ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

誰もが暮らしやすい社会を目指して

~ユニバーサルデザインの課題と展望~

後藤 博

目次

1. なぜ、今ユニバーサルデザインが求められるのか?

近年、日本社会においてユニバーサルデザイン(UD)が注目されている。その背景には急速に進行する少子高齢化の影響がある。内閣府『令和7年版高齢社会白書』によると、2030年には、65歳以上の人口が全体の約30%を超えると予測されている(図表1)。高齢者のみならず、障害者、妊産婦、子連れの家族、外国人など、様々な立場の人々が共に暮らしやすい社会の実現が望まれる。

図表1
図表1

ユニバーサルデザイン(UD)とは、「すべての人にとって使いやすいように、あらかじめ設計する」という思想である。従来のバリアフリーが既存の障壁を除去する後付け的な考え方であったのに対し、UDは最初からバリアのない環境をつくることを目指す。これは、真に共生する社会の基盤となる考え方である。

また、UDの導入は経済的観点からも重要である。多くの人に使われる商品やサービスは市場の拡大をもたらし、新たなビジネスチャンスを生み出す。加えて、労働力人口が減少する中で、多様な人材が能力を発揮できる環境を整備することは、生産性の向上にも寄与する。すなわち、UDは福祉のためだけでなく、経済の活性化にも資する社会戦略といえる。

2. どの段階にいるのか?ユニバーサルデザインの現在地は

UDの認知度は着実に向上している。内閣府の調査によれば、「あなたはユニバーサルデザインという言葉とその意味を知っていますか」(UDの認知度)という問いに「知っている」「どちらかといえば、知っている」と回答した人の合計割合は74.2%に達している(図表2)。一方で「日常生活や社会生活を送る上で、どの程度バリアフリー化やユニバーサルデザイン化が進んだと思いますか」(UDの進展度)の問いに「十分進んだ」「まあまあ進んだ」と回答した人の割合は全体で37.6%と、認知度の半数程度にとどまっている。

すなわち、UDは概念としては広まりつつあるが、生活実感との間にはギャップが存在することがうかがえる。

図表2
図表2

また、内閣府「令和5年度バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書」によると、交通機関では「鉄軌道駅」「航空旅客ターミナル」、施設では「病院、診療所等の医療施設」「老人ホーム等の福祉施設」など、UDの進展度が比較的高いものがある一方で、建築物などによって差があり、社会全体において「当たり前」のものとして定着しているとは言い難い(注1)。多くの場面では、健常者を前提とした「標準的な設計」に留まっており、利用に困難を感じる人々が少なくない。

障害者差別解消法や高齢者・障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(通称:バリアフリー法)などが整備されたことで、UD推進のための法的な基盤は整いつつある。しかしながら、企業や自治体、そして一般市民の間には、理解や意識においてばらつきがあり、政策の実効・実感度合には課題が残っている。

現代の日本社会は、既存の障壁を後から取り除く「バリアフリー」から、最初からすべての人に使いやすい設計を目指す「ユニバーサルデザイン」への転換期にある。この転換を確かなものにするためには、設計思想そのものの根本的な見直しが求められる。

3. どのようにしてゴールを目指すのか?今後の展望・提言

UDが目指す社会の姿は、誰もが不便なく暮らし、社会に参加できる「共生社会」である。これを実現するには、行政、企業、教育機関、市民、NPO(民間非営利活動団体)など、多様な主体がそれぞれの役割を自覚し、連携して取り組む必要がある。

1)行政

行政は社会全体のインフラ整備を主導する立場にあり、公共空間や制度設計にUDの視点を最初から取り入れることで、社会全体の基盤を根本的に変えることができる。したがって行政の役割は、UDを都市計画や交通政策、住宅整備などに反映させると同時に、民間へのガイドライン提示や財政的支援(補助金・税制優遇)などを行うことである。また、民間企業のUD推進を促すためのインセンティブを提供することで、社会全体への浸透を加速させる役割も求められる。

2)企業

企業にとって、UDは単なる社会貢献活動ではない。市場の拡大につながる重要な経営戦略として、UDは多様な顧客層を獲得し、新たなビジネスチャンスを生み出すことができる。また、職場環境をUD化することで、多様な人材が能力を発揮しやすくなり、生産性向上や人材確保にもつながる。

そのためには、商品・サービスの企画・設計にUDの視点を取り入れ、開発段階から多様なユーザーの声を取り込むことが重要である。また、職場においてもUDを踏まえた環境整備と、従業員に対する啓発教育を通じて、包摂的な企業文化の醸成を進めるべきである。

3)教育機関

教育機関は、UDの思想を次世代に浸透させるために、幼少期からの教育が不可欠である。多様性を自然に受け入れる感性を育むことで、将来的に社会のUD化を担う人材を育成できる。また、専門教育にUDを取り入れることで、UDを実践できる専門家を育成し、社会実装を加速させることができる。

このため、子どもたちに多様性への理解と尊重を育む教育を行うとともに、大学や専門学校では建築、情報、福祉などの専門分野においてUDを取り入れたカリキュラムを導入すべきである。

4)市民

市民にとってのUDの理念は、単なる物理的な設計にとどまらず、人々の意識から生まれるものである。このため、日常の中で困っている人への声かけや、地域活動への参加を通じて、UDの理念を実践することが期待される。このように一人ひとりが他者への配慮を実践することで、UDの考え方が社会全体に浸透し、互いに支え合うコミュニティを形成する基盤となる。

5)NPO

NPO(民間非営利活動団体)は当事者に最も近い存在であり、現場のニーズや課題を行政や企業に正確に伝えることができる。そのため、当事者の視点を取り入れた政策や製品開発は、より実効性の高いUDにつながる。また、市民への啓発活動を通じて、UDの理解を深める役割も担う。したがって、当事者の声を反映した政策提言や啓発活動、相談支援を通じて、行政や企業との橋渡しの役割を果たすべきである。

4. ユニバーサルデザインが拓く未来

UDは単なる設計上の工夫ではなく、他者を思いやり、すべての人に開かれた社会を実現するための文化的基盤である。その実現には、制度の整備だけでなく、私たち一人ひとりの意識と行動の変化が求められている。

特に、次世代を担う若者たちには、固定観念にとらわれず、包摂的な社会を構想する力がある。彼らがUDの考え方を自然に受け入れ、行動に移すことができれば、未来の社会はより多様で寛容なものとなるだろう。

また、技術革新の進展もUDを推進する上での強力な後押しとなっている。AIやIoT、音声・文字認識技術、翻訳技術などは、従来の難題に対応する可能性がある。これらの技術と人間中心の設計思想が融合することで、リアルとデジタルの両面において包摂的な環境が実現されていく。

UDは「特別な人のため」ではなく、「すべての人のため」のデザインである。この視点が社会の共通言語となり、誰もが暮らしやすい社会が現実となる日が遠くないことを願う。


【注釈】

  1. 内閣府『令和5年度バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書』
    (2024年2月)より(II調査結果 単年度編 認知度(P89)、進展度(P91)、交通機関(P99)、施設(建築物)(P123))。

【参考文献】

  • 内閣府『令和7年版高齢社会白書』(2025年6月)

  • 内閣府『令和5年度バリアフリー・ユニバーサルデザインに関する意識調査報告書』(2024年2月)

  • 国土交通省『都市公園の移動等円滑化整備ガイドライン(改訂第2版)』(2022年3月)

後藤 博


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。