株高不況 株高不況

財政拡張と「日本売り」「トリプル安」

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月42,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が▲0.3%、NASDAQが▲0.3%で引け。VIXは16.3へと上昇。

  • 米金利はカーブ全般で小幅に金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.40%(+0.4bp)へと上昇。
    実質金利は1.884%(±0.0bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+51.4bpへとプラス幅縮小。

  • 為替(G10通貨)はUSDが堅調。USD/JPYは148前半へと上昇。コモディティはWTI原油が64.0㌦(+0.1㌦)へと上昇。銅は9731.5㌦(▲30.5㌦)へと低下。金は3353.1㌦(▲86.0㌦)へと低下。

注目点

  • 日本の長期金利を取り巻く環境を①日銀の金融政策、②米長期金利、③日本の財政に大別して整理する。

  • 日銀の利上げ観測は高まっている。7月金融政策決定会合後に実施された植田総裁の記者会見は利上げに慎重であるとの受け止めが多く、実際、その後は円安が進行した。しかしながら、8月8日に発表された「主な意見」には利上げに肯定的な声が多く含まれており、物価見通しの上振れを警戒する委員もいた。そうした中で、OIS金利から逆算した10月会合までの利上げ確率を38%、12月会合までのそれを52%と比較的高く見積もっている。それでも予想ターミナルレート(今次局面における政策金利の最終到達点)の代理指標である2年先1年金利は1%をやや上回る水準に過ぎず、3月の水準(1.2%程度)には届いていない。この点において筆者は、利上げ観測が高まり、長期金利にも上昇圧力がかかるとみている。市場参加者は、景気の先行き等に鑑みて利上げに慎重な見通しを維持しているようだが、筆者は対日トランプ関税が15%に落ち着いた現状、食料品価格が高止まりするところに、既往の人手不足由来のインフレ圧力が加わり、それに応じて利上げ観測が高まると予想する。賃金インフレを象徴する指標としては企業向けサービス価格指数があり、なかでも人件費率の高いサービスにおいて上昇が顕著になっている。

  • 次に米長期金利については、7月中旬以降に10年金利が4.5%近傍、30年金利が5%強に到達して以降は緩やかに低下しており、現在のところ円金利の上昇ドライバーにはなっていない。トランプ関税に起因するインフレ懸念は燻る一方、労働市場の軟化を受けて9月FOMCにおける利下げ再開観測が急速に高まったことが背景にある。関税については、財価格のインフレ率に数ヶ月の先行性を有する(ISM企業景況感調査の調査項目である)仕入価格が急上昇しているのをよそに、CPIなど消費者段階の統計では、関税由来のインフレはいまだ表面化しておらず、今後、消費者段階においても財価格が急上昇する可能性は十分にある。一方で、消費者物価指数の内訳で3割のウェイトを有する家賃については、住宅市場の冷え込みを背景に上昇率の鈍化が見込まれている。また賃金上昇率も大きくみれば低下傾向にあり、これらを踏まえるとサービス価格が反転上昇する可能性はなお限定的と言える。

  • なお2026年5月に任期満了となるパウエルFRB議長の後任としては、NEC(米国家経済会議)委員長であるハセット氏、ウォラーFRB理事、ウォーシュ元FRB理事が取り沙汰されていたところに、8月11日は新たにボウマンFRB副議長、ジェファーソンFRB副議長、ローガン・ダラス連銀総裁の名が加わった。4月上中旬にトランプ大統領がパウエル議長の解任を目論んでいると伝わった際には、大幅利下げを断行する人物がFRB議長に送り込まれるという憶測が生じたが、これまでのところ議長候補と目される人物に極端な政策思考を有している人は見当たらない。人選を担っているとされるベッセント財務長官のお墨付きであれば、トランプ大統領の要求に対して完全に従順でなくとも、トランプ大統領も納得するということなのだろうか。

  • ちなみに2026年1月の任期満了を待たずして退任したクーグラーFRB理事の後任にはCEA(大統領経済諮問委員会)のミラン委員長が指名された。同氏はドル高を是としない「マールアラーゴ合意」の構想を示したことで有名であるが、各種報道によれば、この人事は飽くまで「穴埋め」である。次期議長候補を理事に送り込み、内部で実権を掌握し、そのまま議長に昇格させる奇策ではない模様であり、その点において安心感がある。

  • 最後に日本の財政。参院選後、首相の進退を含めて情勢は極めて流動的であるが、財政政策は多くの市場関係者が予想していたとおり拡張方向にある。その象徴として、ガソリンの旧暫定税率の廃止があり、実現するとガソリン価格は25.1円引き下げられる。減税規模は1兆円程度と試算されており、現時点で代替財源は示されていない。

  • 金融市場を見通す際、こうした文脈では、その後に政府財政の持続性を疑問視する方向に議論が進み、「国債格下げ」の可能性に言及しつつ、「トリプル安」や「日本売り」といった結論に至りがちだ。だが、一方でインフレによって名目GDPが拡大する中、それに応じて税収が過去最高を更新していることはよく知られており、そうした下で資金循環統計に目を向けると、一般政府は貯蓄超(黒字化)が目前に迫り、政府債務残高のGDP比は低下基調にある。ポピュリズム、シルバー民主主義、「バラマキ体質」などと揶揄されるように、政府が不人気政策を採用しにくくなっている面は否めないが、一方で日本の財政は必ずしも悪化していない。インフレ下における財政支出拡大によって(インフレに)火に油を注いでしまう懸念はあるものの、「財政不安→金利急上昇・円急落」という単純かつ悲観的な展開にはならないのではないか。

藤代 宏一


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