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2024.07.26
アジア経済
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シンガポール通貨庁、5回連続の現状維持も先行きは緩和シフトか
~名目実効為替レートの緩やかな上昇を好感、緩和方向にシフトする可能性は高まっている~
西濵 徹
- 要旨
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- 26日、シンガポール通貨庁(MAS)は定例会合を開催して金融政策を5会合連続で据え置いている。足下の同国では景気に対する不透明感がくすぶるも、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+1.45%とプラス成長で推移するなど底入れが続いている。また、金融市場での米ドル高にも拘らず、周辺国通貨の下落を受けてシンガポールドルの名目実効為替レートは緩やかに上昇しており、インフレは一段と鈍化するなど落ち着きを取り戻している。こうしたなか、MASは物価見通しを据え置く一方、景気見通しの下限を上方修正するなど、前回会合時点に比べて楽観方向にシフトしている様子がうかがえる。先行きの政策運営について明確な姿勢を示していないものの、緩和方向にシフトする可能性は高まっていると判断できる。
26日、シンガポール通貨庁(MAS)は定例会合を開催して、金融政策を5会合連続で「現状維持」とする決定を行っている。MASの金融政策を巡っては、政策の調整手段に名目実効為替レート(NEER)の政策バンド(許容変動幅)の幅、中央値、傾きを用いるという特殊な手法を用いており、今回の決定では幅、中央値、傾きのいずれも維持することを決定している。同国ではここ数年、商品高やコロナ禍一巡による経済活動の正常化も追い風に、インフレが大幅に昂進して一昨年半ばにかけて一時14年ぶりの高水準となる事態に直面してきた。よって、MASは2021年10月から5会合連続で政策運営を引き締め方向にシフトさせたものの、商品高の一巡を受けて一昨年後半以降のインフレは頭打ちに転じたため、昨年4月以降は現状維持としてきた。そして、昨年まで定例会合のスケジュールは年2回(4月・10月)としていたものの、今年からは機動性を高めるべく年4回(1月・4月・7月・10月)に変更している。こうしたなか、同国経済は都市国家という特徴ゆえに世界貿易の動向の影響を受けやすく、足下では中国景気に不透明感がくすぶるほか、欧米など主要国景気の勢いにも陰りが出ており、足下の世界貿易は勢いを欠く推移をみせている。さらに、一昨年半ばを境にインフレは頭打ちに転じるも、昨年以降は食料品やエネルギーなど生活必需品で物価上昇が続くとともに、金融政策も引き締め姿勢を維持するなど、内需の足かせとなることが懸念される状況にある。こうした状況ながら、4-6月の実質GDP成長率(速報値)は前期比年率+1.45%と勢いに陰りが出るもプラス成長で推移しており、足下の景気は緩やかに底入れが続いている様子が確認されている。また、国際金融市場においては長らく米ドル高圧力が強まる展開が続くとともに、多くの新興国通貨に調整圧力が掛かる動きがみられたほか、シンガポールドルも米ドルに対しては上値が抑えられる動きをみせるも、貿易相手国である周辺国通貨における大幅な調整が影響して名目実効為替レートは緩やかに上昇する動きが続いている。よって、周辺のASEAN諸国においては自国通貨安による輸入インフレの動きがインフレ圧力を招くことが懸念される展開が続いてきたものの、シンガポールについてはそうした周辺国とは状況が異なると捉えられる。結果、足下においてもインフレ率は一段と頭打ちの動きを強めており、6月のインフレ率は前年比+2.4%と3年弱ぶりの水準に、コアインフレ率も同+2.9%と2年強ぶりの水準に鈍化するなど落ち着きを取り戻している。こうした状況もMASが現状維持を決定する一因になっており、会合後に公表した声明文では、前回会合以降の名目実効為替レートは「政策バンドの上位半分の上昇が続いている」とした上で、景気動向について「年後半に改善が見込まれ、通年の経済成長率は潜在成長率(2~3%)近傍になる」との見方を示している。また、物価動向について「労働需給のひっ迫状態が解消して生産性の向上も見込まれるなかで単位労働コストは緩やかな上昇が見込まれる」としつつ、「年末から来年にかけて顕著な低下が見込まれる」として「上下双方に振れるリスクはあるが、通年のコアインフレ率は2.5~3.5%、GST引き上げの影響を除けば1.5~2.5%になる」との見通しを示している。その上で、「現行のスタンスは引き続き適切であり、輸入インフレと国内におけるコスト上昇圧力を抑制して中期的な物価安定に資する」との見方を示している。よって、4月の前回会合時点と比較して物価の見通しを据え置く一方、景気見通しについては下限を上方修正しており、これまでに比べて楽観に傾いていると見込まれ、先行きの政策運営について明確な方向性は示されなかったものの、緩和方向にシフトする可能性が高まっていると判断できる。



西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

