あえて利上げに踏み込むFED高官

10年1.2%はクラリダ・ライン?

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年末までに資産購入を終了、23年後半に利上げを開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場は下落。NYダウは▲0.9%、S&P500は▲0.5%、NASDAQは+0.1%で引け。VIXは18.0へと上昇。変異株の感染拡大が嫌気され、主力銘柄は利益確定売りに押された。
  • 米金利カーブは中期ゾーンが金利上昇。クラリダ副議長のタカ派発言に反応。利上げ観測が後退していたこともあり、やや大きめの反応がみられた。
  • 為替(G10通貨)はJPYが最弱。USD/JPYは109半ばまで上昇。コモディティはWTI原油が68.2㌦(▲2.4㌦)へと低下。銅は9466.0㌦(▲75.5㌦)へと低下。金は1810.5㌦(+0.4㌦)へと上昇。

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経済指標

  • 7月ISM非製造業景況指数は64.1と市場予想(60.5)を大幅に上回り、統計開始以来の最高を記録。事業活動(60.4→67.0)、新規受注(62.1→63.7)が上昇し、注目の雇用(49.3→53.8)は大幅に改善し50を上回った。その他ではサプライヤー納期(68.5→72.0)が上昇。変異株の感染拡大をよそに経済活動正常化は進んでいる。また同日発表されたサービス業PMI(IHS Markit)は59.9へと速報値から上方修正された。異常値的高水準から低下したものの、依然として力強いリバウンドを示唆する領域にある。

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  • 7月ADP雇用統計によると民間雇用者数は前月比+33.0万人と市場予想(69.0万人)を下回った。6日発表のBLS雇用統計のダウンサイドリスクを意識させる結果であるが、この指標の予測精度は速報値段階において必ずしも高くはない。

注目ポイント

  • 8月4日のクラリダFRB副議長の発言は金融市場に漂う過度なハト派観測を牽制する含意があったように思える。まず、2022年1Q開始がコンセンサスとなっているテーパリングについては、減額の条件を満たしていないものの、その達成に近づいており「私のベースライン予測が実現すれば、FRBが年内にテーパリングを発表することを支持する可能性がある」とした。そのうえで労働市場については「2022年末までに雇用が十分な回復を遂げる」として「利上げに必要な条件は22年末までに満たされると確信している」とした。そうした認識を前提に「2023年に金融政策の正常化を始めることは我々の柔軟な平均インフレ目標の枠組みと完全に一致する」として2023年の利上げ開始を明示的に言及した。

  • この発言の直前まで市場参加者の利上げ観測は後退していた。政策金利見通しを反映する2年金利はタカ派色の強かった6月FOMC以前の水準に迫る勢いで低下し、OIS金利も2年先や3年先が低下基調にあった(上部にグラフあり)。そうした下でイールドカーブは5年以下の年限が低下、それに伴い10年金利は1.2%を割れていた。クラリダ副議長は市場参加者の金利見通しが過度に後退することで、今後FEDが利上げのシグナルを発した際に、長期金利が急反転するリスクを懸念していたのではないか。10年金利の1.2%は「クラリダ・ライン」として意識される可能性がある。

  • またクラリダ副議長は「インフレの見通しに対するリスクは上向きだ」との認識を示し、「2021年のコアインフレ率が3%超となった場合、2%の長期インフレ目標に対する『適度』な超過とはみない」として、インフレ率上振れを警戒する姿勢を示した。ただし、やや長い目でみると、今後、金融政策を読むうえでインフレ率の重要度は低下する可能性が高いと思われる。タカ派色の強かった6月FOMCでは、大半のFOMC参加者が自身のインフレ見通しにアップサイドリスクを認識していることが明らかとなり、市場参加者の間では、今後更にインフレ率が高まればFOMCの総意がタカ派に傾斜すると受け止める向きが多かったが、それは裏を返すと大半のFOMC参加者(クラリダ副議長を含む)が政策金利見通しにインフレ率のアップサイドリスクを織り込んでいたということである。今後インフレ率が予想を上振れたとしても、金融政策に与える追加的な影響は限定的と考えることができる。

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藤代 宏一


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