交易損失拡大で落ち込む実質GDI

~7-9月期の実質GDPはプラス成長見込みも、実質GDIではマイナスが濃厚~

新家 義貴

要旨
  • 実質GDPには交易条件の変化に伴う購買力の増減が反映されない。輸出入物価の変動が実質購買力に与える影響を見るためには、交易利得(損失)を考慮した実質GDIに注目する必要がある。

  • 輸入物価の上昇を主因として22年7-9月期の交易損失は一段と拡大すると試算され、この要因で実質GDIの伸びは実質GDPに比べて前期比年率で▲2.9%Pt程度下押しされることが予想される。7-9月期の実質GDPはプラス成長がコンセンサスだが、交易損失の影響から実質GDIはマイナス成長になるとみられ、海外への所得流出により国内の実質購買力が毀損されていることが示されるだろう。7-9月期の実質GDPの結果は割り引いて評価すべき。

  • 実質GDIでみれば、22年4-6月期の水準は19年(暦年)平均を▲4.5%Pt下回る見込みであり、実質GDP以上に経済活動正常化には距離がある。

交易損失拡大で、7-9月期の実質GDIはマイナスの公算大

11月15日に公表される22年7-9月期実質GDPの事前市場予想は前期比年率+1.0%(筆者予想:前期比年率+0.5%)と、4四半期連続のプラス成長が見込まれているが、本稿で注目したいのが実質GDIの動向である。

GDPは一国全体の経済活動を生産・支出面から把握したものである一方、GDIは所得面から把握したものであり、「実質GDI=実質GDP+交易利得(損失)」として表される。なお、交易利得(損失)とは、輸出入価格の変化(交易条件の変化)によって、国内と海外における所得の流出入(実質購買力)が基準年と比較してどれだけ変動したかを示したものである(※)。

実質GDPは国内の生産活動を把握するのに適しているが、交易条件の変化によって生じる購買力の変化を把握することができないという欠点がある。実質GDIをみることによって初めて、交易利得(損失)の動向を含めた実質購買力の増減を測ることができる。交易損失の拡大(海外への所得流出)は企業や家計の負担に直結することから、家計の生活実感や企業の景況感を見る上では実質GDIの方が適しているといえるだろう。

交易利得は21年入り以降急激に悪化しており、海外への所得流出が進んでいることが示されているが、現在公表されているデータを元に一定の仮定を置いて試算すると、22年7-9月期のGDPでは、輸出デフレーターの伸びを輸入デフレーターの伸びが大きく上回ることで交易損失は一段と拡大するという結果が得られた。この交易損失の拡大により、実質GDIの伸びは実質GDPに比べて前期比年率で▲2.9%Pt程度も下押しされることが予想される。前述のとおり7-9月期の実質GDPは前期比年率+1.0%とプラス成長になるとの予想がコンセンサスだが、この数字を前提にすると、実質GDIは前期比年率▲1.9%もの大幅マイナスと試算できる。

ここで実質GDPと実質GDIの推移を比較すると、21年1-3月期以降、実質GDPは緩やかながら持ち直していたのに対して、実質GDIは水準をはっきり切り下げており、両者に大きな乖離が生じている。22年7-9月期についても、実質GDPはプラス成長がコンセンサスだが、交易損失の影響から実質GDIはマイナス成長になるとみられ、海外への所得流出により国内の実質購買力が毀損されていることが示されるだろう。このように、実質GDPで見るか実質GDIで見るかによって印象がかなり異なる。22年7-9月期のGDPではこうした点もあわせてみることが必要だ。

ちなみに22年7-9月期の実質GDIの水準は、前述の数字を前提にすれば、新型コロナウイルス感染拡大前の19年10-12月期を▲2.5%Pt、19年(暦年)平均を▲4.5%Pt下回る見込みである。実質GDIでみれば、19年10-12月期の水準すら大きく下回っており、本来の意味でのコロナ前水準である19年4-6月期や19年平均は遥か彼方である。実質GDPでみても、22年7-9月期の水準は19年4-6月期や19年平均の値を明確に下回るとみられるが、実質GDIでみると状況はさらに悪い。経済活動の正常化には依然として距離が残っていると判断され、日本経済がコロナ禍を克服したと言えるにはまだ時間がかかりそうだ。

(※)詳細は「上がるCPI、下がるGDPデフレーター~海外への所得流出がもたらすGDPデフレーターの悪化~」(2/7)、「交易損失の拡大がもたらす景気下振れリスク~乖離が広がる実質GDPと実質GDI~」(4/15)、「コロナ前水準回復とは言うものの・・・」(8/15)をご参照ください。

図表1
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新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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