株高不況 株高不況

マイナス金利撤廃に向けた論点

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年前半にマイナス金利を撤廃するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年4-6月を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.7%、NASDAQは+1.1%で引け。VIXは13.8へと低下。
  • 米金利はベア・スティープ化。予想インフレ率(10年BEI)は2.343%(+0.4bp)へと上昇。 実質金利は1.944%(+2.0bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲70.5bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは146半ばへと低下。コモディティはWTI原油が87.3㌦(▲0.2㌦)へと低下。銅は8402.0㌦(+159.5㌦)へと上昇。金は1929.2㌦(+4.6㌦)へと上昇。

米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)
米国 イールドカーブ、名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)、長短金利差(2年10年)

(%) 米国 イールドカーブ
(%) 米国 イールドカーブ

(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)
(bp) 米国 イールドカーブ(前日差)

米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)
米国 名目金利・予想インフレ率・実質金利(10年)

米国 長短金利差(2年10年)
米国 長短金利差(2年10年)

注目点

  • 植田総裁が9月9日付配信のインタビューで、利上げ時期について「到底決め打ちできる段階ではない」としたものの、来春の賃上げ動向を含め「年末までに十分な情報やデータがそろう可能性はゼロではない」と発言したことで突如マイナス金利撤廃が現実味を帯びてきた。タカ派で知られている田村委員ですらマイナス金利撤廃は「1-3月頃」としていたので、もはや最タカ派の座は植田総裁に変わった印象すらある。日銀中枢メンバーの間でマイナス金利撤廃に向けた議論が始まっている可能性があるだろう。以下、マイナス金利撤廃に関する幾つかの論点を整理する。

Q:仮にマイナス金利撤回があるとすれば、その根拠や条件は?
A:日銀は「インフレは一時的、基調的なインフレは2%を下回っている」と繰り返しており、7月展望レポートの見通しは2023年度が+2.5%、2024年度が+1.9%、2025年度が+1.6%と見通し期間の後半にかけて2%を下回る姿になっている。また「金融引き締めに転じるのは2%目標の達成が見通せるようになってから」と繰り返している。普通に考えれば・・・・・・・、インフレの実績値が2%を上振れ、かつ2年程度先までその状態で推移するとの予想がたつ時に金融引き締めが実行される。

Q:2%目標の達成が見通せる前にマイナス金利撤廃に動くのか?
A:10月31日に更新される展望レポートの物価見通しは、見通し期間の後半にかけて2%を下回る現在の姿が維持されるとみられ、「年内(≒12月18-19日)」に2%の持続性に自信を持てる姿になっていない公算が大きい。ただし、それでも日銀はマイナス金利撤回の理由をある意味合理的に説明できる。それは、これまでのYCC柔軟化に際しての説明と同様に、マイナス金利撤廃を「金融緩和の持続性を高めるための措置」に位置付けることで可能になる。この論法は田村委員が8月30日の講演で以下のように用いていた。
「仮にマイナス金利、解除したとしても、その後、金利を低位に抑え込む、抑えていくということであれば、それは金融引き締めとか、金融緩和の縮小というよりは、金融緩和を継続しているということだというふうに理解をしております」

Q:仮に10bp利上げした場合、その状態は金融緩和的なのか?
A:金融政策の方向感に焦点を当てた場合、利上げは金融引き締めに他ならない。ただし一般論として「政策金利<中立金利」なら金融緩和的である。そこで中立金利が重要になってくるのだが、Fedがドットチャートの中央値として名目中立金利を2.5%と推計・公表している一方、日銀はそうした数値を示していない。日銀が中立金利の推計値を公表する気配はないが、自然利子率(=実質均衡金利)や中長期的インフレ率などから判断すると、0%台半ば~1%程度が目安になると思われる。なお、黒田総裁は2022年10月31日の総裁会見で以下のように述べていた。仮に政策金利が0%に引き上げられても、以下の見解を踏襲すること自体に大きな問題があるとは思えない。日銀が自らの政策を「金融引き締め」と評価するのは、中立金利を上回る状態に達してからだろう(そもそも中立金利が公表されていないが・・)。
中立金利というものは潜在成長率とも関連しますので、今の段階で一概に決めつけるということは難しいと思いますけれども、少なくとも今の金利は中立金利よりもはるかに低いところで、金融緩和の効果を経済全体に及ぼしているということはいえると思います。

Q:政府のデフレ脱却宣言との関係は?
A:政府は「物価の番人」である日銀の立場を尊重する意味もあり、日銀がマイナス金利を撤回してからデフレ脱却宣言に踏み切るのではないか。仮に政府が、日銀の緩和修正プロセス実施中にデフレ脱却を宣言した場合、金融市場のボラティリティ増幅に繋がるなど弊害が予想される。もしYCC継続中に政府がデフレ脱却宣言をすれば、それは日銀からすると迷惑行為に他ならない。政治的にどういった力が作用するか読みにくい面はあるが、日銀がデフレ完全脱却に自信を深めてから政府が動くのが自然と思われる。

Q:YCC撤廃とマイナス金利撤廃、どちらが先?
A:筆者はマイナス金利撤廃の段階では、イールドカーブの歪み発生を覚悟の上でYCCを残すと予想する。イールドカーブ全般が金利上昇圧力に晒され、ボラティリティが増幅すると、たった10bpの短期金利引き上げが大きな引き締め効果を生み出してしまう恐れがあるためだ。30年近く本格的な利上げを経験していない日本人、特に家計は、変動型の住宅ローン金利の上昇に対して強い恐怖感を覚え、貯蓄を優先したり繰り上げ返済を検討したりするなど、過剰とも言える反応を示す可能性がある。また利上げに併行してバランスシート拡大方針の見直しや階層構造方式の修正など多岐にわたる変更があることを踏まえると、YCCを保険的な位置づけで残しておくことは理に適っているだろう。

Q:9月、10月のマイナス金利撤廃の可能性は?
A:7月のYCC柔軟化が予想外のタイミングだったことを踏まえると、同じ事が2度あっても不思議ではないが、さすがに9月だと日銀が重視している賃金データの蓄積が進展しないことからその可能性は低い。もっとも、為替が急激に円安方向へ進んだりすれば、10月会合では展望レポートの物価見通し上方修正に合わせ、マイナス金利撤廃に動く可能性もある。

藤代 宏一


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