鍵を握る中道左派の社会党(PS)も態度を硬化させている。同党のフォール党首は予算案の大幅な修正と左派に政権を託すことを求めている。社会党の代表とバイル首相は4日に協議を予定しており、バイル首相は最後の望みを賭けるが、社会党の協力を得るには予算案の抜本的な修正が必要となる。
内閣が信任されない場合、バイル首相は辞任する。大統領は後継首相を任命するか、国民議会(下院)を解散するかを決断する(図表1)。マクロン大統領はこれまでのところ、自身の任期が満了する2027年までの間に、新たな解散・総選挙を行う意向がないことを示唆している。現在、下院の会派構成は、大統領を支持する中道会派と共和党が約37%、左派勢力が約33%、極右勢力が約24%の議席を分け合う(図表2)。後継首相候補としては、現政権を支える共和党出身で、後に中道会派に合流したルコルニュ国防相やダルマナン司法相などの名前が挙がる。社会党は左派に政権を託することを、国民連合は議会の解散・総選挙を求めている。どの勢力から後継首相を選んでも議会の過半数には届かず、安定政権の樹立が困難な状況にある。政策的な立場の違いを考えると、会派を横断する連立や連携は難しく、イタリアのようなテクノクラートが主導する挙国一致内閣の前例もない。後継首相を任命しても、すぐに政権が行き詰まる可能性が高い。


政治停滞を懸念し、国民の間では早期の解散・総選挙を求める声が高まっている(図表3)。現在の議会構成の下で、唯一、安定政権が樹立可能な組み合わせは、極左・不服従のフランス(LFI)を除く左派勢力と中道勢力が連携する場合が考えられるが、この場合、左派の政策要求を呑む形で予算案の大幅修正が必要となり、財政再建が進まず、フランスの国債利回りの更なる上昇や国債の格下げなどを招く可能性が高い(図表4・5)。秋から冬にかけては、予算関連の重要日程や主要格付け機関によるフランス国債の格付けレビューが目白押しだ(図表6)。下馬評を覆し、8日の投票で内閣が信任される場合も同様で、バイル首相が左派の要求を呑む形で予算案を修正する以外に、そうしたシナリオは考えられない。投票結果がどちらに転んだとしても、政局混乱が継続するか、財政リスクが高まるか、フランスを巡る不安が続くことになろう。




解散・総選挙となった場合、極右が議席を伸ばす可能性が高い。最近の世論調査では、極右が前回並みの支持を集めるなか(国民連合以外の極右政党に一部支持が流れているが)、中道や左派が支持を落としている(図表7)。昨年の国民議会選挙では3人以上が決選投票に進む選挙区が多く、中道と左派が候補者を一本化することで、極右政権の誕生を阻止した(図表8)。結果的に、議会の最大会派となった左派は首相の座を要求したが、マクロン大統領がこれを固辞した。その後に中道と左派の関係は冷え込んでおり、再び反極右で団結できるかは予断を許さない。選挙協力の見返りに左派が首相の座を要求する場合、選挙後の財政悪化リスクが高まる。極右が単独過半数に届くか、マクロン大統領が極右に政権を託するかなど、不透明要素は多いが、極右政権誕生の防波堤が破られる可能性は今まで以上に高まっている。何れの勢力も過半数に届かない場合、再び安定政権の樹立が困難になり、政治停滞が続くことになる。


政治停滞が続くなか、マクロン大統領の辞任を求める声も一部で浮上している。このまま首相後退や解散・総選挙を繰り返しても政治膠着を打開できない場合、マクロン大統領の責任を問う声が更に高まりかねない。マクロン大統領は辞任の可能性を否定するが、次の大統領選挙は2027年に予定され、三選禁止の下でマクロン大統領は出馬ができない。極右政党の大統領候補は、来年夏頃に予定される控訴審判決で、公金不正利用による公職停止が解かれれば、過去3回と同様にルペン氏が出馬する公算が大きい。ルペン氏の有罪が確定し、大統領選挙に出れない場合、後継者であるバルデラ党首が出馬することになるだろう。何れの候補が出馬した場合も、最近の世論調査では最多の支持を集めることが示唆される(図表9)。中道、右派、左派の候補が決選投票でバルデラ氏と対峙した場合、フィリップ元首相が互角の争いとなる以外は、バルデラ氏が勝利するとの調査結果もある(図表10)。過去の大統領選挙では、反極右がマクロン大統領に流れることで、極右の勝利は阻止されてきた。ただ、過去の世論調査と大統領選挙の結果と比べて、最近の世論調査は極右がより高い支持を集めている(図表11)。極右出身の大統領が誕生する可能性は、これまで以上に高まっている。



田中 理
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