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2025.07.18
SDGs・ESG
持続可能な社会(SDGs)
環境・エネルギー・GX
安全保障
太陽光発電サプライチェーンの現状と課題
~特定国依存のリスクとセキュリティ強化の必要性~
牧之内 芽衣
- 要旨
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- 太陽光発電は脱炭素化の主力エネルギーとして急速に普及しているが、そのサプライチェーンは中国に大きく依存している。2023年時点で世界の累積容量は約1,412GWに達し、中国の累積設備容量は約610GWと約4割にものぼる。さらに、太陽光パネルの主要製造工程すべてで中国が80%以上のシェアを占めている。中国政府は国家戦略産業として大規模投資と補助政策を展開し、規模の経済と垂直統合によるコスト競争力を実現している。
- IEAによれば、中国の過剰生産により太陽光パネルの世界的な供給過剰が発生している。価格低下とともに中国製品の「デフレ輸出」が進み、これにより海外の製造業者は撤退や工場閉鎖に追い込まれているとの分析もある。
- 特定国への過度な依存は供給網の脆弱性を生む。EUは太陽光パネルの約9割を中国から輸入しており、中国が輸出を停止する事態になれば、追加費用や大幅な導入遅延が発生する可能性があると懸念されている。
- 太陽光発電の中核機器であるインバーターは、遠隔操作が可能なためサイバーセキュリティの脆弱性が指摘されている。
- 2025年4月28日にはスペインとポルトガルで大規模停電が発生した。サイバー攻撃の可能性は低いとされているものの、潜在的なリスクとしてサイバー攻撃や不正な遠隔操作などに対する各国の警戒をさらに高める結果となった。
- 日本は製造・調達先の多極化と次世代技術開発に注力している。インバーターのファームウェア更新に関しては、国や関連団体による事前チェック体制の構築や通信端末の国際的なセキュリティ基準整備が急務である。
- 目次
1. 中国の市場支配力
世界的な脱炭素の潮流のなか、太陽光発電は再生可能エネルギーの主力として急速に普及している。しかし、そのサプライチェーンは特定の国、とりわけ中国に大きく依存している。IRENA(国際再生可能エネルギー機関)の報告書「Solar PV supply chains: Technical and ESG standards for market integration」によると、世界の太陽光発電の累積設備容量(全ての発電設備の最大合計出力)は2022年の1,047GWから2023年時点で1,412GWに増加し、そのうち中国の累積設備容量は約610GWと4割強を占める(資料1)。中国国家エネルギー局によると、2024年時点の累積設備容量は887GWに達し、前年から約1.45倍へとさらに大きく成長した。

サプライチェーンの中国依存度はさらに高い。IEA(国際エネルギー機関)のレポート「Energy Technology Perspectives 2024」によれば、現在、太陽光パネルの原材料のポリシリコンから、シリコンを薄く切り出したウエハ、電気を生み出す発電素子となるセル、それらを組み合わせたモジュールという川上から川下までの製造工程のすべてにおいて、中国が世界シェアの80%以上を占める(資料2)。

2. 過剰生産とデフレ輸出
中国政府は太陽光パネルなどの太陽光発電設備を電気自動車(EV)やリチウムイオン電池と並んで国家戦略産業の「新三様(注1)」(新・三種の神器)と位置づけ、2011年から積極的に投資を続けてきた。中国は、政府がターゲットとして定めた産業に巨額の資金を投入し、まず大規模な生産能力を構築する。そして、規模の経済と垂直統合によりコストを徹底的に削減し、市場でのシェア獲得を目指す。中国以外の国では、政府による巨額の資金投入が難しいこと、国内市場規模や人件費などの構造的な制約、環境基準や労働規制の違い、一般的な太陽電池がコモディティ化していることなどのさまざまな要因により、中国のように規模の経済や垂直統合によってコストを下げることは容易ではない。中国は先述の戦略を通じて太陽光発電設備の製造能力を飛躍的に拡大させ、現在では世界全体で供給過剰の状況を招いているとされる。IEAによると、2024年の世界全体の太陽光パネルの供給能力は需要の約2.5倍に膨らんだ。価格の急落は中国メーカー自身にも逆風となっているものの、IEAなどによると、市場での支配力を維持するために過剰生産を続けているとみられる。その結果、中国国内で消費しきれなかった太陽光発電設備が国外に輸出される「デフレ輸出」の傾向が見られ、これが原因で一部の国々では太陽光発電設備の工場閉鎖や操業停止が相次いでいるとの分析もある(注2)。
3. サプライチェーン上の脆弱性
特定国への過度な依存は供給網の脆弱性を生む。ロシアによるウクライナ侵略などに端を発したエネルギー危機を契機にエネルギー安全保障の重要性を認識したEUにとって、脱ロシアを急ぐ代わりに、中国が新たな依存先として浮上したことは一種のジレンマとなっている。EUでは2023年時点で太陽光パネルや素材の9割を中国からの輸入に頼っていた。英国のシンクタンクCSRI(China Strategic Risks Institute)は、台湾有事などを引き金に中国が太陽光発電設備の輸出を禁止するような事態になれば、EUでは2030年までに累計460億ユーロ(一人当たり約103ユーロ)の費用が追加的に発生し、再生可能エネルギー導入計画が大幅に遅延する可能性があると予想している(注3)。
中国は2010年にレアアースの対日輸出制限を行った(注4)ほか、2020年にもオーストラリア産石油の禁輸を行うなど、しばしば輸出入を交渉カードとして用いてきたことが指摘されている。このため、将来的に再生可能エネルギー関連の供給網を戦略的カードとして用いる可能性に対して各国が備える必要があるとして、国際社会から警鐘が鳴らされている。本来グローバルな気候変動対策の柱であるはずの再生可能エネルギーの製造を巡って各国の思惑が交錯する状況となっている。
もっとも、再生可能エネルギーは化石燃料と異なり、日照や風といったエネルギー源自体が、利用しても目減りするものではない。中国製の設備に依存した太陽光発電所を建設した後に中国による輸出停止の事態などが発生しても、既存のパネルがすぐに発電を止めるわけではないという指摘もある。ただし、新規導入が滞るリスクや、後述の通り、機器の遠隔制御リスクが存在する。
4. 太陽光パネルとインバーター
ここで、太陽光パネルとインバーターという2つの太陽光発電設備機器の役割を明確にしておく。太陽光パネル(モジュール)は、太陽光を受けて直流(DC)の電気を発生させる装置だ。一方、インバーター(パワーコンディショナー)は、この直流の電気を、家庭や電力網で使用している交流(AC)に変換して電力系統へ送電する機能を持つ。
交流(AC)が一般に採用されている主な理由は、送電の効率性と安全性にある。交流は変圧器を使って簡単に電圧を上げ下げできるため、長距離送電において高圧送電を行うことにより電力損失を抑えることができる。そして、消費地点では低電圧へ確実に変圧して配電できるため、過電圧による機器損傷や感電のリスクを低減できる。
さらに、インバーターは発電量の制御や系統連系(注5)、発電システムの監視・通信などの役割も担っており、太陽光発電設備の「脳」とも呼ばれる。インターネット経由でデータの送信や遠隔制御が可能なため、セキュリティやデータの安全性の観点で懸念を抱かせる事態が生じているとされる(注6)。
2025年4月28日にはスペインとポルトガルで大規模停電が発生した。要因は送電網の故障や電力需給の急激な変動などいくつか考えられる。サイバー攻撃の可能性は低いとされており、詳細な原因は特定されていない。しかし、潜在的なリスクとしてインバーターのセキュリティ問題への警戒感が高まっている中で起こったこの停電は、サイバー攻撃や不正な遠隔操作などに対する各国の警戒をさらに高める結果となった。国家安全保障と地球環境目標という二つの課題は、どちらか一方を犠牲にするのではなく、持続可能で安全な社会の実現のために両立させていく必要がある。そのために各国政府には複雑かつ高度な政策判断が求められている。
5. 特定国依存脱却に向けた対応策
サプライチェーンの集中・サイバーセキュリティにおける脆弱性・地政学的リスクを踏まえ、日本が講じるべき実務的な対応策を考察する。
(1)製造・調達先の多極化
島国であり、化石燃料の大部分を輸入に依存している日本にとって、再生可能エネルギーの主力電源化はエネルギー自給率の増強にもつながる。日本は1990年代~2000年代前半ごろ、太陽電池で世界を席巻した実績がある。しかし、圧倒的なコスト競争力を背景に、現在は生産の多くが中国に移転・集約された。日本でも経済安全保障の観点からクリーンエネルギー技術の国内回帰が議論されており、政府は次世代太陽電池の有望技術であるペロブスカイト太陽電池(注7)に1,500億円規模の予算を投入して世界に先駆けた商業化を目指している。これには中国の独占状態に挑むねらいがある。
米国はインフレ抑制法(IRA)で税額控除を通じ国内モジュール能力を急拡大させてきた。太陽エネルギー産業協会 (SEIA)によると2025年1月時点で米国は国内の太陽光発電製造能力が50GWに到達し、世界第3位の太陽光モジュール製造国となった。2025年7月に成立した「大きく美しい一つの法案(OBBBA)」により、風力・太陽光プロジェクトの税額控除が厳しくなった側面もあるが、同時に「懸念外国企業(FEOC)」からの製品・資金調達に厳格な制限も課され、米国内製造の優位性を高める狙いがあるとみられる。EUもネット・ゼロ産業法(NZIA)を通じ域内需要の40%を自給する目標を掲げるなど、主要国は内製回帰とフレンドショアリング(注8)を併用してリスク分散を図っている。
(2)サイバーセキュリティ・ガバナンスの強化
インバーターのファームウェア(電子機器を動かすためのソフトウェア)のアップデートについては、スマートフォンアプリの審査プロセスのように、国もしくは国の関連団体などが事前チェックする仕組みの構築が不可欠だ。日本では2022年に「基幹インフラ役務の安定的な提供の確保に関する制度」が成立した。この制度は「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(通称:経済安全保障推進法)」の一部として、国民生活や経済活動に不可欠な基幹インフラ(重要インフラ)の安定的な提供を確保し、外部からの妨害行為等のリスクを低減することを目的としている。2024年5月からは電気事業者が「特定社会基盤事業者」として指定され、重要設備の導入・維持管理時に事前届出と政府審査が義務づけられているが、現状、個別の太陽光発電事業者はこの対象に含まれていない。サプライチェーン管理やサイバーセキュリティ対策の強化を図るうえで、同制度の枠組みを参考に適用拡大を検討する余地があるのではないか。また、PKI(注9)を活用した電子署名検証や、分散型台帳による更新履歴管理など、技術的・制度的両面での強化も求められる。インバーターの通信端末のセキュリティについても、国際標準化機関(IEC等)による認証制度の義務化や、サブネットワーク分離・継続的監視の厳格な規制が必要である。
6. おわりに
太陽光発電は脱炭素化の推進力である一方、そのサプライチェーンが一国に集中することは、供給途絶・貿易摩擦・サイバー攻撃といった多面的なリスクをはらんでいる。各国は国内製造回帰やフレンドショアリング、次世代技術の育成を通じて依存度を段階的に低減しつつあるが、電力網の「神経系」であるインバーターの安全性を確保しなければ、本質的なレジリエンス強化とはならない。インバーターの制御のために組み込まれたファームウェアの事前審査制度および通信端末セキュリティ基準の国際標準化は、再エネ時代のエネルギー安全保障を支える基盤となる措置である。コスト競争力と安全保障を両立させ、持続可能で信頼性の高いクリーンエネルギー社会を構築するためには、製造・調達先の多極化支援、サイバーセキュリティ基準の統一化といった政府レベルでの政策協調、産業界レベルでの信頼できるサプライヤーとの長期契約やセキュリティ強化、国際機関レベルでの統一基準策定と多国間協定締結が不可欠である。こうした取組を通じて、競争と協調の最適バランスを追求することが重要である。
【注釈】
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「三様」はもともと1970~80年代に日本を中心に多く輸出された自転車・ミシン・時計を指していた。近年では、これに代わる新たな主な輸出産業の柱として、太陽光発電設備・電気自動車(EV)・リチウムイオン電池を「新三様」と呼ぶ。
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IEA“Energy Technology Perspectives 2024”では、2023年時点で中国は世界の太陽光パネル需要の2倍以上の製造能力を有すること、米国での製造コストは中国よりも最大40%、EUでは45%高いことが示されている。BloombergNEFの“Solar Supply Chain Update 2024”では、2024年の世界モジュール製造能力は実際に設置される容量の約2倍となり、結果として太陽光パネルの価格は昨年比で約50%下落すること、これを受けて中国以外の地域では採算割れを理由に工場閉鎖や操業停止が相次いでいることなどが報告されている。
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台湾有事などを契機に中国がポリシリコンやウエハの輸出を全面禁止し、5年間の供給途絶が起こった場合のシナリオを基に、新設できなくなる太陽光発電容量と、その代替エネルギーのコストを算出している。
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中国は、2010年9月に尖閣諸島沖で起きた中国漁船衝突事件などをきっかけに日中関係が悪化した際、日本に対する制裁措置としてレアアースの対日輸出を規制した。2012年3月に日米EUでWTOに提訴し、2014年にWTO上級委員会で日米EUの主張が認められた。その結果、2015年から中国は対日レアアースの輸出枠と輸出品への課税を撤廃することとなった。
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発電設備を送電網や配電網に接続すること。系統は全体が同じ周波数で同期されており、わずかなずれでも大規模停電の原因となる。
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2025年5月、ロイター通信は米政府関係者の話として「米国の電力網に接続された中国製インバーターの一部から製品仕様に記載されていない不審な通信デバイス(隠し通信モジュール)が発見された」と報じた。通常、米国の電力会社は太陽光発電設備などが勝手に中国と通信できないよう、電力網のネットワークにデジタルの防壁(ファイアウォール)を構築して、不正な通信や遠隔操作をブロックしている。しかし、発見された隠しデバイスは防壁を迂回する裏口通信チャネルを提供し得るもので、万一悪用されれば防壁の外から装置を遠隔操作で停止させたり設定を変更したりできる可能性があるという。
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ペロブスカイト太陽電池は、現在主流のシリコン系太陽電池と比べて薄く軽量で、しなやかに曲げることのできる太陽電池をいう。主な材料はヨウ素で、日本はヨウ素の生産量が世界2位であることから、太陽電池の国産化のねらいもある。エネルギー自給率が12.6%(2022年度)と低い日本での再生可能エネルギーの導入加速に向けて商業化が期待されている。
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同盟国や友好国など、地政学的リスクの少ないサプライチェーンを展開することをいう。
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Public Key Infrastructureの略で、公開鍵暗号技術と電子署名を使って、インターネット上で安全に通信するための仕組みをいう。電子証明書により、通信相手が偽物ではないことを証明することができる。
【参考文献】
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BloombergNEF(2024)“Solar Supply Chain Update 2024”
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IEA(2024)“Energy Technology Perspectives 2024”
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IRENA(2024)“Solar PV supply chains: Technical and ESG standards for market integration”
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CSRI(2023)“Building a Green Fair and Resilient Solar PV Supply Chain」
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ロイター通信”Rogue communication devices found in Chinese solar power inverters”(2025年5月15日)
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NIKKEI ASIA「スペイン・ポルトガルの停電を受け、中国製太陽光発電部品が精査される(2025年5月17日)」
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牧之内芽衣(2023)「【1分解説】ペロブスカイト太陽電池とは?」
牧之内 芽衣
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

