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ポスト・メルケルの行方

~二大政党と環境政党による三つ巴の戦いに~

田中 理

要旨
  • ポスト・メルケルを占うドイツ連邦議会選挙が1ヵ月半後に迫るなか、最新の世論調査では二大政党の一角を占める中道左派の社会民主党(SPD)が支持を伸ばしている。保守系与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)、環境政党・緑の党とともに、3党の支持率は拮抗しており、選挙戦の行方は混沌としている。

  • 世論調査の結果からは、当初有力視されたCDU/CSUと緑の党による「黒緑連立」では議会の過半数に届かない可能性が出てきた。他に考えられる組み合わせとしては、CDU/CSU、緑の党、リベラル政党の自由民主党(FDP)の3党による「ジャマイカ連立」、緑の党、SPD、FDPの3党による「信号連立」、CDU/CSUとSPDの二大政党にFDPを加えた「ドイツ連立」がある。CDU/CSUが最多票を獲得した場合も、緑の党とSPDが合流し、左派が政権を奪取することも考えられる。

  • 連立協議は難航が予想される。次期政権の政策運営は、どの政党が連立を率いるかだけでなく、連立の組み合わせ、連立内の議席配分と力関係、連立協議での駆け引きと最終的な妥協点などによっても異なってくる。連立内の力関係にも依存するが、一般論としては、緑の党が率いる信号連立、SPDが率いる信号連立、緑の党が率いる黒緑連立、緑の党が率いるジャマイカ連立、SPDが率いるドイツ連立、CDU/CSUが率いるジャマイカ連立、CDU/CSUが率いる黒緑連立、CDU/CSUが率いるドイツ連立の順に財政拡張度合いが高まろう。

9月26日にドイツ連邦議会選挙が迫るなか、ポスト・メルケルを占う選挙戦の行方は混沌としている。昨年春の感染第一波では手堅い危機対応で感染を封じ込めたことが評価され、政権を率いるキリスト教民主同盟(CDU)とバイエルン州だけで活動する姉妹政党のキリスト教社会同盟(CSU)が大きくリードしていた(図表1)。だが、昨年秋の感染第二波と年明け後の感染第三波では、ワクチン接種の遅れやマスク調達を巡る与党議員のスキャンダルが響き、CDU/CSUは支持を落とした。気候変動対策への関心の高まりと長年のメルケル施政への倦厭感もあり、環境政党・緑の党がベアボック共同党首を首相候補に発表した直後の5月には、両党の支持が一時逆転した。ベアボック氏の経歴詐称や盗用疑惑が浮上するなか、緑の党の勢いは続かず、ワクチン接種の進展が評価されたこともあり、その後はCDU/CSUが再逆転した。

CDU/CSUの勝利で固まったかに思えたが、7月下旬にCDU/CSUの首相候補のラシェット党首が被災現場で笑みをこぼす姿が報じられ、選挙戦が本格化するなかでCDU/CSUは再び支持を落としている。CDU/CSUと緑の党が失った支持を集めたのが、二大政党の一角で連立政権に加わる社会民主党(SPD)だった。最新の世論調査では、CDU/CSUが20%台前半で僅かにリードするが、緑の党が20%前後でやや盛り返し、SPDが20%近くで猛追している。

世論調査の結果からは、どの政党が勝利しても単独での政権発足は難しい情勢にある。7政党・6会派が議席を獲得するとみられるが、最右派勢力のドイツのための選択肢(AfD)は連立候補から除外される。中道路線のメルケル政権下で独自色を失ったSPDは、CDU/CSUとの「大連立」(二大政党による連立を意味する)から距離を置く。そこで当初、有力視されたのが、CDU/CSUと緑の党による「黒緑連立」(両党のイメージカラーの配色)だった。だが、最新の世論調査によれば、2会派・3政党では議会の過半数に僅かに届かない可能性が出てきた(図表2)。

他に考えられる連立の組み合わせとしては、CDU/CSUと緑の党にリベラル政党の自由民主党(FDP)を加えた「ジャマイカ連立」(各党のイメージカラーがジャマイカ国旗の配色に似ているため)、緑の党、SPD、FDPの3党による「信号連立」(信号の配色に似ているため)、やや可能性は低くなるが、CDU/CSUとSPDの二大政党にFDPが加わる「ドイツ連立」(ドイツ国旗の配色に似ているため)がある。

連立協議は難航が予想される。ドイツでは近年、二大政党の集票力低下と議席獲得政党の増加で、連立協議が長期化する傾向にある。前回2017年は投開票から政権発足までに171日を要した。CDU/CSUが最大勢力となった場合も、SPDと緑の党の左派勢力が結集し、政権を奪取する可能性も残る(信号連立)。ジャマイカ連立と信号連立は何れも、環境重視の緑の党と親ビジネスのFDP間の政策相違が政権発足の障害となり得る。FDPは前回選挙後に合意間近とみられたジャマイカ連立の協議を打ち切ったことを有権者から糾弾され、最近まで支持低迷に苦しんできた。再び連立合意不成立の原因とみられるのは回避したいと考えているが、今回も歩み寄りが難しい場合には、改めて二大政党を軸としたドイツ連立の可能性が浮上する。

次期政権の政策運営は、どの政党が連立を率いるかだけでなく、連立の組み合わせ、連立内の議席配分と力関係、連立協議での駆け引きと最終的な妥協点などによっても異なってくる。連立内の力関係にも依存するが、一般論としては、緑の党が率いる信号連立、SPDが率いる信号連立、緑の党が率いる黒緑連立、緑の党が率いるジャマイカ連立、SPDが率いるドイツ連立、CDU/CSUが率いるジャマイカ連立、CDU/CSUが率いる黒緑連立、CDU/CSUが率いるドイツ連立の順に財政拡張度合いが高まろう。

図表
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以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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