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2024.07.01
アジア経済
米中関係
アジア経済見通し
中国経済
中国景気は「明るさ」と「厳しさ」が混在する難しい状況が続いている
~外需関連に堅調さも先行きには不透明要因山積、景気は徐々に頭打ちの様相を強める展開も~
西濵 徹
- 要旨
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- 中国経済は供給サイドをけん引役に底入れの動きが続く一方、家計消費をはじめとする内需は力強さを欠くなかで公的需要や外需への依存度を高める展開が続く。当局は需要喚起に向けた動きのほか、不動産在庫の圧縮に向けた取り組みをみせるが、その効果は不透明である。今月の3中全会では景気下支えに向けた取り組みが示されるとの期待が高まっているが、米中摩擦は報復合戦の様相をみせるなかで世界貿易の萎縮が進むとともに、中国経済のみならず世界経済の足かせとなる懸念も高まっている。
- こうしたなか6月の企業マインド統計を巡っては、政府統計では製造業PMI(49.5)も非製造業PMI(50.5)もともに頭打ちの動きが続く。足下の生産活動が頭打ちするとともに、内・外需双方で受注動向にも不透明感がくすぶるほか、雇用調整圧力がくすぶるなど内需の足かせとなる展開が続いている。他方、外需関連産業の割合が高い財新製造業PMI(51.8)は3年超ぶりの水準となるなど対照的に堅調な動きをみせる。しかし、生産拡大の動きが続く一方で受注動向は頭打ちしており、原材料需要も下振れするなど先行きの生産鈍化に身構える動きもみられる。外需関連を中心に堅調な動きが続いているとみられるが、内需関連で弱含みする動きが確認されるなど、足下の中国景気は好悪双方の材料が混在する展開が続いている。
中国経済を巡っては、習近平指導部が主導する『新質生産力(新たな質の生産力)』推進の動きも追い風に供給サイドをけん引役に景気は底入れの動きを強めている様子がうかがえる。その一方、若年層を中心とする雇用回復が遅れるなか、需要低迷による不動産市況の調整の動きは逆資産効果を通じて家計消費の足かせとなる展開が続いている。さらに、不動産市況の調整は関連セクターの資金繰り懸念のほか、GDPの2割に相当する関連投資の圧迫を通じて幅広い経済活動の足かせとなる動きもみられる。よって、足下の需要サイドについては民間需要が幅広く力強さを欠く動きをみせるなか、インフラ関連を中心とする公的重要や外需に支えられる展開が続いており、当局は内需喚起を目的とする買い替え促進や規制緩和のほか、不動産の過剰在庫解消に向けた取り組みを強化する動きをみせている。しかし、地方政府による買い取りスキームの内容が不透明な上、不動産在庫の規模に対して一連の対策で示された財政支援の規模は大幅に小さいことを勘案すれば、その効果は極めて不透明と捉えられる。事実、一連の不動産対策の発表後も主要70都市のうち68都市で新築住宅価格が下落するとともに、中古住宅はすべての都市で下落するなど調整の動きに歯止めが掛からない展開が続いている。金融市場においては今月15~18日に開催予定の3中全会(中国共産党第20期中央委員会第3回全体会議)において何らかの景気刺激策が打ち出されることを期待する向きがみられるものの、不動産在庫の規模を勘案すれば早々に事態打開を図ることは難しい。不動産を巡っては売却収入が地方政府にとって重要な財源となってきたものの、市況低迷に加え、中央政府が在庫圧縮の観点から新たな売却を事実上禁止するなど歳入減が避けられなくなっている。党指導部は昨年12月に大幅な税財政改革に動く方針を打ち出しているものの、この際に詳細は示されず、3中全会において具体的な方策が示されることが見込まれる。税制改革については家計部門を対象とする増税は難しいなか、資本や企業部門を対象とする課税強化は避けられないと見込まれるものの、上述したように習近平指導部は製造業や研究機関を優遇することにより新質生産力の向上を図る動きをみせていることを勘案すればこうした方針に反することが予想される。その上、米中摩擦の動きが激化するなかで双方が対抗措置を強化させる動きをみせるなど報復合戦の様相を強めていることを勘案すれば、世界貿易の萎縮に繋がる動きは中国経済のみならず、世界経済の足を引っ張る可能性にも注意を払う必要性は高まっていると判断できる。
こうしたなか、先月末に国家統計局が公表した6月の製造業PMI(購買担当者景況感)は49.5と前月(49.5)から2ヶ月連続で好不況の分かれ目となる50を下回る水準で推移しており、足下の製造業を取り巻く環境は依然として厳しい展開が続いている。足下の生産動向を示す「生産(50.6)」は4ヶ月連続で50を上回る水準で推移するなど生産拡大の動きが続いているものの、前月比▲0.2ptとその勢いに陰りが出ている。こうした動きを反映して、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(49.5)」は2ヶ月連続で50を下回る水準で推移するとともに前月比▲0.1pt低下しており、内需を取り巻く環境に不透明感がくすぶるとともに、「輸出向け新規受注(48.3)」も2ヶ月連続で50を下回るとともに同±0.0ptと底這いで推移するなど、外需にも不透明感が高まっている様子がうかがえる。生産活動の行方に不透明感がくすぶる状況を反映して「購買量(48.1)」は前月比▲1.2pt、「輸入(46.9)」は同+0.1pt上昇するもともに50を大きく下回る水準で推移するなど原材料に対する需要が弱含む動きがみられるなど、中国経済への依存度が高い資源国や新興国経済の足かせとなることは避けられない。さらに、こうした動きを反映して国際商品市況の調整の動きを反映して「購買価格(51.7)」も前月比▲5.2ptと大幅に低下しているほか、原材料価格の下落を受けて「出荷価格(47.9)」も同▲2.5pt低下するなどディスインフレ圧力が強まる様子もうかがえる。また、先行きの需要に対する不透明感がくすぶるなかでも生産拡大の動きが続いていることを受けて「完成品在庫(48.3)」は引き続き50を下回る水準で推移しているものの、前月比+1.8pt上昇して在庫が積み上がる動きも確認されており、外需を巡る不透明感が高まるなど需要に下押し圧力が掛かる動きが顕在化すれば生産の足かせとなることが懸念される。そして、生産拡大の動きに陰りが出ていることを受けて「雇用(48.1)」も前月比±0.0ptと大幅に50を下回る水準で推移するなど調整圧力がくすぶる展開が続いており、家計消費を取り巻く環境は厳しい状況が続くことは避けられそうにない。

一方、S&Pグローバルが公表している6月の財新製造業PMIは51.8と8ヶ月連続で50を上回る水準で推移するとともに、前月比も+0.1pt上昇して3年1ヶ月ぶりの水準となるなど上述した政府統計とは対照的な動きをみせている。なお、政府統計については調査対象の企業のうち国有企業をはじめとする内需関連企業が占める割合が相対的に高いとされる一方、財新製造業PMIについては沿海部の輸出関連企業や民間企業の割合が相対的に高く、足下の中国景気、とりわけ製造業企業を取り巻く環境は沿海部を中心に堅調な推移をみせていると捉えられる。足下の生産動向を示す「生産(54.6)」は引き続き50を大きく上回る水準で推移するとともに、前月比+0.3pt上昇するなど生産拡大の動きを強めている様子がうかがえる。一方、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(51.8)」も50を上回る水準で推移するも前月比▲0.5pt低下するなど底入れの動きに一服感が出ているほか、「輸出向け新規受注(50.6)」も同▲0.3pt低下しており、先行きの生産の勢いに陰りが出る可能性は高いと見込まれる。生産拡大の動きが続いていることを反映して「原材料在庫(50.8)」は前月比▲0.5pt低下するなど原材料需要の旺盛さを反映する動きがみられる一方、先行きの生産活動に対する不透明感が高まっていることを反映して「購買量(52.3)」は同▲0.4pt低下するなど、身構える動きをみせている様子もうかがえる。なお、このところの国際商品市況の調整の動きが強まっているものの「投入価格(52.3)」は前月比+0.3pt上昇しており、これまでの原材料価格の上昇を受けて中間財関連などで価格転嫁の動きが広がっていることを反映したものとみられるほか、こうした動きを反映して「出荷価格(51.0)」も同+1.1pt上昇しており、内需向けでは価格転嫁が難しい状況が続くなかで外需向けを中心に価格転嫁の動きが広がりをみせていると捉えられる。その意味では、中国によるデフレの輸出が懸念される状況がある一方、一般的な中国製品については世界的なインフレ圧力の緩和には繋がりにくくなっていると考えられる。他方、生産活動は堅調な推移をみせているにも拘らず「雇用(49.9)」は前月比+0.3pt上昇するも引き続きわずかながら50を下回る水準で推移するなど調整圧力がくすぶっており、家計消費をはじめとする内需の不透明感が残る状況は変わらない。

また、政府統計では6月の非製造業PMIは50.5と引き続き50を上回る水準を維持しているものの、前月(51.1)から▲0.6pt低下するなど底入れの動きに一服感が出ている様子がうかがえる。業種別では、インフラ関連を中心とする公共投資の進捗が期待される状況にも拘らず「建設業(52.3)」は前月比▲2.1ptと大幅に低下して昨年7月以来の低水準となっているほか、「サービス業(50.2)」も同▲0.3pt低下して今年1月以来の低水準となるなど、幅広く頭打ちの動きを強めている。なお、建設業のマインドが悪化している背景として、同国南部において豪雨被害が数多く発生していることを挙げているほか、サービス業については運輸関連や電気通信関連、金融関連などで堅調な動きが確認されている一方、資本市場関連や不動産関連は引き続き弱含みする対照的な動きがみられるなど、不動産市況の低迷が関連セクターの足かせとなっている。足下の生産活動が頭打ちの動きを強めていることに加え、先行きの生産活動に影響を与える「新規受注(46.7)」は前月比▲0.2pt低下しているほか、「輸出向け新規受注(48.8)」は同+1.2pt上昇するなど対照的な動きをみせているものの、内・外需双方で受注動向は50を大きく下回る推移が続くなど先行きに対する不透明感は高い。さらに、原油をはじめとする国際商品市況の頭打ちの動きを反映して「投入価格(49.6)」は前月比▲0.1pt低下するなど原材料価格に下押し圧力が掛かる動きがみられるほか、こうした状況も影響して「出荷価格(47.6)」は同▲0.2pt低下するなど非製造業部門においてもディスインフレ圧力が強まりやすい状況にある。このように足下の状況に加え、先行きに対する不透明感もともに高い展開が続いていることを受けて「雇用(45.8)」は前月比▲0.4pt低下するなど一段と調整圧力が強まる動きが確認されるなど、家計消費をはじめとする内需の回復は見通しにくい。さらに、こうした状況を反映して「総合PMI(50.5)」は前月比▲0.5pt低下しており、4-6月の平均値も51.1と1-3月(51.5)から低下していることを勘案すれば4-6月のGDP統計は前期比でプラス成長が続いていると判断できるものの、その勢いに陰りが出ていることは間違いないなど徐々に鈍化していくことは避けられないであろう。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

