株高不況 株高不況

マイナス金利解除に向けた論点 「消費者物価以外」

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月34,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。
  • 日銀は2024年後半にマイナス金利を撤回するだろう。
  • FEDはFF金利を5.50%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは24年4-6月を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.6%、NASDAQは+0.8%で引け。VIXは15.1へと低下。
  • 米金利は中期ゾーンを中心に金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.303%(▲1.9bp)へと低下。 実質金利は1.896%(▲1.3bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲85.2bpへとマイナス幅拡大。
  • 為替(G10通貨)はJPYの弱さが続いた。USD/JPYは146半ばへと上昇。コモディティはWTI原油が80.1㌦(+0.3㌦)へと上昇。銅は8355.5㌦(±0.0㌦)へと上昇。金は1917.9㌦(+6.8㌦)へと上昇。

図表1
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図表2
図表2

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

注目点

  • 日銀の金融政策を読む上で、消費者物価以外の3つの物価関連指標に注目したい。今回は毎月勤労統計、GDPデフレータ、日銀短観で調査される企業の予想インフレ率を概観する。というのも、物価指標として圧倒的に注目度の高い消費者物価指数は政府の政策支援(電力・ガス、ガソリン、旅行)によって攪乱されている他、消費者物価の約2割を占める家賃が凍土のごとく動かないため、実勢を把握しているか微妙な側面があり、日銀もそう考えている可能性があるからだ。首都圏のマンション価格が目に見えて高騰しているのをよそに、全国消費者物価指数における家賃の指数水準は15ヶ月連続で100.2と小数点1桁まで何の変化もない。過疎地を含めた日本全国でみれば地価(家賃)は僅かな変動かもしれないが、それでも消費者物価全体の約2割を占める超重要項目が小数点1桁まで不変というのは直観的に解せない。過去に帰属家賃を巡っては、経年劣化による品質調整を実施しない推計方法の妥当性を疑問視する声もあり、内閣府の統計委員会が総務省に改善を働きかけた経緯もある(たとえば賃貸住宅で経年劣化にもかかわらず入居時の賃料がそのままなら経年劣化分を値上げと見做す)。また2016年7月の展望レポートのBOXでは帰属家賃の硬直性に起因する物価全体の下押し影響について論じられており、ここには不平不満が内包されていたようにみえた。ちなみに米国のCPIは品質調整を実施している。なお7月の消費者物価は、家賃を除く総合が前年比+3.9%、家賃を除くサービスが前年比+2.9%とそれぞれ伸縮的に動いており、こちらの方が消費者の実感に近い。

図表6
図表6

  • 消費者物価指数以外のインフレ指標で注目すべきは、やはり賃金だろう。名目賃金を計測する指標は法人企業統計(人件費の項目)、雇用者報酬(GDP統計)、家計調査など複数あるが、労働コストのインフレを推計する際には一人当たり賃金を捕捉する毎月勤労統計が適しており、当然日銀も重視している。ヘッドラインの現金給与総額もさることながら、特に注目すべきは基本給に相当する概念である所定内給与であろう。この尺度の賃金は春闘の結果が反映され始めた5月から加速感が認められている。春闘ベア率から判断すると2023年度は2%程度で推移する公算が高い。日銀が理想に掲げる3%には届かないものの、現時点の伸び率はマイナス金利という極端な金融緩和策を終了するには十分な伸びと言えるだろう。

図表7
図表7

  • GDPデフレーターも注目される。4-6月期は前年比+3.4%と過去30年程度で経験したことのない伸びを記録している。国内の労働コスト増加とそれに伴う価格転嫁で内生的なインフレが生じる中、原油価格の「下落」が重なった。GDPデフレーターは交易条件を加味した物価指標であるから、輸入価格が低下したり、輸出価格が上昇したりして海外との貿易における稼ぎやすさが強まると、押し上げ方向に動くよう計算される。GDPデフレーターは政府がデフレ脱却を宣言する際に参照する4つの指標(その他は消費者物価、GDPギャップ、単位労働コスト)の一つでもあるから、こうした傾向が続けば日銀が政策変更を検討する可能性が高まる。

図表8
図表8

  • その他では日銀短観の物価・販売価格見通しも注目される。この尺度で計測した企業の価格設定スタンスはコロナ期終盤以降に著しく積極化しており、特に「1年後」の上昇が目立つ(3年後と5年後が同時に調査される)。企業は+2.6%の消費者物価上昇率を予測し、そうした前提の下で自社の販売価格については+3.0%を計画している。全体の見通しを自社の販売価格計画が上回る傾向は、2014年の調査開始以来で初めてであり、もはや企業が価格競争力の低下を恐れていないことを示唆する。この点は企業行動の変容として認識すべきであろう。こうした傾向が続けば、インフレの持続性は高まり、日銀の政策変更を促す要因となる。

図表9
図表9

  • 以上みてきたように消費者物価以外の物価指標は、過去にない動きを示しており、日本のインフレ構造の本質的変化を映じているようにみえる。物価指標としては、消費者物価が圧倒的な存在感を誇るが、日銀が消費者物価「以外」の指標を重視する可能性もあり、そうなれば、いつ動いても不思議ではない状況とも言える。筆者は2024年後半のマイナス金利解除を予想するが、急速な円安など、何らかのきっかけがあれば前倒しになる可能性も十分にあるとみている。

藤代 宏一


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