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ルペン氏有罪で、仏大統領選出馬が困難に

極右政党の若返り加速か党勢失速か?

田中 理

要旨
  • フランスの極右政党のルペン氏が公金横領の有罪判決を受け、マクロン大統領が三選禁止で退任する次の大統領選挙への出馬が難しくなった。このままルペン氏が政界引退に追い込まれた場合、昨年の欧州議会選挙や国民議会選挙で極右政党を過去最高の支持獲得に導いたバルデラ党首が新たな大統領候補となろう。今回の判決を極右排除に向けた政治色のある決定と受け止める有権者が増えれば、極右の更なる支持拡大につながる可能性もある。判決を受け、ルペン氏の議員資格は剥奪されないが、次の選挙に出馬できなくなるため、早期の解散・総選挙のリスクは後退する。

フランスの裁判所は3月31日、次期大統領選の最有力候補の1人である極右政党「国民連合(RN)」のルペン氏に対して、5年間の公職停止などの有罪判決を言い渡した。これにより同氏の次期大統領選挙への出馬が難しくなる。ルペン氏は過去3回の大統領選挙に出馬し、過去2回は初回投票での上位2名が争う決選投票に進出。何れもマクロン大統領に敗れたが、マクロン氏が出馬しない(フランスの大統領は三選禁止)次期大統領選挙の世論調査では最多の支持を集めている。最近の世論調査では、ルペン氏が30%台後半でリードし、与党連合に加わる中道政党「地平線」を率いるフィリップ元首相が25%前後、マクロン氏が旗揚げした中道政党「再生(旧共和国前進)」のアタル元首相が20%前後、昨年の欧州議会選挙で中道左派の「社会党(PS)」を復活に導いたグリュクスマン氏が10%台前半、議会最大勢力の極左政党「不服従のフランス(LFI)」を率いるメランション候補が10%台前半で続く。

ルペン氏は2004~17年の欧州議会議員の在任中、議員経費で雇ったスタッフに、欧州議会での議員活動に関連した業務ではなく、フランス国内でのRN(当時は国民戦線・FN)の党運営に関連した業務を行わせていたことが、約440万ユーロの公金横領に当たるとして他の党関係者とともに訴えられていた。判決は当時党首を務めていたルペン氏が、EU予算から拠出される欧州議会経費を党資金に流用する組織的な犯罪で中心的な役割を果たしたとして、5年間の公職停止に加えて、4年間の禁固刑(2年間の執行猶予と2年間の在宅監視)と10万ユーロの罰金刑を科した。ルペン氏は判決後、「これは大統領選挙で私が選ばれないようにするための政治的な決定である」と非難し、引き続き、大統領選挙への出馬の道を探るとしている。できるだけ早く不服申し立てをする方針を示唆しているが、今回の公職停止決定は即時効力を持ち、2016年の法改正により、控訴審で判決が覆されない限り、選挙に出馬することはできない。通常、こうした不服申し立てが結審するまでには年単位の時間が掛かり、仮に判決が覆る場合も2027年4~5月頃に予定される次の大統領選挙への出馬が危ぶまれる。

ルペン氏が大統領選挙に出馬できない場合、同氏から2022年にRN党首の座を引き継いだバルデラ氏が同党の有力な大統領候補となる。公職停止が確定した場合のプランBを尋ねられたルペン氏は、「バルデラ氏は我々の政治活動にとって非常に大きな財産で、私はこのことを長い間言い続けてきたが、この財産を早く使う必要がないことを願っている」と発言し、大統領候補を同氏に譲るか否かを明言しなかった。政権奪取に向けて極右政党からのイメージ脱却を狙ったバルデラ氏の党首就任後、RNは2024年の欧州議会選挙で31.5%、国民議会選挙で33.2%と過去最高の支持を集めてきた。現在29歳のバルデラ氏は、新たな党の顔としてソーシャル・メディアを駆使し、若者を中心に抜群の政治訴求力を誇るが、経験不足を指摘する声もある。ルペン氏に代わってバルデラ氏をRNの大統領候補とした場合の世論調査の結果は、ルペン氏よりも数ポイント低いが、30%台前半で他党の候補をリードする。今回の判決をRNの排除に向けた政治的な決定と受け止める有権者が増えれば、同党の更なる支持拡大につながる可能性もある。ルペン氏がこのまま政界引退に追い込まれたとしても、RNは引き続き次の大統領選挙での脅威となろう。

有罪判決を受けて、RNが内閣不信任のカードを切るタイミングは難しくなる。マクロン大統領を支持する与党連合は国民議会で過半数の議席を持たず、議会採決を迂回する特別な立法手続きを使って法律や予算を通す苦しい議会運営を強いられている。昨年12月には左派会派と極右が内閣不信任で協力することで、予算成立を目指したバルニエ首相(当時)が辞任に追い込まれた。後任のバイル首相は左派会派から離脱した社会党の消極的な協力もあり、首相就任直後の内閣不信任を乗り切り、今年度の予算成立に漕ぎ着けた。だが、年金改革の見直しや来年度予算案を巡って、今後も社会党の協力を取り付けることができるかは予断を許さない。今年後半には国民議会の解散・総選挙が解禁される(議会の解散は1年に1回のみ)。RNはバイル首相を内閣不信任に追い込み、議会の解散・総選挙で更なる党勢拡大や政権奪取の機会を窺っている。ルペン氏は現在、国民議会議員を務めており、今回の有罪判決で議員辞職の必要はないが、議会が解散した場合に次の議会選挙に出馬することができずに議員資格を失う。今回の判決により、RNの世代交代と執行部交代が一気に進むのか、党創設者であるルペン一族の切り捨てにつながる議会の早期解散カードを封印するかにも注目が集まる。

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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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