新NISAで個人の投資行動に変化はあったのか

~好調な滑り出しで、比較的若い世代の利用も拡大しているのは事実、だが…~

佐久間 啓

金融庁から2024年3月末時点のNISA利用状況の調査結果が公表されている。岸田政権の、「新しい資本主義」の実現を目指す取組の一つである、「資産所得倍増プラン」の柱として、2024年1月から「新NISA」がスタートしている。「新NISA」は、貯蓄から投資にシフトさせるため、時限措置だった“旧NISA”を抜本的に拡充。制度の恒久化、非課税保有期間の無期限化に加え、投資枠も大幅に拡大されている。

2020年3月のコロナショック以降、世界的に株価は堅調な動きを維持していることや2022年以降の円安の動きから、投資に関心を持つ層も増えている。そうした中で始まった「新NISA」であるが、個人の投資行動に変化は見えるのか、証券市場へのインパクトについて確認し、考えてみたい。

「新NISA」は絶好調と言ってもいい滑り出し

資産所得倍増プランの中では、NISA口座数を1,700万件(2021年3月末)から5年間で倍の3,400万件まで拡大させることを目標にしているが、金融庁の資料によれば、2024年3月末のNISA口座数は2,323万件。2023年12月末(速報値)で2,136万件なので、2024年1月~3月で187万件の増加。前年同期である2023年1月~3月は73万件(一般NISA:15万件、つみたてNISA:58万件)の増加なので、口座増加数でみると2.6倍に増えている。

2024年1月~3月の買付けは61,791億円。前年同期である2023年1月~3月では24,694億円なので2.5倍に拡大。2023年年間の“旧NISA”による買付け額がトータル54,096億円なので、この1月から3月の3か月間で2023年年間の買付け額を上回っていることになる。

「新NISA」制度の詳細が固まって以降、株価が堅調に推移したことや円安の動きが続いたこと、また制度取扱い金融機関による広報活動もあり、各種メディアでも取り上げられ、関心が高まっていた。それにしても1月~3月の3か月間で、2023年年間の買付け額を上回るというのは驚きだ。

旧制度では、“一般NISA(年間投資限度額120万円)”と“つみたてNISA(同40万円)”に別れ、かつ併用はできない仕組みだった。新制度では個別銘柄にも投資可能な“成長投資枠(同240万円)”と、原則投資信託への投資に限られる“つみたて投資枠(同120万円)”という投資枠が設定されているものの、投資枠の併用は可能であることから、最大年360万円の投資が可能になっている。旧制度の3倍だ。買付け額が前年同期比2.5倍に拡大というのは、投資可能金額の拡大を考えれば殊更驚くことはないのかもしれない。当然、市場環境にも左右されるが、このままのペースでいけば、2024年年間では13.5兆円(2023年年間の5.4兆円×2.5倍)程度の買付けも期待できるということだ。

2024年1月~3月の買付け額61,791億円ののうち、51,355億円、83.1%が成長投資枠、10,436億円16.9%が積立投資枠での買付けだ。その商品別内訳は上場株式が24,862億円(占率40.2%)、投資信託が35,048億円(同56.7%)、ETFが1,513億円(同2.4%)、REITが368億円(同0.6%)。2023年については、1月~10月までのデータしか公表されていないが、そのベースでは、上場株式が33.0%、投資信託が63.2%、ETFが3.5%、REITが0.3%だ。2018年につみたてNISAが始まったこともあり、それまで40%を超えていた上場株式の買付け占率は徐々に低下し、30%台前半まで落ちていたが、「新NISA」では久々に40%台に回復している。日本証券業協会の纏めた大手証券10社ベースの「NISA口座の開設・利用状況」によれば、上場株式の買付け額のうち95%が国内株だ。

2023年比べて若い世代の利用が拡大

「新NISA」の年代別利用状況(買付額61,791億円の年代別内訳)も公表されている。全体の83.1を占める成長投資枠の利用状況は、20歳代が4.5%、30歳代が14.0%、40歳代が18.8%、50歳代が20.4%、60歳代が20.5%、70歳以降21.6%と、やはり高齢世代の利用の多いことが分かる。ただ2023年1月~10月の“一般NISA”(投資対象商品が成長投資枠と同じ)のデータと比較すると、20歳代は+1.3%p、30歳代は+3.8%p、40歳代は+3.2%p、50歳代は+0.6%p、60歳代は▲3.0%p、70歳以降は▲5.8%pと高齢世代の利用占率が落ちる一方、30歳代、40歳代の利用占率が増えていることが分かる。

買付け額が前年同期の2.6倍に膨らむ中で、比較的若い世代の利用が増えていることは、個人の貯蓄投資行動に変化が起きつつあると言えるのかもしれない。まだ2023年年間の詳細データも公表されておらず、「新NISA」も3か月分の速報ベースのデータであり、1年を通してみたら違った景色がみえる可能性もあるが、これまでなかった動きであり、引き続き注意深くみていく必要があるだろう

資産所得倍増プランの柱として大いに期待されて始まった「新NISA」だが、ここまでのところ順調に進んでいると言えるだろう。

買付け額が強調されているが、投資行動は立体的にみるべき

2024年1月~3月の買付け額61,791億円を加えて、“旧NISA”制度が始まった2014年以降、累計で416,044億円の買付けが行われている。1月以降、メディア等ではこの「買付け額」に注目して報道されることが多い。確かに2014年以降で41.6兆円もの証券が買われているが、NISA口座に40兆円もの証券があるわけではない。“旧NISA”は、非課税保有期間は5年と限られていることもあり、5年経過後は課税口座に移管されるが、それを嫌った売却や、そもそも相場上昇時に売却したりということで、買付けの一方で、売却もそれなりの規模で行われている。

金融庁の資料によれば、2014年の制度開始以降2022年12月末までの累計で、300,157億円が買付けられているが、同期間の累計で169,705億円が売却されており、2022年12月末の口座内の証券残高は131,946億円となっている。2023年以降のデータはまだ公表されていないが、それなりの売却があったはずだ。

NISA買付・売却金額(累計)
NISA買付・売却金額(累計)

「新NISA」では非課税期間の無期限化が図られているおり、課税口座への移管を嫌った売却はないが、“旧NISA”口座からはこうした売却が2027年(2023年に“旧NISA”口座で買った商品の非課税期間は2027年末)まで残ることになる。また、“旧NISA”で非課税期間が残っているが、「新NISA」では非課税期間が無期限化されているので、今のうちに“旧NISA”口座で保有する証券を売却して「新NISA」口座で買い直す動きも考えられる。買付け額にだけ注目するのではなく、売却状況も含めて立体的に個人の投資行動をみていくことが、「貯蓄から投資へ」を考えるにあたっては必要だろう。

現状、「新NISA」の買付けと個人全体の動きを直接結び付けるのは無理がある

2024年1月~3月の61,791億円の買付けのうち、24,862億円が上場株式、また、そのうち95%程度が日本株ということは、この間、23,619億円の日本株が買われたことになる。一方、この間の日本取引所グループ(JPX)の投資家別売買動向によれば、個人は▲8,154億円の売り越し、うち現金取引は▲23,528億円、信用取引は15,375億円の買い越し。「新NISA」では信用取引は対象外であり、23,619億円の買いは現金取引で行われているが、市場全体の現金取引では大きな売り越しとなっている。「新NISA」の買いを大きく上回る売りがあったということだ。この間の、個人の現金取引のグロス金額をみると、買入は258,148億円、売却は281,677億円。「新NISA」の買付けは全体の9.1%を占める程度で、個人の上場株取引ではまだまだマイナーな存在だ。

個人売買動向
個人売買動向

週次ベースの売買動向で、個人が買い越しになったのは「新NISA」の買いが入っているから、と説明されることもあるが、現状、単純に個人の買い越しと「新NISA」の買いを結び付けるのは無理があるだろう。

ただ、「新NISA」の買いのポテンシャルが大きいことは事実だ。特に1月~3月は、多くの企業が採用する3月末の配当基準日前に買いたいというニーズが強いこともあり、買付けが膨らむことが想定できる。また、何より買付け期間、非課税期間が無期限化されていることから、投資に当たって時間を味方につけることができ、焦って買ったり売ったりしなくて済むことのメリットは大きい。個人の株式売買は下がったら買い、上がったら売りの逆張り投資と言われているが、「新NISA」が普及していく中で、株式等を金融資産の一部としてとして、持ち続けるという投資スタイルも定着していくことが期待される。「新NISA」による、一定の量の買い越しが安定的に入る、という状況になれば市場へのインパクトも大きい。

現状、「新NISA」口座からの売却の情報がないため、2024年1月~3月のネットの買い越し額は不明であるが、“旧NISA”時代の買付けと売却の関係と比較して、変化が出てくるのか、出てこないのかは注目だ。

証券投資を日常にするために関係者は努力を続ける必要がある

“旧NISA”時代の2022年末時点で、一般NISA口座(年間投資限度額120万円)1,125万件のうち、2022年中に買付けゼロの口座が579万件、51.5%もあり、買付けゼロを含め買付け60万円以下の利用口座が73%もあった。多くの口座がまだまだ手探りの状態で投資を行っている状態だろう。

2024年からの「新NISA」では、これまで見られなかった動きも確認できる。制度の恒久化、非課税期間の無期限化といった「新NISA」のメリットは大きい。「新NISA」の利用にあたっては、周囲の動きに煽られ、惑わされることなく、自分に合ったペースで金資産全体の中での投資のウェイトを徐々に増やしていくことが大切だろう。

また、当たり前だが、お金は期待リターンの高いところに集まる。つまり資金が日本株市場に投資されるためには、日本の株式市場が期待リターンを上げるとともに、実績で信頼感を得ていくことが必要だ。東証は「資本コストや株価を意識した経営の実現」を目指す取組を進めている。自社株買いや配当も増えている。企業サイドも、「昔とは違う」ということをIRの中で、積極的に示していくことも必要だ。証券投資を日常にするために、すべての関係者は努力を続ける必要があるだろう。

以上

佐久間 啓


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。