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- フランス極右政権誕生のプレリュード
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- フランス国民議会選挙の初回投票は、極右政党が最多支持を獲得、左派会派がこれに続き、大統領支持会派が三番手に沈んだ。出口調査は極右政党の予想獲得議席が単独過半数に僅かに届かないものが多い。初回投票の結果を踏まえ、決選投票への出馬を見送る候補や投票行動を変える有権者がいることが議席予想を難しくする。決選投票での戦略投票、極右政党が単独過半数に届くか、政権奪取時に現実的な政権運営を行うか、マクロン大統領の去就が今後の注目点となる。
6月30日に投開票が行われたフランス国民議会(下院)選挙の初回投票は、日本時間の7月1日未明に出口調査が明らかとなり、極右政党・国民連合(RN)が34%程度で最多の支持を獲得し、左派会派・新人民戦線(NPF)が28%程度でこれを追い、マクロン大統領の支持会派・アンサンブル(ENS)が20%程度で三番手に沈み、かつての二大政党の一角である中道右派の共和党(LR)が10%程度となったことが示唆される(図表1)。577の選挙区のうち65~85議席の勝者が初回投票で決まるとみられ、残りの議席は7月7日の決選投票に勝敗の行方が持ち越される模様。決選投票に進出する政党は、577の選挙区のうち26選挙区の勝者が確定していない段階で、国民連合が441選挙区で最も多く、新人民戦線が397選挙区、アンサンブルが306選挙区、共和党が62選挙区とみられている。

過去2回の国民議会選挙の投票率は40%台にとどまったが、極右政権誕生が現実味を帯び、国民の関心が高かった今回は60%台後半に達した模様だ(図表2)。初回投票で勝者が確定する場合を除き、初回投票での上位2名の候補に加えて、有権者の12.5%以上の支持を獲得した候補が決選投票に進む。投票率が上昇した今回の選挙では12.5%の基準に達する候補が増え、過去の選挙を遥かに上回る285~315の選挙区が3候補の争いとなりそうだ(図表3)。


フランス全土における初回投票での各勢力の得票率は、事前の世論調査と概ね一致した(図表4)。577の選挙区のうち26選挙区の勝者が確定していない段階で、国民連合は297の選挙区で首位に立ち、新人民戦線の142選挙区、アンサンブルの63選挙区、共和党の17選挙区を大きく突き放している。大統領陣営は国民連合や新人民戦線が掲げる政策の危うさを訴えたが、国民戦線の勢いを削ぐことができなかった。初回投票後は1週間後の決選投票に向けて、議席予想の世論調査が発表される。出口調査によれば、国民連合が230~280議席を獲得して単独過半数に迫り、新人民戦線が125~165議席で続き、アンサンブルが70~100議席と改選前から大幅に議席を落とし、共和党が41~61議席にとどまることが見込まれる(図表5)。ただ、2022年の前回選挙では、出口調査や世論調査の議席予想と実際の獲得議席が食い違った(図表6)。初回投票の結果を踏まえ、決選投票への出馬を見送る候補や投票行動を変える有権者がいることが議席予想を難しくする。



決選投票に向けてアンサンブルが大逆転劇を演じる余地はないのだろうか。可能性があるとすれば、極右政権の誕生を阻止するため、新人民戦線に加わる穏健左派政党でかつての二大政党の一角を占めた社会党(PS)や、初回投票を前に国民連合との協力を拒否した共和党の主流派が、アンサンブルとの選挙協力に舵を切る場合だろう。また、三つ巴の選挙区で三番手候補が決選投票への出馬を取り止める場合、新人民戦線が反極右票を集結する形で国民連合に逆転勝利する姿も描ける。今後、主要政党の関係者が決選投票に向けてどのような投票を呼び掛けるかに注目が集まる。他方で、初回投票で敗退した新興極右政党・再征服(R!)などの支持者の多くが決選投票では国民連合の支持に回ることが予想される。2022年の大統領選挙で、共和党のペクレス候補を支持した有権者のうち25%が、再征服のゼムール候補を支持した有権者の73%が、今回の国民議会選挙で国民連合を支持している(図表7)。過去の出口調査や世論調査が国民連合の獲得議席を過小評価していた点も気掛かりだ。このまま国民連合が単独過半数を確保する可能性も十分にある。

国民連合が単独過半数や他の右派政党の支持を得て過半数の議席を確保する場合、マクロン大統領は国民連合から首相を選ぶことになろう。フランス史上初の極右政党出身の首相が誕生する。その場合の焦点は、政権奪取後の国民連合が公約実現を優先するのか、現実的な政権運営にシフトするかに移る。国民連合は、マクロン大統領が進めた年金改革の見直し、富裕層課税の強化、若年層の税優遇、エネルギー料金の付加価値税率引き下げ、移民規制の強化、EU予算への拠出減額、新規の自由貿易協定(FTA)交渉の禁止などを公約に掲げている。公約実現を優先すれば、財政運営などを巡る金融市場の動揺やEUとの衝突が避けられない。現実路線が確認されれば、市場の動揺やEUとの衝突はひとまず回避されよう。
また、極右首相が誕生した場合、マクロン大統領の去就にも注目が集まろう。大統領は選挙がどのような結果になろうとも、2027年の任期満了まで職務を全うすることを示唆している。だが、議会の過半数を握る極右政権が誕生した場合、マクロン大統領は自身の政治信条や国家像と異なる政権運営を受け入れざるを得ない。大統領には議会が決めた法律を拒否する権限はない。そうした立場に甘んじるよりも、自ら退任する道を歩んだとしても不思議ではない。大統領が辞任を決断した場合、大統領選挙が前倒しで行われ、現在の政治環境を考えると国民連合のルペン氏が悲願の大統領の座を手に入れる可能性が高い。
国民連合が第一党となるが、単独過半数に届かない場合の政局展開は流動的だ。国民連合のバルデラ党首は初回投票前に、過半数を確保しない限り、政権運営を行わない趣旨の発言をしたが、これは有権者に投票を促すためのものとみられる。単独過半数に届かない場合も、政権奪取の機会を自ら放棄するとは思えない。非多数派政権が誕生する場合も、2022年に過半数の支持を失った以降のアンサンブルと同様に、憲法上の特例措置を駆使して法律や予算を通すことは可能だ。議会は首相の不信任決議を行うことができるが、野党勢の足並みの乱れから政権が延命されてきた。
マクロン大統領が第三党への転落が濃厚なアンサンブルから首相を任命することもできるが、この場合、議会内外での反発は必至で、激しい抗議活動や社会的な混乱を引き起こしかねない。また、政党の垣根を超えた議会の過半数の支持が得られる人物を首相に据えることも考えられるが、適任者が見つかるかどうかは不透明だ。安定政権が樹立できないことを理由に、ひとまず暫定首相を任命し、再選挙を行うシナリオも考えられる。ただ、議会の解散は憲法の規定で1年に1度しかできず、政局不透明感が長期化することになる。
田中 理
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