デジタル国家ウクライナ デジタル国家ウクライナ

フランスの政権発足はパリ五輪後に持ち越し

~マクロン大統領は最大勢力の左派首相を任命せず~

田中 理

要旨
  • フランスでは議会の最大勢力となった左派連合が首相候補を一本化したが、マクロン大統領は左派連合、与党連合、極右勢力の三勢力ともに勝者ではないと主張。26日に開幕するパリ五輪中の政権発足協議を休戦し、少なくとも8月中旬までは新政権を指名しない方針を明らかにした。パリ五輪後に本格化する政権発足協議では、与党連合が穏健右派や穏健左派を取り込み、政権を続ける可能性が高まっている。極右や極左が主導する政権が誕生する場合と比べて、大幅な財政拡張につながるリスクは後退するが、次期政権下でも国民の反発が強い財政再建は先送りされる公算が大きい。

フランスの国民議会(下院)選挙で最多議席を獲得した左派連合「新人民戦線(NFP)」は23日、パリ市庁の財政担当局長を務める非政治家のカステット氏を首相候補に指名した。左派連合内の最大勢力である極左政党「不服従のフランス(LFI)」と、かつて二大政党の一角を占めた中道左派政党「社会党(PS)」の主導権争いもあり、左派連合はこれまで首相候補を一本化することが出来ずにいた。エリート官僚養成校「国立行政学院(ENA)」出身の同氏は、財務省で金融犯罪や脱税の取り締まりで手腕を発揮した人物。かつて社会党の党員だったことがあり、左派寄りの思想・信条の持ち主とされるが、現在は特定の政党の利益を代表することのない人物として白羽の矢が立った。カステット氏はマクロン大統領が主導した年金改革の撤回など、左派連合が掲げる公約の実現を主張している。

左派連合が7日の決選投票から16日目でようやく首相候補を一本化したことを伝えるプレスリリースを公表してから1時間後、首相の任命権を持つマクロン大統領はテレビインタビューの中で、「重要なのは首相候補の名前を出すことではない」、「そもそも左派連合は過半数に届いていない」と指摘。マクロン大統領は投開票後、左派連合(182議席)、マクロン大統領を支持する与党連合の「アンサンブル(ENS)」(168議席)、極右政党「国民連合(RN)」とこれに賛同する極右勢力(143議席)が何れも過半数(289議席)に大きく届かず、3勢力ともに勝者ではない趣旨の発言を繰り返している。カステット氏に政権発足を要請するかを問われたマクロン大統領は、「それは問題ではない」と答えた。26日に開幕するパリ五輪中は休戦し、少なくとも8月中旬まではアタル首相が暫定政権を率いることを宣言し、新政権を指名しない方針であることを明らかにした。また、政治停滞が続いた場合の自身の進退を問われた大統領は、「フランス国民に負託された二期目を全うする」と答え、任期前の大統領辞任の可能性を改めて否定した。

18日に選挙後に初めて召集された国民議会は、中道右派「共和党(LR)」などの支持を得て、与党連合が推す現職のブラウン=ピヴェ議長の再任を決めた。議長選出は国民議会の議員の投票で行われ、初回と二回目の投票までは過半数の支持が必要だが、三回目の投票では最も多くの支持を集めた候補が選出される。ブラウン=ピヴェ氏は過半数の支持に届かなかったが、左派連合や極右勢力が推す各々の対立候補を上回る支持を獲得し、三回目の投票で続投が決まった。今回の選挙で86議席を失った与党連合は当初の敗戦ムードから一転、政権存続に向けて穏健派議員の支持獲得を目指している。マクロン大統領が左派連合が推すカステット氏を首相に指名する可能性は低い。

パリ五輪の閉幕後に本格始動する次期政権の発足に向けた協議では、共和党の穏健右派議員や社会党の穏健左派議員の一部を取り込み、与党連合が政権存続を目指す公算が高まっている。政権の安定性は、拡大与党連合に参加する議員が過半数にどれだけ近づくか、極左や極右を中心とする野党勢力が政権打倒で共闘するかどうかに依存する。拡大与党連合政権が誕生する場合、極端な政策が採られるリスクは後退するが、穏健左派を取り込む過程で財政拡張につながる政策の採用を求められる可能性がある。穏健右派や穏健左派が政権に加われば、行き場を失った反マクロン票が極左や極右に流れる恐れもある。また、マクロン色を薄めるため、大統領がリーダーシップを発揮する場面はこれまでよりも少なくなることが予想される。

以上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ