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ロシアのXデーを通過

~デフォルトとガス供給停止のリスクが後退~

田中 理

要旨
  • ロシア政府は3月31日に期限を迎えたドル建て国債の支払いを履行するとともに、4月4日期限のドル建て国債の約7割を買い戻し、残りの返済をドルで履行する意向を伝えている。これにより年内の大型償還を乗り切り、当面のデフォルト・リスクは後退する。

  • ロシア政府は非友好国に対してガス輸出代金のルーブルでの支払いを求め、4月1日から新たな支払い方法を開始する。3月31日に発表された新たな仕組みでは、買い手が外貨口座に送金した資金をロシアの指定銀行がルーブル口座に交換する。日米欧は外貨建てでの支払いを継続でき、ロシア産のガス供給が停止されるリスクはひとまず後退した。

デフォルトが不安視されるロシア政府が3月16日に1億1700万ドルのドル建て国債の利払いを履行した後、筆者は次にデフォルト・リスクが高まるタイミングとして、金額が大きくルーブル建ての支払いが認められていない3月31日に期限を迎える約4億5000万ドルのドル建て国債の元利払いと、4月4日に期限を迎える約20億ドルのドル建て国債の元利払いに注目してきた。ブルームバーグ通信は1日、ロシア政府が3月31日が期限のドル建て国債の元利払いを履行したことと、4月4日に期限を迎えるドル建て国債の約7割に相当する14億5000万ドルをルーブルを使って買い戻し、残りの約5億5000万ドルについてはドルで支払いを履行する意向を示唆していると伝えている。欧米などの制裁の一環で外貨準備が凍結されたロシアは、外貨建て国債の返済履行に必要なドル資金不足に直面しているが、今のところ債務を履行し続けている。2022年で最も金額が大きかった4日の支払いを乗り切れば、年内に返済期限を迎える外貨建てロシア国債の残額は約18億5000万ドル、ルーブル建てでの支払いが認められない国債に限れば約15億5000万ドルとなる(図表1)。ロシアが引き続きドル資金不足にある点は変わりがないが、当面のデフォルト・リスクは遠退く。

また、ロシアのプーチン大統領は3月23日、非友好国へのガス輸出の代金支払いをルーブル建てで求める方針を示唆し、3月31日までに政府・中銀・ガス会社に対して新たな支払いメカニズムを準備することを命じていた。外貨獲得手段を失うが、ルーブル安進行に歯止めを掛ける狙いがあるとみられている(図表2)。G7のエネルギー担当相は3月28日に緊急会合を開催し、ルーブルでの支払いに応じないことで一致していた。3月31日に発表された大統領令によれば、ロシアからガスを購入する外国の買い手はロシアの指定銀行にルーブルと外貨の特別口座を開き、買い手が外貨口座に送金した資金を当該銀行がモスクワ取引所でルーブルに交換し、その資金が買い手のルーブル口座に送られ、ガス会社に支払われる。ロシアは新たな支払い条件に従わない買い手への供給を停止すると警告しているが、日米欧は外貨でのガス料金の支払いを継続することも可能とみられ、ロシア産のガス供給が停止されるリスクもひとまず後退した。

(図表1)ロシアの外貨建て国債の返済スケジュール
(図表1)ロシアの外貨建て国債の返済スケジュール

(図表2)ルーブルの対ドル為替相場
(図表2)ルーブルの対ドル為替相場

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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