6月の日銀金融政策決定会合の「主な意見」を読み解く

~「主な意見」からは日銀のビハインド・ザ・カーブからフォワード・ルッキングへの姿勢変化 も垣間見える~

佐久間 啓

日銀から、6月13日、14日に行われた金融政策決定会合の「主な意見」が公表された。この決定会合では、「金融市場において長期金利がより自由な形で形成されるよう、長期国債買入れを減額していく方針を決定」し、「市場参加者の意見も確認し、次回金融政策決定会合において、今後1~2年程度の具体的な減額計画を決定する」とした。

前回、4月決定会合の「主な意見」では、長期国債の買入れについて、「どこかで削減の方向性を示すのが良い」、「国債保有量の正常化、過剰な水準にある準備預金の適正化という観点から、日銀のバランスシートの圧縮を進めていく必要がある」、「国債買入れの減額も、市場動向や国債需給をみながら、機を捉えて進めていくことが大切」、といった意見が出ていた一方、買入減額、バランスシート圧縮に対しては特に反対意見がなかった。こうした情報発信から、市場では6月の決定会合で、具体的な買入れ減額計画が決定されるといった見方が強かったが、その具多的な計画は次回会合に持ち越しとされた。

6月決定会合後の総裁記者会見では国債買入れ減額決定先送りに質問が集中

6月14日の決定会合後の総裁記者会見では、買入れ減額を7月に“先送り”したことに質問が集中していたが、総裁は、「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能なかたちで減額していくことが適切である」、「減額する以上、相応の規模となる」となるため債券市場参加者の意見を聞いて検討を進め、計画を策定する、と回答している。

また、買入れ削減を7月に“先送り”したことで、市場では、7月の利上げはないだろういう見方が出ていることについて、「そのときまでに出てきます経済・物価情勢に関するデータないし入ってくる情報次第で、短期金利を引き上げて金融緩和度合いを調整するということは当然あり得る話だというふうに考えている」とした。

これだけ聞くと、かなりタカ派的な発言であるが、市場では、この総裁発言の後も、総裁はいつものように原則論を言っただけで、実際問題として、削減計画と利上げを同時に決定することには無理があるだろう、といった意見が多い。ましてや、債券市場参加者の意見を聞く、とは言っているものの、総裁自ら「相応の規模になる」としていることから、市場で噂されている6兆円/月から1兆円/月減額の5兆円/月ではなく、それ以上の減額を想定していると考えるのが普通だ。そうなると、単に“買入れ減額”というより、本格的な“保有国債残高削減”であり、さすがに同時に手を付けることはリスクが大き過ぎることから、7月の利上げはないだろうというのが多数意見だ。

日銀と財務省のコミュニケーションは十分とれている

また、買入れ減額について、「政府の国債発行計画もにらみながら減額幅とかペースを検討していくのか」という質問に対し、「財務省あるいは理財局の発行計画ないし国債管理政策があるかと思います。そこの役割分担みたいなことになりますけれども、この計画をよく聞いてそしゃくして、向こう 1、2 年間のわれわれのオペを考えていくというよりは、われわれの向こう 1、2 年間のオペの大まかな姿を明らかにして、そのうえで政府の方で国債管理政策等を決めて頂くという姿勢かなと思っております」と答えている。それほど話題にならなかった発言であるが、聞きようによっては、随分突き放した原則論に聞こえるが、逆にここまで言えるということはカウンターパートと十分なコミュニケーションが取れているからこその発言とも言えるのかもしれない。決定会合の翌週、6月21日、財務省の「国の債務管理に関する研究会」は、「発行年限の短期化や変動利付国債の発行など、市中に供給する金利リスク量の縮減を図る対応も必要」とする提言をまとめたと報道されている。日銀と財務省の呼吸が合っていることは、市場にとっては一つの安心材料になる。




今回公表された、6月13日、14日の決定会合の「主な意見」では、経済情勢、物価についての認識、早期利上げの可能性はあるのか、また、国債買入れ減額について、どういった議論があって具体的計画の決定が7月になったのか、という点に注目して読み解いてみたい。

「主な意見」では経済情勢、物価に関する意見が前回より減少

「主な意見」は、Ⅰ.金融経済情勢に関する意見として(経済情勢)と(物価)の2点についてと、Ⅱ.金融政策運営に関する意見、にまとめられているが、今回は、(経済情勢)についての意見が6件、(物価)が6件、金融政策運営が17件と、前回4月会合の「主な意見」のそれぞれ7件、8件、14件に比べると、(経済情勢)、(物価)に関する意見が減り、金融政策運営に関する意見が増加している。つまり金融政策運営についてより多くの議論が交わされたということだ。逆に言えば経済情勢、物価については、「メインシナリオは不変、物価面の指標もオントラック」、「物価安定の目標に向けて着実に進んでいる」、といった意見に代表されるように、多くの参加者がリスク要因は残るものの好循環実現に自信を深めていると言えるのかもしれない。

ビハインド・ザ・カーブからフォワード・ルッキングへの姿勢変化?

金融融政策運営に関しては、政策金利の引上げをどう考えるか、国債の買入れ減額をどう考えるか、の2点について議論が交わされている。

政策金利の引上げについては、「第2ラウンドの価格転嫁によって物価が上振れる可能性もあるだけに、リスクマネジメントの観点から金融緩和のさらなる調整の検討も必要」、「データを注視し、目標実現の確度の高まりに応じて、遅きに失することなく、適時に金利を引き上げることが必要である」と利上げに前向きな意見がある一方、「消費者物価が明確に反転上昇する動きや、中長期の予想インフレ率の上振れなどを経済指標で確認してからで良い」とする慎重な意見もあるが、やや前向きな意見が多数を占めつつあるように感じる。

これまで日銀は、デフレ脱却を確実にするため政策変更を急がない、所謂、ビハインド・ザ・カーブ(Behind the Curve)の姿勢を示していたが、「リスクマネジメントの観点から金融緩和のさらなる調整の検討も必要」と、先行きを見据え、リスクの高まりに先んじて動く、フォワード・ルッキング(Forward Looking)の姿勢に重心を移してきたような意見が増えてきた。思いの外、次の利上げは近い、ということかもしれない。


為替についての言及もあるが、ある委員は「金融政策運営は、物価の基調とその背後にある賃金動向を見極めて行うものであり、為替の短期的な変動には左右されない」としており、日銀の姿勢に大きな変化はないと言えるだろう。

相応の規模の減額を計画するからこそ、市場参加の見方を確認

国債の買入れ減額については、「国債市場の安定に配慮するための柔軟性を確保しつつ、予見可能な形で相応の規模の減額をしていくことが適切」、イールドカーブ・コントロールからの脱却が円滑にできたことを踏まえ、「市場参加者の見方を確認するプロセスを踏んだ方が、よりしっかりとした規模の削減ができる」、「減額の最適なペースなどを設定する必要があるため、市場との対話も含め、ある程度の時間をかけて慎重に検討すべき」といった意見が続出したこともあり、具体的な削減計画の決定が“先送り”されたものと考えられる。

「主な意見」からは、単なる“買入れ減額“ではなく、”しっかりした規模の減額“、つまり明確なバランスシート圧縮を目指していることが伺える。向こう1年から2年の計画ということなので、当初の減額幅は小さく、数カ月ごとに減額幅を拡大させていくような計画になる可能性が高いと考えられるが、いずれにせよ、計画全体では相応の規模感を想定すべきだろう。

以上

佐久間 啓


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