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ドイツの次期政権発足に一歩近づく

~信号連立の予備協議が開始、CDUのラシェット党首は辞任へ~

田中 理

要旨
  • 社会民主党(SPD)、緑の党、自由民主党(FDP)の3党は7日、信号連立に向けた予備協議を開始。同日、第二党に転落したキリスト教民主同盟(CDU)のラシェット党首は、党首辞任の意向を固めた。これにより、CDU主導のジャマイカ連立の可能性はほぼなくなり、SPD主導の信号連立が実現する可能性が一段と高まった。

難航・長期化が不安視されたドイツの連立協議は、予想以上のスピードで前進しており、第1党に返り咲いた中道左派の社会民主党(SPD)が、環境政党・緑の党とリベラル政党・自由民主党(FDP)とともに「信号連立」を樹立する可能性が一段と高まった。緑の党とFDPは選挙直後から連立に向けた独自の二党間協議を開始するとともに、SPDと第2党に転落したキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との間でも個別協議を重ねてきた。FDPは政策面ではCDU/CSUとの連立が好ましいとしながらも、CDU/CSU内に政権を率いるべきか否かを巡って対立があることを指摘し、SPDとの間で連立協議を開始する意向を伝えた。政策面でSPDと距離が近い緑の党は、CDU/CSUとの可能性を完全には排除していないものの、SPD主導の信号連立を支持している。SPD、緑の党、FDPの3党は7日に予備協議を開始した。予備協議でかなり詳細な連立合意を模索したうえで、正式協議を開始し、最終的な連立合意を交わし、連邦議会での首相指名投票に臨むのが、政権発足に向けた手順となる。SPDは予備協議や正式協議の受け入れ是非を党員投票に諮る可能性があり、毎年12月初旬に行われる党大会が連立合意を承認する場として有力視される。

結党以来で最低の支持に沈んだCDU/CSUは、選挙後の世論調査で一段と支持を落としており、同党を支持した有権者の間でも政権を率いるべきではないとの声が高まっている。党内からも首相候補のラシェット党首の辞任を求める声が相次ぎ、同氏は7日にCDUの党首を辞任する意向を固めた。来週にも新たな党首を選出し、新党首の下で引き続きジャマイカ連立の可能性を模索することを示唆している。だが、首相候補として選挙を戦っていない人物が連立協議を率い、次期政権で首相に就任することには、有権者からの反発が避けられない。ラシェット氏の党首辞任で、ジャマイカ連立の可能性はほぼなくなったと考えられよう。後継党首の有力候補として考えられるのは、親ビジネスで保守回帰の反メルケル路線を訴えるメルツ元連邦議会の議員団代表、党内穏健派で外交通のレットゲン元環境・自然保護・原子力安全相、前回党首選でラシェット氏の支持に回った若手改革派のシュパーン保険相などが考えられよう。ただ、メルツ氏は二度の党首選で敗北し、レットゲン氏に党内の幅広い支持を得る影響力はなく、シュパーン氏はコロナ危機対応で評価を落とした。なお、姉妹政党のCSUは、CDUの党首選出手続きには参加しない。

ジャマイカ連立の可能性があるとすれば、信号連立の協議が暗礁に乗り上げた場合に限られる。選挙結果からは、信号連立、ジャマイカ連立、SPDとCDU/CSUの二大政党による大連立以外に、議会の過半数を確保可能な組み合わせはない。前回2017年の選挙後、初めに模索されたのはジャマイカ連立で、それが暗礁に乗り上げた結果、大連立で落ち着いた。ジャマイカ連立協議を打ち切ったFDPは有権者から無責任と糾弾され、その後長らく支持低迷に苦しんだ。今回も協議打ち切りの首謀者となれば、世論の風当たりは相当なものが予想される。信号連立の予備協議が開始された以上、多少の政策面での譲歩を余儀なくされたとしても、このまま連立合意をまとめる可能性の方が高い。万が一、信号連立が暗礁に乗り上げれば、ジャマイカ連立が模索され、それでも協議がまとまらない場合、残す選択肢は大連立か非多数派政権か再選挙以外になくなる。ただ、SPD主導の大連立に加わるのはCDU/CSU内に相当な反発が予想され、ラシェット氏に代わる新党首がそれを受け入れる可能性は極めて低い。こうしたことを考え合わせると、ドイツの次期政権はSPDのショルツ氏が率いる信号連立で落ち着く公算が大きい。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 欧州・米国経済

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