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ドイツ緑の党旋風もここまでか

~与党が再逆転、週末の州議会選も制す~

田中 理

要旨

週末のドイツ東部ザクセン=アンハルト州議会選挙は、秋の連邦議会選挙で勝利を目指す与党キ リスト教民主同盟(CDU)が圧勝。各種世論調査でも緑の党から支持を奪還し、CDUが再逆 転するものが目立つ。ただ、再逆転後も緑の党が主導する連立政権の発足は可能。緑の党の支持 が20%を割り込み、CDUの支持が30%に接近すると、緑の党の政権奪取の芽がなくなる。

9月のドイツ連邦議会選挙で政権奪取を狙う環境政党・緑の党が4月にベアボック共同党首を、保守系与党・キリスト教民主同盟・社会同盟(CDU・CSU)がラシェットCDU党首をそれぞれ首相候補に選出して以降、多くの世論調査で両党の支持率が逆転していたが(詳しくは4月21日付けレポート「ドイツ政界に激変の予兆」を参照されたい)、ここにきて与党が再逆転するものが目立ってきた(図表1)。ドイツでは主に8つの調査会社が定期的に政党支持率を発表しているが、このうち6つの最新調査で与党が24~27.5%の支持を獲得し、21~25%の緑の党を上回っている。発表頻度が高いINSAの調査は、他の調査に比べて与党の支持率が高めに出る傾向があり、緑の党に最も勢いがあった4月下旬から5月初旬の時期でも与党と緑の党が同率首位で並んでいた。与党再逆転の報道が目立つのはそうした理由もある。だが、緑の党が今もリードを保つ2調査の集計日は5月10~11日(Infratest dimap調査)と5月18~20日(Forschungsgruppe調査)とやや古く、こちらも次の調査では再逆転する可能性が高い。

(図表1)ドイツの政党別支持率の推移
(図表1)ドイツの政党別支持率の推移

こうした情勢下、連邦議会選挙前で最後となる州議会選挙が6日にザクセン=アンハルト州で行われ、与党CDUが30%台後半の支持を獲得し、20%台前半にとどまった右派ポピュリスト政党・ドイツのための選択肢(AfD)をかわし、第一党の座を守った(図表2)。旧東ドイツ地域で一般的に不人気の緑の党は2016年の前回選挙より僅かに上乗せしたが、1桁台の支持獲得にとどまった。秋の連邦議会選挙に向けて党勢立て直しを目指す与党CDUにとっては追い風となる選挙結果となった。マスク調達を巡る与党議員のスキャンダル発覚やワクチン接種の遅れが与党の逆風となってきたが、ここにきてドイツのワクチン接種が加速している。経済活動再開による景気回復も与党の支持拡大につながりそうだ。

(図表2)ドイツ・ザクセン=アンハルト州議会選挙の獲得票率(%)
(図表2)ドイツ・ザクセン=アンハルト州議会選挙の獲得票率(%)

もっとも、与党の再逆転で緑の党が主導する政権誕生の芽がなくなった訳ではない。再逆転後の調査では、緑の党、中道左派の社会民主党(SPD)、左派政党の左翼党(LINKE)の左派3党による連立政権(左派連立)の発足には僅かに届きそうにないが(合計獲得議席が47~49%程度)、緑の党、SPD、リベラル政党の自由民主党(FDP)の3党(党のイメージカラーの配色から緑赤黄連立もしくは信号連立と呼ばれる)の合計獲得議席は全ての調査で50%を上回る(図表3)。この場合、例えCDUが第一党の座を守っても、政権の座を追われる可能性が出てくる。今の世論調査の居所でCDUが引き続き政権を担うには、緑の党と連立を組む(黒緑連立)か、SPDとFDPの3党で連立を組む(黒赤黄連立もしくは国旗の配色からドイツ連立と呼ばれる)必要がある。CDUと緑の党とFDPの3党連立(黒緑黄連立もしくはジャマイカ連立)、CDUと緑の党とSPDの3党連立(黒赤緑連立もしくはケニア連立)はさらに議会基盤が強固となるが、その分、連立協議が難しくなる。逆に緑の党が主導する政権の可能性が完全になくなるのは、緑の党の支持率が20%を割り込み、CDUの支持率が30%に接近する場合となろう。緑の党にとっても、連立入りで左派の国民政党としての地位を失うSPD、政策主張の異なるLINKEとの難しい連立協議をまとめる以外に政権奪取の道はない。

(図表3)世論調査に基づくドイツ連立政権の獲得票率
(図表3)世論調査に基づくドイツ連立政権の獲得票率

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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