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PEPP終了時の崖回避に向けて

~ECBはPEPPに代わる新たな資産買い入れプログラムの導入を検討~

田中 理

要旨
  • ECBは来年3月末に期限を迎えるパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)に代わり、新たな資産買い入れプログラムの導入を検討している。新たなプログラムは従来の買い入れルールに縛られない柔軟な制度設計が検討されている模様。買い入れの規模や対象、どの程度の柔軟性を持つか、「33%ルール」への抵触をどう回避するかなどが焦点となろう。

7日付けのブルームバーグ・ニュースは、事情に詳しい複数の関係者の話として、ECBがパンデミック緊急資産買い入れプログラム(PEPP)の終了時の市場混乱を回避するため、新たな資産買い入れプログラムを検討していると伝えている。新たなプログラムは来年3月末に終了予定のPEPPに代わって導入され、従来の資産買い入れプログラム(APP)を補完する。金融市場参加者や政策当局の間では、PEPP終了時に資産買い入れ規模が一気に縮小する“崖”を警戒する声があった。ユーロ圏ではコロナ危機対応で大規模な財政出動を繰り出した結果、多くの国が巨額の政府債務を抱えている。低金利環境とECBによる大規模な金融緩和で、これまで財政基盤が脆弱な国でも財政不安が表面化することがなかったが、ECBの資産買い入れ縮小で金融市場に動揺が広がる恐れもある。新たな資産買い入れプログラムは、PEPP終了時の市場動揺を防ぐ保険的な役割を担うことになる。

PEPP終了時の崖回避の方策としては、①PEPPの規模を縮小したうえで延長する、②PEPPを終了し、APPを増額する、③PEPPを終了し、新たな資産買い入れプログラムを開始する―ことが考えられる。①に比べて②の方が買い入れの対象やタイミングの自由度が高いが、今回検討が伝えられる③も、従来の買い入れルールに縛られない柔軟な制度設計が検討されていそうだ。ラガルド総裁やデキンドス副総裁など理事会の中核メンバーは最近、12月の理事会でPEPPの代替案を検討する可能性を繰り返し示唆している。理事会メンバーの1人であるエストニア中銀のミュラー総裁は先月、②を崖回避の選択肢として挙げた。同じく理事会メンバーのスロバキア中銀のカジミール総裁は最近、PEPP終了時に資産買い入れプログラムが自動的に拡充される訳ではないと釘を刺した。理事会内の意見集約はこれからとみられるが、主流派メンバーに近い政策当局者の間では、③が有力な選択肢として浮上している可能性がある。

具体的な制度設計は12月の理事会での発表や年明け後の詳報(ECBは過去の政策発表時に、まず制度の大枠を発表し、後日に詳細を発表したことも多い)を待つ必要がある。新たな資産買い入れプログラムを評価するに当たっては、買い入れの規模や対象、どの位の柔軟性を持つか、PEPPで買い入れ対象に加えられたギリシャ国債の取り扱いがどうなるか、買い入れ継続の障害となる「33%ルール」への抵触をどう回避するか―などが焦点となろう。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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