株高不況 株高不況

米国株の高PER とDeepSeek

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均株価は先行き12ヶ月42,000円程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月155円程度で推移するだろう。

  • 日銀は半年に一度の利上げを続け、2026年1月までに政策金利は1.0%に到達しよう。

  • FEDはFF金利を25年央までに4.0%まで引き下げ、その後は様子見に転じるだろう。

目次

金融市場

  • 前営業日の米国市場は、S&P500が+0.9%、NASDAQが+2.0%で引け。VIXは16.4へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で小動き。予想インフレ率(10年BEI)は2.412%(+1.0bp)へと上昇。
    実質金利は2.120%(▲1.2bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は+33.3bpへとプラス幅拡大。

  • 為替はUSDが全面高。USD/JPYは155半ばへと上昇。コモディティはWTI原油が73.8㌦(+0.6㌦)へと上昇。銅は8987.0㌦(▲108.0㌦)へと低下。金は2767.5㌦(+29.1㌦)へと上昇。

米国イールドカーブ
米国イールドカーブ

米国イールドカーブ(前日差)
米国イールドカーブ(前日差)

米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国長短金利差(2年10年)
米国長短金利差(2年10年)

経済指標

  • 1月米CB消費者信頼感指数は104.1へと低下。期待(86.5→83.9)と現況(144.0→134.3)が共に軟化した。雇用統計の先行指標として注目される雇用判断DIは+16.2(12月+22.2)へと低下したが、2024年10月の水準と同等であり、労働市場が急速に冷え込んでいる訳ではない。

CB消費者信頼感指数
CB消費者信頼感指数

CB消費者信頼感指数(雇用判断)
CB消費者信頼感指数(雇用判断)

  • 12月米新築住宅販売件数は前月比+3.6%、年換算69.8万件であった。中古住宅の在庫が充たされない中、新築住宅には一定の需要が流入しているとはいえ、住宅ローン金利の高止まりもあって一進一退の状況にある。

米国 新築住宅販売件数
米国 新築住宅販売件数

注目点

  • 今年の米国株の下振れリスクとして、筆者は実質金利とPERの関係に注目してきた。株価下落を伴わずに乖離が収束するためには、①Fedが緩和姿勢を強めるなどして実質金利が低下する、②EPS(一株当たり利益)成長率以下の株価上昇によってPERが低下する、またはこの両者の組み合わせが必要となる。この乖離の行方について、Fedの金融政策と中国発の生成AIであるDeepSeekの登場を踏まえ展望していきたい。

  • まず1月FOMC(結果判明は29日)について、政策金利は大半の市場関係者が据え置きを予想しており、筆者も同様。FF金利先物から逆算した利下げ織り込み度合いは3%未満に過ぎない。市場関係者の目線は3月FOMCにおける利下げの有無に移っており、この点についてパウエル議長がどういった見解を示すのか注目される。現在のところ3月FOMC(19日)における利下げの織り込み度合いは27%、5月FOMC(7日)でも32%に留まっており、利下げ休止が中心的な見通しになりつつある。3月FOMCまでには雇用統計とCPIがそれぞれ2ヶ月分発表されるため市場参加者の予想は流動的になりそうだが、12月CPIがインフレ再燃の懸念を和らげる結果であったことに鑑みると、その流れが逆転しない限り、FOMCの中枢メンバーが利下げに傾いてく可能性が大きいように感じられる。またトランプ大統領が関税の即時引き上げを見送ったことも一定の影響を与えるとみられる。

  • こうした状況下、パウエル議長が利下げに前向きな発言をすれば、長期金利低下の余地は大きいと考えられる。その場合、現在2.1~2.2%近傍で推移する実質金利は、2025年も複数回の利下げが続くとの予想が支配的だった昨秋頃の水準、すなわち2%以下の領域に向けて低下が期待される。

  • そもそも高PERが許容されてきた背景として、利上げ期間中(2022年3月~2023年7月)ですら将来の利下げが強く意識されてきたことが大きかった。Fedが示すドットチャートは見通し期間の後半にかけて利下げが示唆される形状であったので、株式市場で利下げが前提にされるのにはそれなりの合理性があったと言える。例えばFF金利(誘導目標レンジ上限)が5.00%に引き上げられた、2023年3月FOMCで更新されたドットチャートは2023年末の中央値が5.25%、2024年末が4.375%、2025年末が3.25%と右肩下がりであった。現在、消滅しつつある「四半期ごとの利下げ」予想が復活すれば、実質金利は緩やかに低下するだろう。PERとの乖離を埋めるには微々たる貢献であるが、それでも方向感は一致する。

S&P500予想PER・実質金利
S&P500予想PER・実質金利

  • 生成AIの登場が米国株全体のPERを押し上げてきたことも事実であろう。生成AIの開発にあたって高性能半導体などハードウェアが必要になるという「実需」を伴っている点において「AIバブル」という表現は馴染まないが、AI開発を直接手掛ける企業のみならず、電力やデータセンターを提供する銘柄群に物色の対象が広がる下、一部銘柄のPERが著しく跳ね上がっていたのは事実。そこに高性能半導体をさほど必要とせず、電力消費も大幅に抑制されると伝わっているDeepSeekが登場。それまでのAI開発は高性能半導体の購買力と優秀な人材が欠かせないことから「資金力勝負」の色彩が強かったが、低廉モデルの登場によって、そうした思考様式の妥当性が問われるのは自然だろう。AI開発には高性能GPUの購入に巨額の資金力が必要となること等から、プレーヤーは資金力で圧倒的な優位性を有するごく一部の米国テック企業に限定されていたため、そうした銘柄群に資金が集中しPERが高まっていた。現時点ではDeepSeekに関する情報が少なく、伝わっている情報の真偽も不明であることから判断は難しいが、仮に米国製AIモデルの優位性が失われるのであれば、実質金利から大幅に乖離したPERが低下を迫られる可能性は留意しておきたい。

藤代 宏一


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