株高不況 株高不況

長期金利の上昇一服と、低下する政府債務残高のGDP比

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月42,000円程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。
  • 日銀は利上げを続け、2026年前半に政策金利は1.0%に到達しよう。
  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。
目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.5%、NASDAQが+0.9%で引け。VIXは16.6へと低下。

  • 米金利はツイスト・フラット化。予想インフレ率(10年BEI)は2.312%(+2.0bp)へと上昇。
    実質金利は1.951%(+1.6bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+49.0bpへとプラス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは143後半へと上昇。コモディティはWTI原油が67.5㌦(+2.0㌦)へと上昇。銅は9934.0㌦(±0.0㌦)へと上昇。金は3359.7㌦(+9.9㌦)へと上昇。

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注目点

  • 日本の超長期金利は5月下旬をピークに低下傾向にある。30年金利は5月22日に3.18%を付けた後、7月2日は2.89%となった。筆者は超長期金利の上昇要因を①日銀の利上げ観測復活、②日銀の国債買入れ額に対する不透明感、③米金利上昇、④日本の財政懸念に分類し説明してきた。結論を先取りすると①は中立的で、②③④が超長期金利の低下に寄与してきたと考えられる。②の日銀の買入れ方針については、金融政策決定会合を通過し、買入れ減額計画の見直しが織り込まれたため、既に金利押し上げ要因ではなくなっている。

  • ①日銀の利上げ観測については、市場参加者が予想するターミナルレート(政策金利の最終到達点)の代理指標である2年先1年金利(≒2年後に成立しているとみられる1年金利の水準)は7月2日時点で0.96%となっている。トランプ関税の発表を受けて0.7%を割れる水準まで低下したものの、日本国内のインフレが粘着性を帯びる中、通商交渉の進展期待もあり、じわじわと水準を切り上げている。トランプ関税の全容が明らかになる以前の3月下旬につけた1.2%超には届かないものの、日銀の利上げ観測それ自体はイールドカーブ全体を押し上げる方向に作用しているとみられる。

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  • ③米長期金利上昇については、パウエルFRB議長が早期利下げに距離を置いている一方で、ボウマン副議長やウォラー理事といったFed中枢部が7月FOMCにおける利下げに前向きな発言をしている。またトランプ大統領の注文が苛烈さを増していることから、利下げ観測が高まり、長期金利の低下にも繋がっている。FF金利先物から逆算した7月FOMCにおける利下げ確率は27%程度となお低いとはいえ、6月FOMC直後からはじりじりと上昇しており、それに伴い年内の利下げ回数も2.6回程度まで高まっている。本日(7月3日)発表の雇用統計が軟調な結果となり、景気減速の兆候が強まれば、早期利下げ観測が一気に高まる可能性は十分にあるだろう。そうした背景から米30年金利は、5月21-26日にかけて5%を超えていたが、7月2日には4.80%まで低下し、日本の30年金利に対して低下要因となった。もっとも、2024年以降の日米30年金利の関係を基準にすると、傾向線のやや上方に位置している。ここからは日本固有の要因(利上げ、日銀の買入れ、財政など)が効いている可能性が示唆されるが、その点について財政要因は、今後の方向感として金利低下要因になる可能性が高いと筆者は判断している。

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  • ④の財政懸念について、まず前提を揃えておくと、ここで言う財政懸念は破綻/デフォルトを意味せず、飽くまで国債増発など国債需給に対する懸念である。7月20日投開票の参院選の結果次第で、再び拡張的な財政政策が債券市場で意識される可能性はあるが、この1ヶ月程度の変化として、自民党が消費減税に距離を置いたことで、財政懸念は和らいでいる。

  • その上で、直近の財政収支に関するデータに目を向けると、財政赤字は明確な縮小傾向にある。資金循環統計(2025年1-3月期)によれば一般政府の資金不足額(季節調整値)は2024年10-12月期の▲0.5兆円から僅か▲0.1兆円にまで縮小し、黒字化が目前に迫った(※統計の遡及改定前では2024年10‐12月期は黒字であった、グラフはGDP比)。また資金循環統計を基に政府債務残高のGDP比を計算すると、総債務は225.4%と低下傾向にある。2020年4―6月期に記録した265.4%からは40%pt程度の大幅低下であり、2012年頃の水準に戻っている。純債務でみれば85.4%と、2020年4―6月期のピーク水準である137.7%から大幅に改善し、リーマンショック直後と同程度まで戻している。

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  • 無策を象徴するバラマキに対する批判はあるにせよ、足もとで議論されている景気対策が「税収の上振れ分」程度の規模になるのであれば、こうしたトレンドが逆回転するとは考えにくい。次に財政の健全性を議論する上で、重要視されているドーマー条件、すなわち「名目GDP成長率>長期金利」の関係に目を向けると、インフレ率加速によって名目GDPが拡大する中、長期金利は抑制されている。これは名目GDP拡大に伴う税収増加が(利払い費に消化されず)財政収支の改善に貢献できることを意味するため、財政懸念を和らげる(※理論上、名目GDP拡大は、債券市場の予想インフレ率と予想実質金利を高めることから名目長期金利に上昇圧力をかけるが、ここでは財政に着目した議論に限定する)。こうした状況で政府債務が発散する姿は想定しにくい。一部で国債の格下げが懸念されているとはいえ、日本の財政事情が持続的な金利上昇要因として作用する可能性は現時点で限定的に思える。

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藤代 宏一


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