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2025.08.05
アジア経済
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インドネシア、4-6月成長率は前年比+5.12%と堅調に推移
~旺盛な内需や外需の駆け込みが景気を押し上げる一方、先行きはその反動に注意する必要がある~
西濵 徹
- 要旨
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- 世界経済と金融市場はトランプ米政権の関税政策に翻弄される状況が続き、インドネシアも例外ではない。米国は同国への相互関税を32%から19%に引き下げたが、米国からのほぼすべての輸入品への関税をゼロとするほか、中国の迂回輸出防止を目的とする内容が盛り込まれた模様である。直接的なマクロ面での影響は限定的と見込まれるが、近年は米国向け輸出への依存を強めるなかで影響は不可避である。
- 一方、同国ではプラボウォ政権のバラ撒き政策とインフラ投資の削減というバランスを欠く財政政策の副作用が表面化する動きがみられた。しかし、インフレ鈍化を受けた中銀による断続的な利下げやトランプ関税の発動を前にした輸出駆け込みの動きが足元の景気を下支えしており、4-6月の実質GDP成長率は前年比+5.12%と2四半期ぶりに5%を上回った。個人消費や設備投資など内需の堅調さに加え、輸出の駆け込みによる外需の押し上げの動きが景気拡大を促している様子が確認されている。
- しかし、今後は関税の本格的な影響に加え、輸出駆け込みの反動が外需の重石となる可能性がある。国内でもインフレ動向が景気の足かせとなるリスクもくすぶる。金融市場ではトランプ米政権の政策運営が米ドル安を促すとともに、いわゆる「TACOトレード」は同国への資金流入を促している。しかし、世界経済に不透明感が高まるなか、金融市場の変動など外部環境が同国経済を左右する可能性に要注意と考えられる。
このところの世界経済や金融市場を巡っては、トランプ米政権の関税政策に翻弄され続けている。トランプ米政権は当初、インドネシアに対する相互関税を32%とASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のなかでも高水準としたが、先月に19%に引き下げることで合意したことを明らかした(注1)。しかし、税率は未公表ではあるものの、中国による迂回輸出の抑制を念頭に、第三国から同国を経由して米国に輸出される財に高関税を課すことが盛り込まれたとみられる。さらに、米国から同国への輸入品の99%に対する関税はゼロとするとともに、協定の一環として同国は米国から航空機やエネルギー、農産物の輸入を拡大する方針が盛り込まれるなど、極めて不平等な内容となっている。なお、インドネシア経済にとって対米輸出額は名目GDP比2%弱に留まる。その一方、ここ数年のインドネシア経済にとっては、中国景気の勢いに陰りが出るとともに、商品市況の低迷も重なり対中輸出は頭打ちの動きを強める一方、堅調な米国景気を追い風に対米輸出は対照的に拡大してきた。よって、経済成長の観点で対米輸出への依存を強めてきたと捉えられるなか、当初に比べて関税は低水準となるも、そのハードルが高まることにより先行きは悪影響が避けられない見通しである。

さらに、年明け以降の同国経済は昨年発足したプラボウォ政権による政策運営に翻弄される状況に直面した。プラボウォ政権を巡っては、発足当初から国内外で『肥満内閣』と揶揄されてきた上、プラボウォ氏も自身の任期中に経済成長率を大幅に引き上げる野心的な目標を掲げるなか、公約実現に向けたバラ撒き政策が財政悪化を招くことが懸念された。よって、プラボウォ氏は金融市場の懸念払しょくを目的とする歳出見直しに動くも、公約に掲げた学校給食無償化など貧困層や低所得者層に支持されやすい政策を重点化する一方、インフラ整備など公共投資を軒並み削減対象となるなどバランスを欠いた。この結果、インフラ投資計画に遅延、遅滞が生じるとともに、政府関連事業も停滞するなどその『副作用』が顕在化するなど、幅広い経済活動に悪影響が生じている模様である。その一方、足元のインフレ率は中銀が定める目標下限近傍で推移するなか、中銀は昨年以降に断続的な利下げに動いており、個人消費の下支えが期待される状況にある。こうしたなか、4-6月の実質GDP成長率はトランプ関税の発動を前にした輸出の『駆け込み』が下支え役となったこともあり+5.12%と前期(同+4.87%)から加速して2四半期ぶりに5%を上回る伸びを回復している。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は拡大ペースが加速しており、足元の景気は堅調な拡大が続いていると捉えられる。

その内訳をみると、インフレが落ち着いた推移をみせるなかで実質購買力が押し上げられているほか、昨年来の中銀による断続的な利下げ実施を受けた金利負担の軽減も重なり、個人消費は堅調な推移をみせている。ただし、個人消費を巡っては、サービス消費は堅調な動きをみせている一方、日用品や耐久消費財をはじめとする財消費は対照的に力強さを欠いており、バラつきがこれまで以上に鮮明になっている様子がうかがえる。その一方、前期はプラボウォ政権による政策運営の不透明さが企業部門による設備投資の足を引っ張る動きがみられたものの、そうした懸念が幾分後退していることに加え、中銀による断続的な利下げ実施も追い風に設備投資が大きく押し上げられたほか、公共投資の進捗促進の動きも固定資本投資の拡大を促している。しかし、前期は学校給食無償化など公的部門における活動が活発化したことを反映して政府消費が押し上げられたものの、当期はその反動で減少に転じた。他方、トランプ関税の発動を前にした駆け込みの動きを反映して輸出は大きく上振れしている。ただし、個人消費や設備投資需要の堅調さを反映して輸入は輸出を上回るペースで拡大しており、純輸出の成長率寄与度は前期比年率ベースでマイナスに転じていると試算される。このため、足元の景気は数字以上に堅調な動きをみせていると捉えられる。また、分野ごとの生産動向を巡っても、輸出の駆け込みの動きに加え、個人消費や企業の設備投資など内需の堅調さを反映して、製造業や建設業、幅広くサービス業の生産は拡大する動きが確認できる。一方、商品市況の低迷が鉱業部門の生産の重石となる展開が続いているほか、前期に大きく上振れした農林漁業関連の生産はその反動に加え、異常気象なども重なる形で下振れするなど、業種ごとのバラつきが鮮明になっている。

なお、足元の景気が拡大の動きを強める背景には、トランプ関税の発動を前にした輸出駆け込みの動きがその一助となっている可能性に留意する必要がある。先行きは対米輸出に19%の相互関税が課されることに加え、年前半の駆け込みの反動が出ることも予想されるなど、外需は下振れすることが懸念される。また、足元のインフレ率は中銀目標の下限近傍で推移する動きが続いているものの、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まる動きが確認されている。足元で農林漁業関連における生産の頭打ちの動きが確認されており、先行きにおける供給懸念が物価上昇圧力を強める可能性が考えられる。さらに、金融市場においてはトランプ米政権の政策運営に対する不透明感が米ドル安を促している上、トランプ氏による『TACO(腰砕け)』が意識されるなかでリスク選好が高まっていることも相俟って、同国の通貨ルピア相場は底堅い動きをみせている。しかし、トランプ関税が世界貿易の萎縮を通じて世界経済の足かせとなることが懸念されるとともに、金融市場の楽観が修正される事態となれば、同国市場を取り巻く状況が変化するほか、政策運営の行方を左右する可能性もくすぶる。よって、同国経済の行方は引き続き外部環境に左右されることに留意する必要がある。


注1 7月16日付レポート「インドネシアが通商協議を加速、EUや米国と合意に至った模様」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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