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2025.03.21
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台湾中銀は慎重姿勢を維持も、外部環境には不透明要因が山積
~米トランプ政権の通商政策や台湾情勢への関心の行方が中銀の政策運営を左右する可能性も~
西濵 徹
- 要旨
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- 台湾中銀は20日の定例会合で政策金利を4会合連続で2.000%に据え置いた。インフレは2022年半ばに一時14年弱ぶりの高水準となるも、その後は中銀の引き締めや商品高の一巡も重なり頭打ちしている。しかし、中銀の引き締めにもかかわらず台北周辺を中心とする不動産市況は高進が続いたため、中銀は一段の引き締めを余儀なくされる展開が続いた。中銀は昨年12月の前回会合ですべての手段を据え置いたが、足元では不動産市況が再び底入れしており、今回も引き締め姿勢を維持したものと捉えられる。
- 中銀は、世界経済について景気の下振れ、物価の上振れリスクを警戒する一方、同国経済については成長率見通しをわずかに下方修正するも、外需の堅調な推移が景気を下支えするとの見方を示す。ただし、足元では米ドル高の動きに一服感が出ているにもかかわらず、台湾ドル安圧力がくすぶるなど外部環境は厳しい。台湾の対米貿易黒字は急拡大しており、米トランプ政権の通商政策や台湾情勢への関心に影響を与える可能性もくすぶるなか、中銀による政策対応はこれまで以上に困難さが増すことも考えられる。
台湾(中華民国)中央銀行は、20日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を4会合連続で2.000%に据え置く決定を行った。ここ数年の台湾は、コロナ禍一巡による経済活動の正常化、商品高、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨台湾ドル安による輸入物価の押し上げが重なり、インフレ高進に直面してきた。よって、中銀は物価と為替の安定を目的に断続的に利上げを行うとともに、商品高の動きが一巡したこともあり、2022年半ばに一時14年弱ぶりの高水準となったインフレはその後に頭打ちに転じた。しかし、その後も異常気象による食料インフレに加え、米ドル高圧力に伴う台湾ドル安懸念がくすぶるなかでインフレは高止まりしたため(図1)、アジア新興国のなかには利下げに動く流れが広がりをみせているにもかかわらず、中銀は引き締め姿勢を維持してきた。

さらに、中銀が引き締め姿勢を維持せざるを得なかった背景には、最大都市である台北市周辺を中心とする不動産価格が上昇して最高値を更新する展開をみせるなど、新たなインフレ要因となる懸念が高まったことも影響している。よって、中銀は景気への影響を警戒して昨年6月の定例会合では政策金利を据え置くも、特定地域を対象とする住宅ローン規制の強化に加え、預金準備率を25bp引き上げる金融引き締めに動いた。しかし、その後も不動産市況の上振れが続いたため、中銀は昨年9月の定例会合でも住宅ローン規制を一段と強化するとともに、預金準備率を追加で25bp引き上げるなど一段の金融引き締めに動いた。なお、昨年末にかけて不動産市況に頭打ちの兆しがみられたため、中銀は昨年12月の前回会合ではすべての政策手段を据え置いたものの、米トランプ政権の政策運営に対する不透明感を警戒して慎重姿勢を維持する考えをみせた(注1)。上述のように、昨年末には不動産市況に頭打ちの兆しがみられたものの、足元では再び上振れするとともに最高値圏で推移し、不動産市況は沈静化には至っていない(図2)。こうしたなか、足元のインフレは下振れするとともに、コアインフレ率は前年比+0.98%と4年強ぶりの低水準となるなど落ち着きを取り戻す動きをみせているものの、中銀は金利据え置きにより引き締め姿勢を維持した。

会合後に公表した声明文では、世界経済について「昨年12月の前回会合以降緩やかな成長が続いている」としつつ、先行きについて「米国の関税政策やそれを受けた主要国の対応策、世界経済の分断やサプライチェーンの再編などを理由に景気に下振れリスク、物価に上振れリスクが高まっている」との見方を示している。一方、同国経済について「足元では内外需双方で拡大が続いている」としつつ、先行きは「外需の堅調な推移を見込む一方、内需は緩やかな伸びに留まり、今年通年の経済成長率見通しを+3.05%とする」と昨年12月時点(+3.13%)からわずかに下方修正している。また、物価動向について「足元では緩やかに低下している」としつつ、先行きは「最低賃金の引き上げや『炭素費用』の導入、サービス物価の高止まりなどの影響が懸念されるが、今年通年のインフレ率は+1.89%になる」と昨年12月時点(+1.89%)から据え置いている。その上で、先行きの政策運営について「物価動向を注視するとともに、米国経済やトランプ政権の通商政策の動向、主要国の金融政策、中国景気の下振れリスク、地政学リスク、異常気象などに関連する不確実性に留意した上で金融市場と物価の安定と景気下支えを図るべく必要に応じて適時適切な調整を図る」とこれまでと同じ考えをみせた。足元のインフレは落ち着いた推移をみせる一方、不動産市況が高止まりしている上、米ドル高の動きに一服感が出ているにもかかわらず台湾ドル安の動きが続いていることに鑑みれば(図3)、中銀は引き続き現行の引き締め姿勢を維持する展開が続くと見込まれる。

他方、米トランプ政権は様々な国に対して追加関税の賦課による『ディール(取引)』を持ち掛ける動きを強めているが、台湾では今年1月に国会で成立した本予算では予算案段階から大幅に歳出が削減されており、なかでも防衛予算の大幅削減が台湾情勢への米国の関与に如何なるメッセージを与えるかが懸念される状況にある。さらに、ここ数年の台湾と米国の間の貿易関係を巡っては、バイデン前政権下で進められたサプライチェーン見直しの動きも追い風に台湾の対米貿易黒字が大幅に拡大しており、昨年はトランプ1次政権の最終年である2020年と比較して3.6倍に達している(図4)。米トランプ政権は台湾に対して貿易赤字圧縮を図るべく、兵器をはじめとする米国製品の輸入拡大に向けた圧力を強める可能性がある一方、そうした動きは中国本土との新たな軋轢を生むことも懸念され、台湾情勢の行方が実体経済や物価にも影響を与えると見込まれるなかで中銀の政策対応が一段と困難なものとなることに留意する必要がある。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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