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ジョンソン首相は党首不信任を乗り切る

~支持回復に向けた財政出動を検討へ~

田中 理

要旨
  • 英国ではジョンソン首相が6日の党首不信任をどうにか乗り切ったが、41%が不信任票を投じ、首相の求心力低下は避けられない。世論調査で保守党の劣勢が続くと、改めて保守党内からジョンソン首相の党首降ろしの動きが再燃する可能性がある。ジョンソン首相は支持回復に向けて、物価高騰による国民生活への打撃を軽減する財政出動の積み増しなどを検討するとみられる。

新型コロナウイルス関連の行動制限期間中に政府関係者が飲食・飲酒を伴うパーティーを開催し、ジョンソン首相も参加していた「パーティーゲート問題」は、首相の保守党党首不信任投票に発展した。保守党の党首不信任手続きを所管する非閣僚議員で構成される「1922年委員会」は、同党に所属する359名の下院議員の15%(54名)以上が投票実施を求める書簡を提出したことを受け、6日に党首不信任投票を実施した。最近の世論調査では野党・労働党が保守党を6~7%ポイント余りリードするが、過半数(180名以上)が不信任に投票した場合も、議会の解散・総選挙は行われない。ジョンソン首相が党首を辞任し、保守党内で後継党首を選出するが、議会の過半数の議席を持つ保守党の次期党首が新たな首相に就任し、保守党政権がそのまま継続する。ジョンソン首相が信任された場合、保守党の内規により、向こう1年間は新たな党首不信任投票は行われない(内規を変更することは可能)。

投票結果は信任が211名、不信任が148名で、ジョンソン首相の保守党党首並びに首相続投が決まった。ただ、所属下院議員の実に41%が不信任に投票し、これはブレグジット協議の混乱を受けた2018年のメイ首相の不信任投票時の37%を上回る。メイ首相は不信任投票を乗り切った僅か5ヶ月後に退陣に追い込まれた。今回の投票結果はパーティーゲート問題を巡って首相や保守党に向けられた世論の厳しい声を反映したもので、党首不信任に投票した保守党議員も、今後の議会運営でジョンソン首相の政策方針に必ずしも反対票を投じる訳ではない。議会任期満了に伴う次の総選挙は2024年5月に予定されている。世論調査で保守党の劣勢が続く場合、保守党内でジョンソン首相の党首降ろしの動きが改めて浮上することも考えられる。6月23日の下院補欠選挙やパーティーゲート問題を巡る議会での疑惑追及の答弁が、ジョンソン首相が求心力を維持できるかの当面の試金石となろう。信任投票が行われる以前には、党首不信任を乗り切ったジョンソン首相が、政権基盤を強化するために前倒しの解散・総選挙に持ち込むとの観測も一部で浮上していた。だが、予想以上の不信任票の多さと世論調査での保守党の劣勢からは、こうした可能性が低いことが示唆される。むしろ、ジョンソン首相は支持回復に向けて、追加の財政出動や減税措置などを検討する可能性が高い。スナク財務相は先月末、電力料金高騰を受けた国民生活への打撃を軽減するための家計給付などの政策対応を打ち出したが、冬場の需要期に向けて追加措置の検討が本格化するとみられる。

以上

田中 理


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