株高不況 株高不況

日銀は利上げ継続へ 人手不足、お米、通貨問題

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月39,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月150円程度で推移するだろう。

  • 日銀は半年に一度の利上げを続け、2026年1月までに政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年末までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が▲2.4%、NASDAQが▲2.6%で引け。VIXは33.8へと上昇。

  • 米金利はベア・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.231%(▲0.7bp)へと低下。
    実質金利は2.178%(+9.5bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+64.2bpへとプラス幅拡大。

  • 為替はUSDが全面安。USD/JPYは140後半へと低下。コモディティはWTI原油が63.1㌦(▲1.6㌦)へと低下。金は3406.2㌦(+97.5㌦)へと上昇。

米国イールドカーブ
米国イールドカーブ

米国イールドカーブ(前日差)
米国イールドカーブ(前日差)

米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国長短金利差(2年10年)
米国長短金利差(2年10年)

注目点

  • トランプ政権の政策不透明感によって日銀の利上げ観測は後退した。自動車を中心に米国向け輸出が減少し、景気に下押し圧力がかかるとの懸念が背景にあろう。従来の判断からすると、こうした状況での金融引き締めは、景気の下振れリスクを増幅させてしまうからあり得ない選択肢であった。もっとも、現在の日銀が政策判断において重視しているのはインフレ圧力であり、これは構造的な色彩を強めている。筆者は「半年に一度」の利上げが維持され、7月に利上げがあると予想する。

  • 人手不足に由来する賃金上昇圧力は相変わらず強い。日銀短観3月調査では人手不足判断DIが1991年以来の水準に到達。当時との違いは景気の強さであろう。幸か不幸か「猫の手も借りたい」空前の人手不足はバブル崩壊と共に解消し、その後失業率が上昇するに至った。他方、今次局面の人手不足はGDP成長率がほとんど伸びない中で発生しており、その点が明確に異なる。背景に生産年齢人口の減少があるのは言うまでもない。生産年齢人口はそう遠くない将来である2030年前半に7000万人(人口問題研究所の中位推計)を割り込む見込みであり、現在の就業者数6800万人を維持できる可能性は高くない。トランプ関税による景気の下押し圧力を踏まえると、いくぶん労働需給が弛む可能性はあるものの、人手不足に起因する賃金上昇圧力が大幅に低下するとは考えにくい。企業の人材争奪戦は激しさを増している。

雇用人員判断DI
雇用人員判断DI

日本 就業者数・生産年齢人口
日本 就業者数・生産年齢人口

  • またお米の急騰もあって消費者の予想インフレ率が高まっていることも重要。日銀は、生鮮食品価格の変動は景気の強さを必ずしも反映しないとの判断から、現在も生鮮食品を除いたコアCPIを事実上の政策目標としている。ただし、植田総裁も言及したとおり、購買頻度が高く代替が効きにくい生鮮食品価格の上昇は、消費者の予想インフレ率を引き上げる効果は強い(ただし消費者物価統計においてお米は生鮮食品ではない)。日銀の「生活意識に関するアンケート調査」によると、家計の予想物価上昇率(今後5年間)は平均値でみると+9.6%へと跳ね上がっている。従来の常識では、生鮮食品の上昇は、裁量的支出を減じるため、デフレ要因ですらあるとされていたが、ここ数年に多品目で頻繫している農産物の急騰を踏まえ、その考え方に変化がみられ始めている。実際、3月18-19日開催分の金融政策決定会合における「主な意見」には「生鮮食品、穀類の上昇は、主に供給ショックと位置づけられるが、持続性がありうるため、いずれも予想物価上昇率などへの波及を注視すべきである」、「農産物の価格高騰は、供給力低下や人件費上昇等、一過性でない要因の影響が大きい。更に、家計のインフレ予想を押し上げ、 物価の基調に大きく影響する」といった記述がみられた。2025年3月の消費者物価は総合が前年比+3.6%、コアが同+3.2%と大幅な乖離がみられており、今後、総合を重視すべきとする意見が政策委員の中から出てくるかもしれない。ちなみに日銀の掲げる物価目標は消費者物価総合の前年比上昇率を2%にすることである。

家計の予想物価上昇率(今後5年間の見通し)
家計の予想物価上昇率(今後5年間の見通し)

消費者物価指数(CPI)
消費者物価指数(CPI)

  • 4月入り後の関税ショックを経てUSD/JPYは140円近傍まで円高方向に推移した。もっとも中長期的にみれば円安水準であることに変わりはなく、輸入物価は高止まりしている。1月23-24日開催分の金融政策決定会合における「主な意見」には「円安に伴う様々なコストの増加が家計や企業に及ぼす負の影響は、短期的な為替変動というよりも、中長期的な円安が累積した効果により生じていると考えられる」とあった。実質個人消費が停滞している背景に、輸入物価の高止まりがあることは明白であるから、その点においても利上げは正当化されるのではないか。日銀の利上げが所期の効果を発揮して円安が落ち着けば、個人消費が拡大し、景気が加速する可能性すらある。やはり「景気が弱いから利上げはない」という思考様式は距離を置いた方が良いのではないか。

輸入物価
輸入物価

  • それでも実質賃金のプラス転化を確認するまで利上げを待つべきであるとの声はある。その点、実質賃金の尺度が増えることは重要。政府はこれまで毎月勤労統計で示される実質賃金の算出にあたって「帰属家賃」を除いた消費者物価を用いていたが、5月発表分からは総合指数を用いて算出した数値も発表するようになる。持ち家の帰属家賃を除いた消費者物価は3月時点で前年比+4.2%、総合指数は+3.6%であった。総合指数で算出した実質賃金は従来の方法に比べて0.6%pt上昇することになる。これを政策委員がどう評価するかは不明だが、実質賃金のゴールポストは動きつつある。

  • 最後に、日銀が通貨問題に対して「空気を読む」可能性があることも重要だろう。仮に利上げ見送りによって円安が進むようなことがあれば、トランプ大統領の「機嫌」を損ねる可能性があり、通商交渉に悪影響を及ぼしかねない。

藤代 宏一


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