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フランス政権発足に向けた前哨戦

~議長選出では与党連合に中道議員が協力~

田中 理

要旨
  • フランスでは左派連合、与党連合、極右勢力の獲得議席が何れも過半数に遠く及ばず、次期政権の枠組みが固まっていない。18日に選挙後で初の国民議会が招集され、与党連合出身の議長が、左派連合や極右勢力の候補を破って、再任を果たした。対立候補の選出を警戒した中道議員が与党連合が推す現職議長支持に回った。このことは今後の政権発足に向けた与党連合と中道勢力の会派間協力の可能性を示唆する。最大勢力となった左派連合は、首相候補の一本化に失敗、政権発足の可能性が遠退いている。敗戦ムードが濃厚だった与党連合は、穏健左派や穏健右派を取り込み、政権を継続することを目指している。ただ、中道勢力を総結集して政権を発足する場合、マクロン支持派が「拡大与党連合」を結成したとの印象を国民に与えかねない。行き場を失った反マクロン票が次の選挙で極右や極左に流れる恐れがある。マクロン色を薄めるため、大統領がリーダーシップを発揮する場面は少なくなる。フランスの政治不安と政策停滞が長引きそうだ。

フランスでは18日に議会選挙後で初となる国民議会(下院)が招集され、現職のブラウン=ピヴェ議長が再任された。国民議会選挙の結果は、主要左派政党が選挙直前に結党した左派連合「新人民戦線(NFP)」が182議席、マクロン大統領を支持する与党連合「アンサンブル(ENS)」が168議席、戦略投票で三番手に沈んだ極右政党「国民連合(RN)」が143議席をそれぞれ獲得し、何れの勢力も過半数(289議席)に大きく届かなかった。安定政権の樹立が困難な状況で、選挙後10日余りが経過した現在も次期政権の枠組みが固まっていない。

マクロン大統領は選挙結果が判明した直後に辞意を表明したアタル首相を慰留し、引き続き政権を率いることを要請した。左派連合や極右勢力は、アタル首相が暫定政権という形でない政権を率いることに反発。新議会が招集されれば、アタル首相に対する内閣不信任が可決される恐れがあった。マクロン大統領は16日に改めてアタル首相の辞意を受理するとともに、次の政権が発足するまでの日々の国家運営を担う暫定政権を率いることを要請した。フランスでは首相や閣僚が国民議会議員としての地位を失うため、暫定政権に切り替えることでアタル首相等が議長選出投票に参加することが可能となった。

国民議会の議長はフランス政府で4番目の序列に位置する重要な役職だが、普段はその選出手続きがフランス国民の間で大きな注目を集めることはない。今回は次期政権の発足に向けた各勢力間の協力の行方を占ううえで注目を集めていた。議長選出は、国民議会議員の投票によって行われ、初回と二回目の投票では過半数の支持を得た人物が、3回目以降は最多の支持を得た人物が選出される。ブラウン=ピヴェ氏は3回目の投票で220票を獲得し、左派連合が推す候補が獲得した207票、極右勢力が推す候補の141票を上回り、議長の座を死守した。与党連合の議員に加えて、対立候補の議長就任を警戒する中道議員や右派系議員が同氏の支持に回った。

このことは今後の政権発足に向けて、左派連合が主導する政権が誕生する可能性よりも、与党連合が穏健な中道議員などの支持を集めて政権を発足する可能性が高まっていることを示唆する。220票では議会の過半数の支持に届かないが、2022年の国民議会選挙で過半数を失った与党連合は、議会採決を迂回する特別な憲法規定(49条3項)などを駆使し、どうにか政権運営を行ってきた。この手続きでは、24時間以内に内閣不信任が可決されない限り、法案が可決されたものと見做される。この場合も継続的な内閣不信任に晒されることになるが、野党勢力が極左や極右に限定されるため、政権延命の可能性が高まる。

議会の最大勢力となった左派連合は、引き続き政権発足に意欲をみせているが、左派政権が誕生する可能性は後退している。急ごしらえの左派連合は首相候補の一本化ができないまま今回の選挙戦に突入した。左派連合内で最多議席を持つのは、過去数回の大統領選挙でマクロン氏と対峙したメランション氏が率いる極左政党「不服従のフランス(LFI)」だ。同党は極右勢力と同様に反マクロンの急先鋒で、マクロン大統領が主導した年金改革の撤回や欧州連合(EU)の財政規律の受け入れ拒否など、極端な政策を主張する。メランション氏の首相候補への指名は左派連合の内外から不安の声が相次ぎ、過去に「共産党(PCF)」に所属していた古参政治家であるベッロ氏が首相候補として浮上したが、今回の選挙で議席を伸ばした中道左派の「社会党(PS)」がこれに反発し、候補の一本化に失敗した。仮に極左が主導する左派政権が誕生したとしても、議会での内閣不信任に継続的に晒され、政権存続が困難な状況にある。極左が加わる左派政権に対しては、中道勢力や右派勢力が揃って不信任を突き付ける可能性があるためだ。他方で、74議席を持つ極左を政権の枠組みから除外すれば、他党の協力が得られやすくなるが、それでは議会の最大勢力でなくなり、左派に政権を委ねる理由が消滅する。

中道政党で構成される与党連合は当初の敗戦ムードから一転し、政権継続に向けた様々な可能性を模索している。マクロン氏が2017年の大統領選挙に臨むに当たって旗揚げした中道政党には、かつての二大政党である中道左派の社会党と中道右派の共和党から多くの議員が合流した。社会党出身の議員が極左を除く穏健左派との連携を模索する一方、共和党出身の議員は共和党との再合流を目指している。何れも過半数に届かないため、対立する勢力の穏健派議員や会派に属さない小政党にも協力を呼び掛けている。今回の議長選出では、共和党議員の一部も与党連合出身のブラウン=ピヴェ氏の支持に回った模様だ。ただ、政権発足での協力には障害も少なくない。共和党は自身が政権を率いることを要求するが、与党連合がこれに応じる可能性は低い。議席のうえでは与党連合から首相を輩出するのが自然だが、その場合、マクロン支持派が穏健左派や穏健右派を取り込み、「拡大与党連合」を結成したとの印象を国民に与えかねない。左派連合に加わった穏健左派や今回の選挙戦を単独で戦った共和党は近年、反マクロン色を強めてきた。与党連合に合流や吸収される形での政権参加は望んでいない。極右と極左を除く主要政党が支持する形の政権発足に漕ぎ着けた場合も、行き場を失った反マクロン票は次の選挙で極右や極左に流れる恐れが出てくる。マクロン色を薄めるため、大統領がリーダーシップを発揮する場面は少なくなる。フランスの政治不安と政策停滞が長引きそうだ。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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