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- フランスの政権発足協議と弾劾手続き
- 要旨
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- パリ五輪後に先送りされたフランスの政権発足協議が難航している。マクロン大統領は、議会の最大勢力となった左派連合が推すカステ氏の首相任命を拒否。極左と極右を除く幅広い政治勢力を結集する形での政権発足を目指しているが、穏健左派が政権協議の場に参加することを拒絶、穏健右派は政権に協力するかどうかを巡って党内の意見が対立している。政権発足協議から締め出された格好の極左は、大統領に対する弾劾手続きの開始を示唆している。大統領の弾劾には、上下両院で3分の2以上の同意が必要で、今のところマクロン大統領が解任される可能性は低い。
7月7日の国民議会(下院)の決選投票から50日以上が経過するフランスでは、パリ五輪後に先送りされた政権発足に向けた協議が8月23日に再開された。主要政党・会派の代表者との初回協議を終えたマクロン大統領は26日、安定政権の発足ができないことを理由に、国民議会選挙で最多議席を獲得した左派連合「新人民戦線(NFP)」が推すカステ氏を首相に任命しないことを決定。27日に始まった2回目の代表者との協議の場には、左派連合内の最大勢力で、反マクロンの急先鋒であるメランション氏の極左政党「不服従のフランス(LFI)」と、戦略投票で政権奪取を阻まれた形のルペン氏の極右政党「国民連合(RN)」の両党を呼ばなかった。つまり、首相の任命権を持つ大統領は、極左と極右を除いた幅広い政治勢力を結集する形での政権発足を目指す意向とみられるが、LFIとともに左派連合に加わる「社会党(PS)」、「欧州・エコロジー=緑の党(EELV)」、「共産党(PCF)」の3党は、2回目の政権発足協議への参加を拒否した。
マクロン大統領は、かつての二大政党の一角で、ドゴール派の「共和党(LR)」にも政権への協力を促しているが、1時間半に及んだ2回目の協議は物別れに終わった。共和党内は、マクロン大統領を支持する与党連合「アンサンブル(ENS)」が主導する政権への連立参加、閣外協力、法案毎の協力、協力拒否の間で意見が割れている。共和党は7月18日に行われた国民議会の議長選出では、与党連合が推すブラウン=ピヴェ議長の再選に協力した。共和党の議会グループは同月22日、与党連合が主導する連立への参加を否定したうえで、就労促進や移民規制の強化など、次期政権が取り上げた場合に協力する可能性がある13の政策分野を記した立法協定を発表している。仮に共和党の協力が得られたとしても、与党連合と合わせた合計議席は過半数に届かない。議会の安定過半数の確保には、左派連合内の穏健左派勢力の協力も必要だが、その切り崩しは進んでいない。政権発足に向けた主要政党・会派間の協議は振り出しに戻った。
政権発足協議から締め出された不服従のフランスは、マクロン大統領に対する弾劾手続きを開始する方針を示唆するとともに、9月7日にマクロン氏に対する抗議デモの実施を呼び掛けている。フランスの憲法68条は、大統領の職務遂行と明らかに相容れない職務違反がある場合の弾劾手続きを定めている。また、憲法5条には、大統領がその仲裁を通じて、公権力の適切な機能と国家の継続を確保することが定められている。議会の最大勢力から首相を任命する法律上の決まりはなく、このまま政権発足ができない状況が大統領の職務違反に該当するかどうかは定かでない。不服従のフランス以外の左派勢力は、今のところ弾劾手続きについては態度を保留している。弾劾手続きの開始には、議会の10分の1以上の署名が必要で、不服従のフランス単独でもこの条件を満たす。実際に大統領を弾劾するには、上下両院で3分の2以上の多数決と両院で構成される高等裁判所の3分の2以上の賛成が必要で、これには与党連合を除くほぼ全ての議員の協力が必要となる。マクロン大統領が弾劾手続きの結果、解任される可能性は今のところ低い。
田中 理
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