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「先行指標」としての田村委員 日銀の政策金利は1%超へ?

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月43,000円程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月155円程度で推移するだろう。
  • 日銀は半年に一度の利上げを続け、2026年1月までに政策金利は1.0%に到達しよう。
  • FEDはFF金利を25年央までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。
目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.4%、NASDAQが+0.5%で引け。VIXは15.5へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利上昇。予想インフレ率(10年BEI)は2.413%(▲0.6bp)へと低下。

実質金利は2.020%(+2.2bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は+21.8bpへとプラス幅縮小。

  • 為替はJPYが最強。USD/JPYは151半ばへと下落。コモディティはWTI原油が70.6㌦(▲0.4㌦)へと低下。銅は9276.5㌦(+36.5㌦)へと上昇。金は2856.0㌦(▲15.6㌦)へと低下。

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注目点

  • 2月6日に日銀の田村委員は講演を実施。為替が一時円高に振れたり、長期金利が水準を切り上げたりといった反応があった。(1年後の1ヶ月金利の予想値を意味する)1年先1ヶ月金利は0.87%まで上昇。市場参加者は政策金利の1%到達を視野に入れつつある。

  • 田村委員は2022年7月に政策委員に就任した(任期満了は2027年7月)。最初の講演であった2023年2月22日に「物価の見通しについても不確実性が高く、当面は、上振れリスクの方が大きいとみています。私は、企業の価格転嫁の動きは現在進行形であり物価上昇モメンタムは続いていること、サービス価格も次第に上昇ペースを高めてきていることから、想定以上に物価が上振れる可能性も否定できず、引き続き注視していく必要があると思っています」、「個々の企業によって状況は異なるとは思いますが、私自身は、賃上げに前向きな政労使のスタンス、全体として好調な企業収益、お互いに支えあう傾向の強いわが国の労使関係、対面型サービス業や中小企業における人手不足といった要因を踏まえると、高めの賃上げが実現する可能性も相応にあると考えています」などと賃金・物価の上振れリスクに言及していた。その後、大幅な賃金上昇が実現し、現在、日銀は物価の上振れに直面している。民間銀行の出身ということもあり一般的に「タカ派」として認識されているため、当時この発言は「タカ派の田村委員の見解」と解釈されたが、今となっては「先行指標」としての役割を果たしていたように思える。

  • また2023年8月30日の講演では「2%の『物価安定の目標』の持続的・安定的な実現を目指して約10年が経過しましたが、私自身は、ようやくその実現がはっきりと視界に捉えられる状況になったと考えています」、「持続的・安定的な物価上昇の実現に向けた状況の見極めにはなお時間が必要ですが、来年1~3月頃には、その時点の賃上げのモメンタムやそれまでに得られる年後半の物価動向などのデータから、解像度が一段と上がると期待しているところです」とした。この時点で2024年3月のマイナス金利解除は中心的予想ではなかったので、結果的にここでも田村委員の発言が「先行指標」として機能したと言える。

  • 続く2024年3月27日の講演では(2025年2月6日の講演でも話題となった)「人手不足による供給制約で経済指標が弱めにでる」という視点を示した。「私が足もと心配している点を2点申し上げます。1つ目は、個人消費の動向です。(中略)2つ目は、設備投資です。全体として高水準で推移している企業収益を背景に、短観でみる2023年度の設備投資計画は、はっきりとした増加計画となっています(図表2)。もっとも、実績が計画を下回るのは通常想定される動きであるとはいえ、GDP統計でみた昨年12月までの実績は、やや力強さに欠けています。一方で、機械や建設工事の受注残高は増加傾向が続いており、企業の設備投資の需要自体はあるものの、人手不足などにより受注はしても製造できない、すなわち供給能力不足の状況が生じているのではないかと、私としては捉えています」とした。後述する通り、この視点は「需給ギャップがマイナスでも利上げを続ける」という強い根拠になり得るため、極めて重要であろう。

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  • そして2025年2月6日は「需給ギャップを分解すると、労働投入ギャップがプラス(人手が不足)になっているのに対し、設備がフルに稼働していないことを受けて、資本投入ギャップがマイナス(設備が過剰)となっています。しかし、設備がフル稼働していないのは必ずしも需要が不足しているからではなく、人手不足によって十分に設備を稼働させられないという側面も大きいと考えられます」、「マクロ的な需給ギャップは既に実態的にはプラスの領域にあり、供給力不足が物価に上昇圧力をかけている状況にあるのではないか」と言った見解を示し、「例えば、旅館・ホテル業界では『人手不足で客室稼働率を抑制せざるを得ない』、タクシー業界では『ドライバー不足で自動車があっても動かせない」、製造業でも『人手不足で設備をフル稼働させられない』といった声が聞かれます」という定性的情報を付け加えた。田村委員は、日銀が観察している経済指標としての需給ギャップが、人手不足による受注の見送りなどを捕捉できていないことを問題視していると思われる。企業が人手不足に陥り、案件が着工に至らなければ、統計上、需要は認識できないので改善が遅々としてしまう。これはある種の統計の技術的問題でもあるが、「需給ギャップのプラス転化を確認するまで利上げを待つべき」という指摘に対して強力な反論になり得る。

  • 物価見通しについては「上振れリスクが膨らんできている」とした。その上で「中立金利について、私は、最低でも1%程度だろうとみており、したがって2025年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが、物価上振れリスクを抑え、物価安定の目標を持続的・安定的に達成するうえで、必要だと考えています」と結論付けた。これまで物価の上振れリスクを早期に警戒した他、需給ギャップが抱える問題を指摘するなど、田村委員の見解は「先行指標」として機能してきた経緯がある。2025年度後半に少なくとも1%程度という政策金利水準の見通しが、今後、政策委員の間に広がっていくのではないか。

藤代 宏一


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