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新政権発足も不安定なフランス政局

~極右に支持されたマクロン施政が継続?~

田中 理

要旨
  • どうにか政権発足に漕ぎ着けたフランスだが、与党の議席は過半数に大きく届かず、議会採決を迂回する特別な立法手続きに頼らざるを得ない。法案審議の度に内閣不信任投票に晒され、極右勢力が政権存続の命運を握ることになる。短命政権に終わり、来年後半にも再び議会の解散・総選挙が行われる可能性がある。財政運営を巡る不安も払拭できない。左派が政権参加を見送ったことで、極端な財政運営が行われるリスクは後退したが、増税を巡る与党内の意見不一致、脆弱な議会基盤、タイトな審議日程から、年内の予算成立を危ぶむ声も浮上している。

7月7日の国民議会(下院)選挙の決選投票後に政治空白が続いてきたフランスで21日、ようやく新政権の枠組みが固まった。マクロン大統領から政権発足を託されたバルニエ首相は当初、幅広い政治勢力の結集を目指したが、連立政権に参加するのは、バルニエ首相が所属する中道右派の共和党(LR)系の会派と、議会選挙で第2勢力に転落した大統領支持会派・アンサンブル(ENS)で、議会最大勢力の左派会派・新人民戦線(NFP)内の穏健議員の切り崩しに失敗した。共和党の47議席に大統領支持会派の165議席を加えても、政権に参加する両勢力の保有議席は212議席と過半数(289議席)に大きく満たない(図表1)。

会派間のポスト配分や人選を巡って閣僚人事は難航した。増税の可能性を示唆したバルニエ氏に対して、税負担の軽減による経済活性化を進めてきた大統領支持会派が反発した。バルニエ氏が当初提示した閣僚候補の人選にマクロン大統領が難色を示したとの報道もある。一時はバルニエ氏が政権発足をできないまま辞任するとの観測も浮上した。最終的にバルニエ氏は18人の大臣級閣僚のうち、4人を共和党から、10人を大統領支持会派から、残り4人を独立系議員から選んだ。左派系議員の入閣は左派会派の一員ではない独立系議員1人にとどまった。

これまでマクロン大統領の下で政権を支えた重鎮は入閣せず、新たに閣僚に就任した議員の殆どは、閣僚経験のない若手が中心だ。財政再建を託されたのは、経済・財政・産業相に就く大統領支持会派のアルマン氏だが、財政分野での政策理念や手腕は未知数だ。内相には移民に対する強硬姿勢で知られる共和党のルタイヨー氏が就き、これには大統領支持会派から反発の声も聞かれた。議会の過半数を確保していないバルニエ内閣が存続するためには、政権奪取の機会を奪われた極右政党・国民連合(RN)が左派会派の提出する内閣不信任案に賛成しないことが条件となる。ルタイヨー氏の内相就任は、移民規制の強化を訴える極右勢力への配慮の側面が大きい。

(図表1)フランス国民議会の会派構成
(図表1)フランス国民議会の会派構成

バルニエ首相は就任後で初となる22日のテレビ・インタビューで、フランスが直面する厳しい財政事情を改善するには国民的な努力が必要になるとして、財政再建の必要性を訴えた。低中所得者に対する所得増税を否定したが、高所得者に財政再建での貢献を求めた。左派が政権に参加しないことで極端に拡張的な財政運営が行われるリスクは遠退いたが、富裕層や大企業への課税強化も視野に入れるバルニエ首相と増税に反対する大統領支持会派の意見相違もあり、財政再建の行方は不透明だ。2023年のフランスの財政赤字の対GDP比率は5.5%と、当初の政府計画(4.9%)対比で上振れした。追加の財政緊縮措置に取り組まなければ、2024年も修正後の政府計画(5.1%)を上回り、5.6%程度で着地する可能性がある(図表2)。政権発足の遅れで来年度予算案を巡る議会審議の日程もタイトで、年内の予算成立を危ぶむ声も浮上している。

(図表2)フランスの財政収支の対GDP比率
(図表2)フランスの財政収支の対GDP比率

政権発足の機会を奪われた形の左派会派は、バルニエ政権との対決色を強めている。21日には早速、フランス各地で左派が主導する大規模な抗議デモが行われた。政権発足に先駆けて、左派会派内の最大勢力である極左政党は、マクロン大統領の弾劾手続きを開始した。弾劾には上下両院で3分の2以上の賛成が必要で、こうした試みが成功する可能性は低い。ただ、左派会派は10月1日に予定される夏季休暇明けの国民議会でバルニエ政権に対する内閣不信任案を提出することを示唆している。左派会派と極右勢力の合計議席は335議席と議会の過半数(289議席)を上回り、両勢力がお互いの内閣不信任案に賛成票を投じれば、政権打倒がいつでも可能な状況にある(図表3)。憲法の取り決めにより、国民議会の解散・総選挙は1年に1回しかできない。現時点で政権を倒しても、マクロン大統領がバルニエ氏に代わる新たな首相を任命するだけに終わるうえ、政局混乱を招いたと批判されかねない。極右勢力はひとまず政権発足を容認する構えだが、マクロン大統領にとって最も政治的な打撃が大きいタイミングを見計らっているのだろう。

(図表3)フランス新政権の議会基盤
(図表3)フランス新政権の議会基盤

議会の過半数を握っていないバルニエ政権は、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を使って法案を通そうとするだろう。議会が法案成立を阻止するには、24時間以内に内閣不信任案を提出し、過半数がそれを支持する必要がある。内閣不信任案が否決された場合、法案は成立する。つまり、今後の法案審議の度に、新政権は内閣不信任投票に晒されることになる。不安定な政治環境が続き、短命政権に終わり、来年にも再び国民議会の解散・総選挙が行われる可能性がある。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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