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2023.03.29
欧州経済
英国経済
国際的課題・国際問題
スコットランドの首相交代と独立運動の今後
~英総選挙後の政権協議が次の突破口か?~
田中 理
- 要旨
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- 英国のスコットランドでは、これまで独立運動を率いてきたスタージョン第一首相に代わり、ユーサフ氏が新たな第一首相に就任した。新第一首相も独立問題を最重要課題の1つに掲げるが、まずは独立に向けた草の根の支持を広げていくことを重視している。首相交代でスコットランドの独立運動が急展開する可能性は低い。次に事態が大きく動くとすれば、来年にも実施が予定される英国総選挙後の政権交代が注目を集める。与党・保守党の支持が低迷するなか、最大野党・労働党が政権を奪取する公算が高まっているが、単独での政権発足が可能かは微妙なところだ。連立参加や閣外協力の見返りに、スコットランドが独立投票の実施を求める可能性がある。
英国のスコットランドでは、自治政府を率いるスタージョン第一首相の辞任を受け、議会最大勢力であるスコットランド国民党(SNP)の党首選が行われた。ユーサフ健康・社会保障相がフォーブス財務相を破って新党首に就任し、28日にスコットランド議会の賛成多数で第一首相に選出された。ユーサフ氏はパキスタン移民の子供としてスコットランドのグラスゴーに生まれ、大学卒業後、サモンド・スタージョン両第一首相経験者の議会スタッフなどを経て、2011年に初当選。欧州・国際開発担当相、運輸相、司法相、健康・社会保障相を歴任した37歳。スコットランド史上初のアジア系、史上初のイスラム教信者(ムスリム)、史上最年少の第一首相となる。ユーサフ新第一首相は今回の党首選で多くのSNPの重鎮メンバーに支持され、スタージョン路線を引き継ぐ候補と目されてきた。だが、信仰心が厚く、同性婚、中絶、トランスジェンダー、婚外子などを巡って、SNPの主流派メンバーや多くのスコットランド市民よりも保守的な思想を持つフォーブス財務相との党首選は、ユーサフ氏支持52%対フォーブス氏支持48%と予想以上の接戦となった。SNPと連立を組む緑の党は、フォーブス氏が新党首に就任する場合、連立を離脱する可能性も示唆していた。フォーブス氏は党首選を通じてユーサフ氏の閣僚としての手腕を攻撃、党首選敗北後はユーサフ氏を支持するとしながら、閣僚就任を固辞した。新党首は分断する党内をまとめ、スタージョン前第一首相が積み残した課題に取り組むことになる。
日本の読者にとっての最大の関心事は、新第一首相の下でスコットランドの英国からの独立運動がどう展開するかだろう。英国のスナク首相は、スコットランドの住民投票実施を認めない方針。英国の最高裁判所も昨年、英国議会の同意なしにスコットランド議会が独立の是非を問う住民投票を実施することができないとの判決を下した。法的な突破口を見出せなくなったスタージョン前第一首相は、2026年までに予定される次のスコットランド議会選挙を独立の是非を問う事実上の住民投票と位置づけ、そこで圧倒的多数の支持を取り付け、英国政府に正式な投票実施を要求していく方針だった。ユーサフ新第一首相は住民投票実施を最重要課題の1つに掲げるが、まずは独立に向けた草の根の支持を広げていくことを掲げ、幅広い勢力に独立実現に向けた次の一手の意見を求めていくとしている。スコットランド自治政府のトップ交代で、独立運動が急展開することはひとまずなさそうだ。ただ、SNPがユーサフ体制の下でもスコットランドでの圧倒的な地盤を確保することが出来るのであれば、来年にも実施が有力視される英総選挙後の政権発足において、キャスティング・ボートを握る可能性がある。社会福祉の充実や労働者の権利保護を重視する中道左派政党であるSNPは、英国の現政権を率いる保守党よりも、最大野党の労働党に政策の軸が近い。保守党の支持が低迷するなか、次の総選挙で労働党が勝利を収めた場合も、単独での政権奪取が可能かどうかは微妙なところだ。労働党がSNPに連立参加や閣外協力を求める見返りに、スコットランド独立の住民投票実施を要求し、それが受け入れられれば、独立に向けた突破口となる。無論、労働党が英国を分断する投票実施を簡単に認めることはないと思えるが、次の総選挙後の政権発足協議に注目したい。
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

