- Market Side Mirror
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2024.11.29
金融市場
株価
2025年も米国株式市場は堅調さを維持できるか
~バリュエーション的には“点滅赤信号”なので、一時停止してから進みたい~
佐久間 啓
- 要旨
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足下でも、米国株式市場は堅調だ。11月5日の大統領選挙、上下両院議会選挙で、共和党のトランプ候補が圧勝、上下両院でも共和党が過半数を押さえ、4年ぶりに“トリプルレッド”となったことから、減税、規制緩和といった、比較的ビジネスフレンドリーな政策実現への期待が高まっている。一方、関税引き上げを武器に、“ディール”を迫る手法は健在で、コロナ禍を経て、サプライチェーンを再構築中の企業等にとっては、先行きの不透明要因が増えることから、投資を含め企業活動への影響が懸念されてもいる。
果たして、2025年も米国株式市場の好調は続くのか。期待感だけではなく、ネガティブな材料もある中で、連日史上最高値を更新する市場は楽観的過ぎるのではないかという見方もあるが、どう考えればいいのだろうか。
株価は、一般的に、予想EPS(予想一株当たり利益)×RER(株価収益率、*倍と表記)で表現される。そこで、これまでの、S&P500のEPS(12か月先予想EPS)、PERの動き、またTOPIX、他主要指数との比較も交えながら、中長期的な視点で米国株式市場の現在位置について確認し、2025年に備えたいと思う。
予想EPSは、足下で二桁増益を維持
S&P500の足下(2024年11月22日の週)での予想EPSは268.94ドル、前年比(52週前比で計算)+11.8%と、二桁増益を予想している。

短期的な動きとしては、2022年から2023年にかけては、コロナ禍からの急回復の反動、インフレの高まり、FRBによる大幅な利上げを受けて、リセッション懸念が高まり、予想EPSが一時、前年比マイナスに落ち込む場面もあった。しかし、2023年中盤以降、インフレのピークアウト、米国経済のソフトランディング期待の高まり、AIムーブメントの盛り上がりもあり回復。直近では、予想EPSのモメンタムはやや頭打ちであるが、二桁増益レベルを維持している。他の市場指数を見ても、日本のTOPIX、イギリスのFTSE100、ドイツのDAXは、基本同じような動きをしているが、2023年以降のFTSE100、DAXの低迷、TOPIXの足下でのモメンタム低下は気になるところだ。いずれにせよ、主要市場指数の予想EPS は基本横ばいで、増益モメンタムの強さといったものはあまり感じられない。
2025年1月のトランプ大統領就任を控え、MAGA(Make America Great Again)実現に向けた政策プランが、本人や政権移行チームから矢継ぎ早に出されている。バイデン政権の施策のうち、何が継続され、何が中止されるのか、詳細はまだ不明だ。今後数か月は、先行き不透明感が強まることから米国企業の予想EPSに、それほど大きな動きはないと考えられる。逆に米国外の国では、関税によるマイナスインパクトが早く出てくることが懸念されるため、予想EPSは弱含みと考えておいた方が良さそうだ。

長期的に見れば、米国経済のリセッション期には予想EPSも落ち込みを見せるが、基本、右肩上がりで上昇してきていることが分かる。1991年以降の予想EPSの前年比伸び率の平均は7.3%、その標準偏差は11.9%となる。TOPIXについて、同じ計算をすると、前年比伸び率の平均は6.8%、標準偏差が24.3%だ。つまり、TOPIXは、予想EPSの“伸び”という観点では、S&P500に対し劣後はしているものの、その差は思いの外小さいが、予想EPSの“ぶれ”という観点ではS&P500の2倍以上あるということだ。FTSE100、DAXと比べてもTOPIXの“ぶれ”は相当程度大きい。TOPIXは、リスクリターンのバランスが悪いわけで、その意味では、投資対象としての魅力はS&P500が勝るということだ。
1991年以降の超長期でみたが、市場環境が大きく変化した、1999年から2003年にかけてのドットコムバブルとその崩壊、続くエンロンショックの時代と、2008年から2009年のグローバル金融危機の時代を除いて、比較的最近の、2010年から足下までで同じ計算をすると、S&P500の予想EPSの前年比伸び率平均は9.7%、標準偏差は11.7%。一方、TOPIXは、それぞれ13.0%、20.4%となる。さすがに、この期間で見るとTOPIXの予想EPS伸び率は主要市場指数ではトップになるが、やはり“ぶれ”は大きい。ここでも、リスクリターンのバランス、つまり強さという観点ではS&P500に軍配が上がる。
こうした企業収益の強さは、米国経済自体の強さの表れであることは言うまでもないが、企業による高い売上高利益率の維持、高ROEの実現、環境変化に対する迅速で的確な対応といった点に加え、多様な投資家の存在によるリスクキャピタルの投入といった点も、企業収益のレジリエンスを高め、その強さに繋がっていると言ってもいいだろう。こうした米国の強みは引き続き米国企業、S&P500の予想EPSに好影響を与えていくはずだ。リスクリターンの優位性は続くだろう。

PERは22倍で歴史的にみても高いレベルまでじりじり上昇
次に、PER についてみてみたい。S&P500の足下(2024年11月22日の週)でのPERは22.0倍。2020年9月に23倍を超えるレベルを記録したが、インフレによる金利上昇、FRBの利上げを受けて低下、2022年後半には底をつけ、金融引き締めの終了、米国経済のソフトランディング期待を背景に反転上昇に転じ、足下では22倍程度と歴史的にも高いレベルに戻してきている。TOPIX、FTSE100、DAXのPERの動きを見ても、水準は違うものの、S&P500とほぼほぼ同じリズムで動いていることが分かる。ただ、このところの動きとして、コロナ禍以降のインフレ高進、地政学リスクの高まりで欧州の戻りが鈍いこと、2024年に入ってから、日米の金融政策の方向が180度逆を向いていることが明らかになり、TOPIXの動きが、S&P500と乖離し始めていることが特徴としてあげられる。
長期的なS&P500のPER推移をみると、1990年代後半にITの発達や、グローバル化の進展で“ニューエコノミー論”が喧伝されるなかで大きく上昇。ドットコムバブルのピークでは24倍を超えるレベルまで上昇したが、そのバブル崩壊とともに低下。その後、グローバル金融危機では一時10倍を割るような場面も見られたが、概ね1990年前半のレベル、つまり12~13倍程度で底打ちしている。2010年代前半からはじりじりと拡大、直近の動きは先述の通りだ。

PERはバリュエーション、つまり、EPSに対する“価値評価”なので、何倍が正解とは言えないところが難しいところだ。また、PERはこれまでの動きからみてもわかる通り、様々な要因で動いている。代表的なものは、金利(一般的に、金利上昇は、PER低下要因、金利低下はPER上昇要因)、成長期待、資本効率といったところだが、これらに加えて、株価に影響を与える可能性のあるリスクはすべて関係してくると言っていい。
足下、S&P500のPERはドットコムバブル時に近いところにある。今後もこのレベルを維持できるのか。それとも限界に近いのか。「ネット関連企業が赤字でもどんどん買われたドットコムバブル時ほどの熱狂は今の市場には感じられないが、だからと言って、まだ大丈夫だとは言えない。警戒すべきだ」といった声がある一方、「PERの頭を押さえていたインフレも終息が見えており、FRBの利下げの動きもPERを下支えする。AI技術の進化、AI関連サービスの拡大が生産性の拡大に繋がり、企業の利益を更に高めていけるのであれば、PERの上昇も許容されるだろう」といった意見もある。
イールドスプレッドでは株式の割高化が見える
PERの正解を言うことは難しいが、相対的な目安を出すことはできる。PERの逆数、つまり、予想EPS÷株価を益利回りというが、この益利回りと国債利回りとの差は、一般的にイールドスプレッドと呼ばれ、株式相場の水準が長期金利との比較において、割安なのか割高なのかを判断する指標となる。通常は、“長期金利-益利回り”で計算するが、分かり易いよう、ここでは“益利回り―長期金利(10年国債利回り)”で計算した。このイールドスプレッドが拡大すれば株式が割安化しているし、縮小すれば割高化している目安となる。
このイールドスプレッドについて主要指数について1990年からの推移をみてみると、1990年代はS&P500、FTSE100、DAXともゼロを挟んでの動きが続いたが、ドットコムバブルで一旦マイナスに沈んだ後、グローバル金融危機前後まで、一貫してイールドスプレッドは拡大。株式の割安化が進んでいた。TOPIXは他の指数と少し様相が違い、平成バブル崩壊でPERの水準訂正の動きが続き、1990年代以降、グローバル金融危機前後まで一貫してイールドスプレッドは拡大を続けていた。

グローバル金融危機以降の動きは特徴的だ。S&P500だけが大きく縮小させ、特に2020年以降、急速に縮小が進んでいる。足下では、イールドスプレッドは、ほぼゼロだ。FRBの中立金利見通しも上方修正されており、次期トランプ政権の経済政策も長期金利に上昇圧力をかけることが懸念されるなか、2010年代の低金利には戻らないという見方が多い中で、このイールドスプレッドは維持できない、株式は割高だ、と言うこともできる。一方で、単純にレベルだけで判断はできない。イールドスプレッドがゼロを挟んで動いていていた時期もあり、これまで、株式が債券に対して過小評価されて、割安に放置されていただけ。本格的なAI時代を迎え、利益成長期待が高まった結果のPER上昇、益利回りの低下だから問題ない、といった意見も聞こえてくる。
点滅赤信号では一時停止してから進むのが正解
予想EPS、PERのレベル、イールドスプレッドの状況から、S&P500の現在位置をみてきたが、ここまでの動きを整理すると、赤信号が点滅している交差点に差し掛かった状況と言えるのではないだろうか。進むには一時停止をして、よく周囲を確認する必要があるということだ。
S&P500は“マグニフィセント・セブン”と呼ばれる、7社のグローバルテクノロジー企業の時価総額が32.7%(2024年11月22日)を占める指数であることにも注意が必要だろう。2020年以降のPERの拡大には、この“マグニフィセント・セブン”の動きが大きく影響している。
2025年に向けては、トランプ大統領、かつ“トリプルレッド”で、財政出動拡大、規制緩和が進み、経済拡大への期待は大きい。一方で、“MAGA(Make America Geart Again)”関連政策が、世界貿易、世界経済にネガティブな影響与えるリスクや、具体的な法律、規則の制定に時間がかかるようだと企業の投資行動が一時的に低迷するリスクもある。投資の世界で、単純に過去と比較して割高割安を判断することも、昔は昔と無視することも危険だ。点滅赤信号の交差点は一つではないことを忘れないようにしたい。
佐久間 啓
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。