東京都心の中古マンション価格は株価並みの上昇続く

~熱いマンション市場と冷静なオフィス賃貸市場、どちらかが間違っているのか?~

佐久間 啓

要旨

日本経済にも“金利のある世界”が戻りつつある。日銀は1月の金融政策決定会合で政策金利の誘導水準を0.25%引き上げ、0.5%とすることを決定した。この決定に伴い、早速各銀行からは、普通預金金利の引上げや、変動型住宅ローン金利の基準となる短期プライムレートの0.25%引上げが公表されている。1995年9月以降、政策金利が0.5%を上回ったことはないが、日銀は、「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると、展望レポートで示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになる」としており、さらなる政策金利の引上げを想定する必要があるだろう。

金利上昇が、金利敏感セクターである、住宅、不動産といったセクターにマイナスに働くのは世界共通だ。ただ、日本の場合は、金利上昇と言っても、“金利ほぼゼロの世界”から“金利のある世界”、つまりデフレから普通に戻りつつあるだけなので、今のところ、それほど大きな影響は出ていないようだ。逆に、デフレからインフレへの転換を囃すような動きも目立つ。ただ、この世界は、地域別、もっと言えば案件毎の差が大きく、何処の何を見ているかで、見え方が違ってくるという側面もある。

不動産経済研所によれば、2024年の東京都区部の新築マンションの一戸当たり平均価格は、1億1,181万円となった。2023年に続き2年連続で1億円の大台超えとなり、マンション販売価格の高止まりが続いている。また、価格高騰で販売戸数がある程度絞られるなか、中古物件の人気が高まり、中古マンション価格の高騰も続いている。これだけ見ていると、東京のマンション市場は“熱い”状態なので、さぞかし他も“熱く”なっているかと思いきや、オフィス賃貸市場をみると、コロナ禍での一時的な空室率の急上昇からは一転、空室率は低下に転じているものの、コロナ禍前のレベルには戻れず、賃料水準もようやく底打ちから上昇に向かい始めた段階で、今後供給が増えることが想定される中で、依然不透明感も漂う。 金融環境に大きな変化が想定されるなかで、足下、まだら模様の姿を見せる市場の動きは持続的なものなのか?なかなか全体像を正しく把握することが難しい分野であるが、市場で注目されている代表的なデータで、足下の動きを確認しながら考えたい。

オフィス空室率は低下に向かうも、賃料の戻りは鈍い

オフィス賃貸については、三鬼商事のデータによると、東京都心5区(千代田区、中央区、港区、新宿区、渋谷区)の2024年12月時点の平均空室率は4.00%(前月比▲0.16%)、うち新築が23.90%(同▲3.86%)、うち既存が3.80%(同▲0.12%)となっている。

空室率は、コロナ禍直前の2020年2月に直近の底である1.49%を付けた後、2021年6月から2023年12月まで31カ月間、6%台で高止まりしていたが、2024年1月以降、低下に転じている。このところ貸室面積が緩やかに増加するなかでも、順調に空室率が低下し、合わせて賃料水準も底打ちから上昇に転じてきており、東京のオフィス市況はコロナショックからの回復途上にあると言ってもいいだろう。

ただ、2024年は2023年に比べて新規供給が少なかったことが、空室率の大幅低下に繋がったという見方があるのも事実。2025年は供給が増えることが分かっており、空室率、賃料動向には注意が必要だ。いずれにしても、この間、物価水準が上昇するなかでも、賃料はコロナ禍前の水準からは大きく下ブレしたままであり、市場は“冷静”だ。回復途上にあるとはいえ、まだコロナ禍での新しいワークスタイル定着による需要の変化に対応中ということだろう。金利も上昇するなかで、賃料水準をどこまで戻せるか注目だ。

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東京都区部新築マンション価格は2年連続1億1,000円台

不動産経済研究所によれば、2024年の首都圏の新築分譲マンション市場は、発売戸数が23,003戸(前年比▲14.4%)で、3年連続の前年比減少となり、1973年以降で最小。平均価格は7,280万円(同▲3.5%)、㎡単価117.7万円(同▲4.0%)と、ともに前年比では下落となった。うち東京23区は、発売戸数8,275戸(前年比▲30.5%)、平均価格1億1,181万円(同▲2.6%)、㎡単価171.0万円(同▲1.0%)。発売戸数は首都圏の4割近くを占める都区部の着工減少が響き、調査開始以来の最小を記録している。ただ、価格は高値が続き、所謂“億ション”は3,648戸発売されている。東京23区は2年連続で1億1,000万円台の平均価格となった。

東京都心部の中古マンション(70㎡換算)は1億4,330万円

資材価格の高騰、職人不足による建築コストの上昇が、新築マンション価格の高騰に繋がっていると言われているが、直近の建築コストの上昇とは関係のない中古物件の価格上昇も顕著である。不動産市場データの収集、分析を行う(株)東京カンテイによれば、2024年12月の、首都圏、近畿圏、中京圏の中古マンション価格(70㎡換算)は、それぞれ、5,065万円(前年比8.1%)、2,952万円(同2.8%)、2,264万円(同0.3%)となった。首都圏は初めて5,000万円台に乗せてきている。各地域とも、2021年から2022年にかけて大きく上昇した後、一旦落ち着き、2024年前半にかけては、前年比マイナスに落ち込む時期もあったが、年末にかけて急速に盛り返していることが分かる。

“新築億ション”が珍しくなくなった東京23区、さらに中心部の都心6区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・文京)で見ると、2024年12月の中古マンション価格(70㎡換算)は、それぞれ、8,722万円(前年比22.1%)、14,330万円(同30.3%)となっている。都心6区では、2023年12月以降、前年比二桁の伸びを続けているが、足下で、その伸びが加速していることが分かる。

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価格データは、同社のデータベースに登録された「ファミリータイプ(専有面積30㎡未満の住戸、事務所店舗用は除外)」のみであり、価格は“売り希望価格”なので、売買価格ではないことには注意が必要だろうが、需給関係がダイレクトに反映されやすい中古物件の売り希望価格が急激に上昇していることは認識しておいた方がいいだろう。中古物件の価格上昇には新築物件の供給減少という背景があることは間違いないと考えられるが、それ以上に、マンション需要の局地的な拡大が起きている可能性もありそうだ。

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東京都心の中古マンション価格は株価並みの上昇続く

中古マンションの価格の動きと、もう一つの代表的な資産価格である株価、ここではTOPIXの動きをみると、同じように動いていることが分かる。2019年の平均値を100として指数化した数値をみると、2024年12月でTOPIXは174.9で、東京カンテイの中古マンション価格は、首都圏が136.5、近畿圏が126.9、中京圏が117.01となり、株価に比べると中古マンション価格の上昇は限られる。しかし、首都圏の中でも、東京23区になると156.9まで上がり、さらに中心部の都心6区では183.1と、株価を上回る上昇率となっている。2023年以降、株価は大きく上昇しているが、それと軌を一にして、まず都心6区が上昇、更に2024年に入り上昇が加速するなか、東京23区に価格上昇が波及していることが分かる。

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株価は、好調な企業業績をバックに、資本効率改善に向けた様々な動き、期待感の高まりを受けて史上最高値を更新してきているということで、価格の上昇には、EPSの拡大、PBRの改善(期待)といった、ある意味ファンダメンタルズがついてきている。一方、都心の中古マンション市場で、株式市場と同じような動きが起きているのだろうか。

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同社では、中古マンションの月額募集賃料(㎡単価)についても集計、公表しているが、それによれば、2024年12月の東京23区の月額募集賃料は4,295円(前年比0.9%)。これまで順調な上昇傾向を示しているが、足下では“物件価格”の上昇ペースに比べると、上昇モメンタムは弱い。東京23区の話であるが、いずれにしても足下、これまでの物件価格と賃料のバランスが崩れ始めている。賃料に対して価格が高過ぎるのか、それとも、利用価値に対して、まだまだ価格も募集賃料水準も低過ぎるのか。

東京、特に中心部でのマンション価格の上昇に見られる熱気と、オフィス賃貸市場の冷静な動きが目立つが、同じ不動産市場である以上、どちらかに収束していくということだろうか。それとも、別の需給要因が働いているので、多少金融環境が動いただけではトレンドは変わらないということだろうか。

以上

佐久間 啓


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