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英国のグローバル・ブリテン戦略

~オーストラリアに続き、ニュージーランドとのFTA締結で基本合意~

田中 理

要旨

英国とニュージーランドはFTA締結で基本合意。英国にとっての経済効果は限定的だが、ブレグジットの成果を内外にアピールするだけでなく、離脱後の英国が重視するインド太平洋地域でのプレゼンス拡大、来年中の加盟を目指す環太平洋戦略経済連携協定(CPTPP)の追い風となる。

英国は20日、ニュージーランドとの間で自由貿易協定(FTA)を締結することで基本合意した。これは英国がEU時代に締結したFTAを継承するものではなく、6月のオーストラリアとの基本合意に続き、EU離脱後に独自に締結する二番目のFTAとなる(図表1)。合意の詳細は現時点で不明だが、両国は最終的に多くの製品で関税を撤廃し、英国はニュージーランド向けに衣料品、船舶、工作機械などの輸出条件が、ニュージーランドは英国向けにワイン、蜂蜜、キウイフルーツなどの輸出条件が改善する。就労ビザやビジネス渡航の条件が緩和され、英国の弁護士や会計士などがニュージーランドで働くことが容易になる。合意の障害とされたデジタル貿易や金融サービス分野でも一定の進展があった模様。英国の産業界からは合意を歓迎する声が多いが、野党・労働党は英国の農家を犠牲にし、ニュージーランドの食肉業者や酪農業者を利するものと非難している。

3月に発表した英国のブレグジット後・コロナ後の成長戦略(Build Back Better)では、①英国全体の底上げ(Levelling Up)、②気候中立社会への移行(Net Zero)、③世界に開かれた英国(Global Britain)を3つの柱に掲げている。英国の貿易取引に占めるオーストラリアとニュージーランドのシェアは、各々1.3%と0.2%とそれほど大きくない。英国政府の試算によれば、両国との間で関税を撤廃し、非関税障壁の25%を削減した場合、両国向け輸出の増加を通じて長期的な英国のGDPを0.01%ポイント押し上げる(図表2)。非関税障壁の削減幅が50%となった場合でも、長期的なGDPの押し上げは0.02%ポイントにとどまる。成長押し上げの効果は限定的だが、これまでEUがFTAを締結してこなかった国・地域とFTAを締結することは、ブレグジットの成果を語るうえで大きな意味がある。

両国との経済関係強化は、離脱後の英国が重視するインド太平洋地域の関与強化にもつながる。英国は最近、米国とオーストラリアとの間で安全保障協力に関する新たな枠組み(AUKUS)を締結し、外交・安全保障分野でも同地域でのプレゼンスを拡大している。中国への貿易依存度が高いニュージーランドは、過度な対中依存を下げるためにも、貿易相手国の多角化を模索していた。両国とのFTA締結での合意は、英国が今年2月に加盟申請し、6月に正式な加盟交渉が開始された環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)の加盟協議にも追い風となる。CPTPPに加盟する11ヶ国のうち、英国がFTAを締結・合意したのは、これで日本、カナダ、シンガポールなど9ヶ国に上る。FTAを締結していないマレーシアとブルネイも、英国と歴史的に関係が深いコモンウェルス加盟国だ。英国は来年末までのCPTPP加盟実現を目指している。

英国は来年末までに貿易シェアの80%を占める国・地域とのFTA締結を目指しているが、その実現には米国とのFTA締結が必要となる。9月に訪米したジョンソン首相は、バイデン米大統領と初の首脳会談を行い、貿易、安全保障、気候変動など幅広い分野での関係強化を歓迎したが、食品安全基準などを巡って交渉が難航するFTAについては具体的な進展がなかった。来年秋に中間選挙を控えるバイデン政権は、世論の根強い反発がある通商協議よりも、コロナ危機後の経済再生や中長期的な経済活性化に向けた国内政策を重視している。6月に通商交渉に関する大統領の一括交渉権限が失効したこともあり、早期のFTA締結は難しい状況にある。

図表
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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