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ECBの利下げサイクルは終わりに近づく

~関税協議が決着すれば、7月の追加利下げは見送りへ~

田中 理

要旨
  • ECBは6月の理事会で25bpの追加利下げを決定した。利下げ後の政策金利は2.0%と、ECBが考える中立金利(1.75~2.25%)の中間に位置する。関税協議を巡る不確実性が高く、今後もデータに基づいて理事会毎に政策を判断する従来のガイダンスを維持した。だが、同時にラガルド総裁は「利下げサイクルが終わりに近づいている」と指摘したほか、「先行きの不透明な状況を乗り切るのに十分な態勢がある」と述べるなど、利下げ打ち止めの地均しを始めるとともに、関税ショックの克服に自信も覗かせた。

  • 今後の利下げは7月9日に期限を迎える米EU間の関税協議次第だが、筆者は7月に追加利下げを見送った後、関税引き上げの悪影響をデータで確認したうえで、9月に追加利下げをすると予想する。7月9日までに関税協議がまとまらずに延長戦に入る場合、いったん7月に追加利下げを行い、9月理事会までに継続協議がまとまれば、9月の追加利下げは見送り、まとまらない場合には、9月の連続利下げで政策金利を中立金利未満に誘導するとみる。つまり、政策金利は秋までに1.75%まで引き下げられるのがメインシナリオ、1.5%まで引き下げられるのがサブシナリオとなる。

欧州中央銀行(ECB)は6月の理事会で25bpの追加利下げを決定した。利下げは7会合連続で、昨年6月の利下げ開始以来の通算の利下げ幅は200bpとなった。これにより、ECBが現在主たる政策金利に用いている預金ファシリティ金利(下限の政策金利)は2.0%に低下した。これはユーロ圏の中立金利(景気を過熱も抑制もしない政策金利で、ECBは現在1.75~2.25%程度にあると想定)の中間地点に相当する。

ラガルド総裁は理事会後の記者会見で、今回の追加利下げの決定が全会一致に近かったとし、投票メンバーの1人が反対票を投じたと説明した。タカ派メンバー1人が利下げ打ち止めを示唆したと思われる。加盟国拡大に伴いECBは中銀総裁の輪番制を採用しており、タカ派メンバーで今回の理事会で投票権を持っていたのは、ドイツ出身のシュナーベル理事と、オーストリア、ベルギー、スロバキア、オランダ、エストニア、ドイツの各中銀総裁で、このうちの1人が利下げに反対票を投じたものと思われる。

声明文では、関税協議の先行きとそれに付随した不確実性を背景に、景気に下振れリスクがあるとの判断を維持したが、それと同時に、国防費を中心とした財政支出の拡大がグローバルショックへの耐性を高めると指摘している。ラガルド総裁も「現在の金利水準であれば、先行きの不透明な状況を乗り切るのに十分な態勢にある」と発言するなど、関税ショックの克服に自信を覗かせた。4月の前回理事会は、米国による相互関税が発表されてから約2週間後に行われ、「準備」と「機敏さ」を強調していた。その時と比べると、関税ショックに対する警戒トーンは薄れている。

先行きの利下げ判断については、「とりわけ現在のように不確実性が極めて高い状況下では、データに基づいて理事会毎に適切な金融政策スタンスを判断することを継続する」と強調した。後述するECBのスタッフ見通しは、あと1~2回の追加利下げを想定する市場の金利見通しを前提としており、この点からも小幅の追加利下げが正当化される。ラガルド総裁は同時に、「利下げサイクルは終わりに近づいている」と述べ、近い将来の利下げ打ち止めに向けた地均しも始めている。

同時に発表されたECBのスタッフ見通しによれば、ユーロ圏の実質GDP成長率は、2025年が前回3月時点の見通しから不変の+0.9%、2026年が+1.2%から+1.1%に僅かに下方修正され、2027年は前回同様に+1.3%への成長加速を見込んでいる。物価見通しは、2025年が+2.3%から+2.0%に、2026年が+1.9%から+1.6%に何れも下方修正され、2027年は+2.0%で前回から修正されなかった。なお、スタッフ見通しでは、10%のベースライン関税のみで、上乗せ関税や報復関税は想定していない。

2026年の物価見通しが2%の中期的な物価目標を大きく下回るが、これは主に予測の前提となるエネルギー価格や為替レートの想定が機械的に変更されたことによるもので、2027年には前回見通しと同様に再び+2.0%への再加速を見込んでいる。コア物価では2025年+2.4%、2026年+1.9%、2027年+1.9%と概ね中期的な物価安定に即した推移を見込んでおり、ラガルド総裁も記者会見でこの点を強調していた。

筆者が考える今後の利下げパスを、関税協議のシナリオ毎に整理してみる。次回の理事会は7月24日で、同月9日に控える米EU間の関税交渉期限後となる。次の利下げで政策金利は中立金利の下限に到達し、更なる利下げ余地も限られることから、関税協議が米国による相互関税の10%近くへの引き下げと、EUによる報復関税を回避する形で決着すれば、7月の追加利下げは見送られる公算が大きい。その場合も、関税引き上げによる輸出減少などの悪影響が実際のデータで確認される9月に追加利下げを行い、その後は様子見に転じる展開を想定する。

7月9日までの期限に関税協議が決着せず、米国による関税引き上げとEUによる報復措置が行われた場合、7月の理事会で予防的な追加利下げを行うと予想する。いったん米EUが相互に関税を引き上げた場合も、米国と中国との関税協議と同様に、その後にお互い関税を引き下げる形で決着する可能性が高い。そのタイミングが9月の理事会前であれば、9月理事会での追加利下げが見送られ、9月理事会後にずれ込む場合には追加利下げで対応すると予想する。

米中間選挙を睨めば、米EU間の関税協議が延長戦に入った場合も、年内妥結の公算が大きい。来年にはドイツの財政政策転換や欧州各国による国防費の増加が景気回復を後押しするとみられ、関税協議が延長戦に入った場合も、政策金利の下限は中立金利をやや下回る1.5%程度を想定する。関税ショックを乗り切り、来年の景気回復が確認されれば、政策金利は比較的速やかに中立金利の中間地点である2.0%まで引き上げられると考える。

なお、ラガルド総裁が2027年秋の任期満了を前に退任し、ダボス会議を主催する世界経済フォーラムの会長に就任するとの観測が浮上しているが、総裁は記者会見で「最後まで責務を全うする」と発言し、早期退任を否定した。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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